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コラム「研究員のココロ」

フランスにおける医療と福祉の連携 現地調査報告(その1/全3回)

2002年12月30日 岡元 真希子


 高齢者のケアにおいて、医療と福祉の連携というのは必須の課題と考えられる。急性の疾患が安定し、医療ケアが一段落した高齢者は、継続的なリハビリテーションや看護・介護を必要とすることが多い。逆に、自宅や施設で暮らす高齢者の多くは慢性疾患を抱えており、医療的な経過観察や病状の変化に応じた医療ケアが必要である。


 しかし現在の日本の制度下では、医療は医療法人などの非営利法人、福祉は社会福祉法人や民間事業者が提供している。ひとつの事業体で、医療・福祉の両方のサービスを連続的に提供しようとすると、それぞれの分野で別個の法人を設立するなどの手続きが必要になることが多い。一方、これらの法人の設立の手続きや許認可は厳しく、新規参入はハードルが高い。


 以上のような問題意識のもと、諸外国において医療と福祉をどのように連続的、統合的に提供しているかについて調査を行った。本報告ではフランスについて、現地の高齢者福祉施設や行政機関を訪問して得られた示唆を取り上げる。


1. 公的セクターの役割が大きい医療・福祉分野

 フランスでは医療機関・福祉施設の経営主体に関する制約はなく、民間営利企業、民間非営利組織も設立できる。またひとつの法人の下に、医療機関と福祉施設の両方をあわせ持つことができる。しかしながら定員数や病床数を比べると、高齢者ホームの過半数、病院の4分の3が公的セクターによる運営である。またフランスは国民皆保険の疾病保険制度をとっており、疾病保険の予算は国会の審議事項である。福祉においては介護保険制度に類似する「個別自律手当」が 2002年に始まったが、財源は県(税)と老齢年金金庫である。

図表:高齢者施設のセクター別定員数
(1996年12月末時点)

(資料) DREES Informations Rapides N° 102 septembre 1998 www.sante.gouv.fr/drees/inforap/ir-pdf/ir102.pdfより作成

図表:病院のセクター別シェア
(1999年1月初時点)


(資料) DREES Statistique annuelle des Etablissements de sante 1998 N° 25 septembre 2001
www.sante.gouv.fr/drees/seriestat/seriestat25.html より作成

 フランスの医療・福祉において、供給面、社会保障面、財政面のいずれにおいても公的セクターの影響力は強い。公的セクターでは、公立病院の長期療養病床で高齢者の長期ケアを行うだけでなく、公立病院の中に高齢者ホームを設けたり、公立高齢者ホームの中に医療を行うことのできるように整備をおこなったりしている(注: ハードとしての設備ではなく、何人分の医療を提供するという条件で予算を獲得して必要な人員配置をしている)。

図表:高齢者ホームの中の医療化の状況
(1996年12月末時点, 定員数)

 フランスの公的施設のように「自前」で医療から介護までを一体的に提供している例は、今後の日本の民間事業者にとっての参考事例となりづらいと判断し、民間事業者を中心に調査を実施した。訪問したのは、パリ近郊の高齢者ホーム、痴呆高齢者専門高齢者ホーム、トゥールーズ市近郊の高齢者ホームなどである。



(参考) パリ: フランスの首都、人口964万人(うち市内213万人)
トゥールーズ: 南仏の飛行機産業の都市、人口76万人(うち市内39万人)



第2回目につづく
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