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コラム「研究員のココロ」

まちづくり国際会議 雑感

2002年12月16日 矢ヶ崎 紀子


 「世界地方都市十字路会議」という国際会議が毎年開催されている。ご存知の方は自治体の国際化の分野で、かなりの「通」である。地味な会議ではあるが、れっきとした国際会議で、今年で11回目を数える長寿会議である。

 主催は、国土交通省と開催都市の実行委員会形式で、開催都市が抱える地域づくりの課題がテーマとなり、テーマにふさわしい国内外の都市を招聘して、事例発表やパネルディスカッションを行うというものである。「世界地方都市十字路会議」というネーミングは、国土庁時代の初代の担当者が命名したものであり、世界の地方都市が(なるべく首都であってはいけない)、出会い、交流する十字路としての会議という意味だそうだ。

 この会議は、地方都市にとっては、なかなかに便利な事業らしく、山口県下関市で先月11回目を開催し終えたが、今後の開催都市として立候補が続いている。初回を静岡県掛川市で開催して以来、岐阜県高山市、三重県伊勢市、青森県八戸市、宮崎県宮崎市、長野県飯田市、滋賀県大津市、福岡県柳川市、石川県金沢市、兵庫県姫路市、山口県下関市と続き、来年は三重県四日市市で開催予定である。

 この会議は、国土交通省が、企画・運営のアシストや、海外都市の選定・招聘・日本滞在のアテンド等をシンクタンクに委託するので(初回からずっと当社が受託)、地方都市はいわゆる"横文字まわり"をあまり心配せずに、国際会議都市としてデビューできる。この仕組みが、過去も将来も、開催都市立候補が後を絶たない大きな理由であろう。

 さて、世界地方都市十字路会議の紹介と宣伝はこれくらいにして、先月下関市で開催された第11回大会に話を移そう。テーマは、関門海峡を臨む下関市に因んで"海峡を活かしたまちづくり"。海外からは、ドーバー(ドーバー海峡)、マルメ(オアスン海峡)、イスタンブール(ボスポラス海峡)、マラッカ(マラッカ海峡)、国内からは、対岸の北九州市、函館市、青森市という、そうそうたる海峡都市を招聘した。

 招待都市は、トンネルや鉄道の敷設によって、海峡の国際港湾都市としての地位が低下し、ゲートウェイ都市が単なる通過点になってしまうという大きな打撃を経験してきた都市が大半であった。開催都市の下関市もそうであるが、ユーロトンネルの開通とEUの関税統合に大きく影響されたイギリスのドーバー市の悩みは深刻であった。

 ユーロトンネルの開通後にドーバーの失業率は20%近くに達するという試算を受け、彼らは、真剣に生き残りの道を模索したのである。限られた予算を特定の地域に集中的に投資し、地域の魅力を高めて訪問客の誘致に乗り出した彼らは、模索の過程で、初めて、イギリス人がイギリスに戻ってくることができたと実感する白い断崖"ホワイト・クリフ"が観光資源になることなどを発見していったのである。

 マラッカは、ドーバー以前に、その国際港湾都市としての役目を終え、現在は、多様な文化が交錯した証である豊かな歴史遺産を保存し、それをもって、どのように世界に打って出ようかを考えている。イスタンブールの元祖"世界の十字路"としての地位は衰えないものの、彼らは海峡を通行する多くの船舶による環境汚染を深刻な問題として捉え、ボスポラス海峡を世界の公共財として認識し、応分の配慮をせよと主張している。

 毎年この会議を開催していて、つくづく思うことであるが、世界の都市には、都市経営というコンセプトがしっかりと根付いているようである。例え小さな田舎町であっても、自らの町のイメージアップや都市としての品格を高める装置(たいていの場合は、質の高いイベントだったりする)をもち、それを武器に人々の関心を集めておきながら、実際に食べていくための方策を着実に実施するという、したたかな経営戦略をもっている。海外都市からは、首長や行政の都市計画担当者がやってくるが、彼らが用いる言葉は、都市のコンセプトだの、戦略だの、マーケティングが重要だの、アクションプランと評価が必要だのと、民間企業にいる我々にはとても理解しやすい。

 今年招聘したマルメという都市は、スウェーデンの大都市の一つであり、オアスン海峡をはさんで、対岸にデンマークの首都・コペンハーゲンがある。EUには国境の都市間の交流を促進させる支援プログラムがあるが、これを活用して、オアスン海峡を中心とした人口350万人、企業17万社、180万人の雇用機会の一大エリアを出現させようとしている。マルメは、対岸のデンマークの都市としての大きさに屈することなく、自身の資源をフル活用してメディコン・バレーを形成し、さらに、コペンハーゲン市民が美食とインテリアを求めてやってくるおしゃれな街という位置を確保している。オアスン地区を出現させるために、彼らは周到に段階毎のプランを練り、EUやアメリカの企業にアピールして資金を確保し、そして、地域住民の意識を高め参加を促進している。

 このように世界の地方都市の多くは、実にしたたかである。もちろん、各国によって自治体経営の基盤が異なるし、まずもって、行政職員の雇用のされ方が違う。企業の再建のプロがいるように、自治体の活性化のプロがいるのである。

 毎年10月が近づくと、「今年も世界地方都市十字路会議の季節だ。さあ、忙しくなるぞ。」と思いながら、「今年はどんな人たちに会えるだろう」とわくわくすることも確かである。

 さて、来年は、四日市市にて、どんな都市に出会うことができるだろうか。四日市市も、深刻な公害問題という都市の危機を乗り越え、その経験を活かして環境技術に関する国際的な情報発信を行うなど、わが国のなかではまちづくりのつわものの都市であるから、海外のしたたかな地方都市を迎える舞台としては十分であろう。今から楽しみである。
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