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コラム「研究員のココロ」

飛躍する健康ビジネス

2002年12月23日 高橋 克己


 「健康ビジネス」という言葉から想像される内容はどのようなものだろうか。健康食品やフィットネスクラブを思い浮かべられる方が多いのではなかろうか。コンビニ検診やネット上の健康情報サイトも目につくようになった。物知りの方は、腕時計型の計測器から体温、血圧等をデータベースに送信し、ネット上で個人の健康管理や指導を行うシステムがあることも知っていらっしゃるだろう。


 健康を否定する人はいないだろし、何らかの身体不調を訴える中高年の比率が高まることから「健康ニーズ」が高まるのは間違いない。健康ビジネスは伸び盛りのビジネスのように見える。


 しかし「健康」が「ビジネス」としてストレートに成立するかは疑問が残るところだ。健康増進の代表格であるフィットネスクラブはここ10年以上も 3,000億円市場のまま低迷している。ジョギングやウォーキングをする人が増えているが、スポーツシューズの売上は5年前の1割減だ。万歩計や体脂肪計は中国等から低価格品が輸入されて値崩れを起こしているのに購入は増えない。健康の維持、増進には生活習慣の改善、すなわち食生活、運動、節酒禁煙が有効であることは明らかであるが、そのために投資や努力をする人は限られているのである。


 一方で、「健康になる食品」「健康になる衣服」が出現するなど、日用品に「健康」を切り口とする商品が人気を博している。見方によれば、ミネラルウォターからマイナスイオン付き家電まで、家庭内は健康グッズであふれている。今後伸びる健康ビジネスのキーワードを紹介する。


「健康」で得をする人がターゲット


 健康管理の代表格である健康診断・人間ドックは1兆円市場であるが、これに要する費用は個人負担ではない。健康診断のお金の出所は企業または地方自治体である。人間ドックも健保組合が一部または全額補助するケースが多く、全額自費で利用する人は限られている。健保財政は火の車であり、少しでも給付を減らそうと健康管理指導を丹念に実施するケースが増えている。これらも費用は企業や健保組合の負担である。日々の体温・血圧等から個人の健康状態をモニターする遠隔健康管理も自治体が費用負担するケースが大半である。


 一方、自己負担が主のフィットネスクラブは参加率が伸びていない。健康情報を提供するサイトが増えているが、有償のものは稀である。最近はコンビニ検診やMRIを使った脳検診等が出現しているが市場規模は知れている。


 少なくとも物品をともなわない「健康サービス」については自己負担の市場規模は大きくない。「健康」で得をするのは個人なのだが、健康のために投資をする個人は限られている。『健康で得をする人』とは、健康であること、すなわち健康保険の給付が抑制できることで恩恵を受ける健康保険組合なのである。健康サービスの有望売り込み先は企業、健保組合、地方自治体、ないしは付加価値として健康サービスを提供するカード会社や生損保などということになる。個人向け健康サイトをはじめ健康サービスビジネスが多数出現しているが、ビジネスモデルの組立てを間違えると痛手を蒙ることになる。


「健康テイスト」で差別化を


 無農薬野菜、自然食品を代表とする体に悪いものを取り除くトレンドは以前からあった。しかし特定保健用食品が制度化されたのを機に、今では健康にプラスになるものが主流となりつつある。


 飲めば健康になるコーヒー、食べると体に良いスナック菓子、歯を健康にするガム等が出現している。この流れは食品に限らない。着ているだけで健康になる下着(皮下脂肪減少効果成分を織り込んだ下着、足の疲れを和らげる圧縮機能ストッキング等)が出現している。マイナスイオン発生機能付きのエアコンもこの流れの延長上であるし、糖尿病対策で尿糖値を検査できる便器も出現している。最近では健康志向をうたい文句にするマンションの広告も目につく。


 食品もエアコンも無尽蔵に消費・購入できるものではない。どうせ購入するのなら、多少高くても健康に良さそうなものを購入しようとの消費者心理を突いた商品戦略だ。花王のエコナ(食料油、マヨネーズ等)は類似商品の数倍の価格帯だが、着実にシェアを伸ばしている。消費者は特別の努力と投資には慎重だが、日常消費するものなら高付加価値を求める。健康によいことを訴求する「健康テイスト」の商品で、根拠に基づくもの、効果の高いものが売れ行きを伸ばしている。


「楽して痩せたい」


 健康のためにと思ってフィットネスクラブに通ったり、ウォーキングをはじめても三日坊主という人も多いだろう。フィットネスクラブは3,000億円市場だがゴルフ(ゴルフ場、練習場)は1.6兆円もある。フィットネスクラブ市場が伸びないのは詰まるところ、楽しくないからだろう。少しでも楽しめるようにとバイク(自転車こぎマシン)にこぐ速さに連動するゲームを付けた機器が実在する。さらには、マシン自体が稼働して、人はこがなくてもよいバイクマシンまである。これで運動効果があるのかと疑問を持つところだが、電気刺激で腹筋を鍛える装置が爆発的なヒットとなったことを考えると、「楽して痩せたい、健康になりたい」との要望が根強いことを再認識さぜるを得ない。


 サプリメントやマッサージ、アロマテラピー等の代替医療はおしなべて本人の努力を要しないという点では共通するところがある。真に健康維持・増進のために効果のあるものを目指して商品開発すると個人の努力を求めることになりがちだ。しかし消費者は開発者が考えるよりもはるかにものぐさなのである。個人の努力を求めず、日常使用する商品等に健康になる付加価値をつけるとの発想が求められていると言えそうだ。
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