コラム「研究員のココロ」
行政における人事改革の3つの要諦
2002年09月23日 山中 俊之
「勤務評定を(全職員の)給与に連動させるべき」 68.9%
「管理職に関しては給与に連動させるべき」 5.4%
「給与に連動させるべきでない」 1.0%
日本総研の公務員人事制度改革チームが全国の自治体(町村を除く)人事部門に対して2002年8月に実施した人事改革に関するアンケート結果の一部である。人事制度に対する問題意識が大きく感じられる結果といえる。
私自身、元外務省職員であり、官庁の人事制度を自らの身をもって体験した。その後民間に転じ、現在は日本総研における官民の組織や人事の改革のお手伝いをさせて頂いている。
これらの経験から感じることは、「行政における人的資源マネジメントの欠落が、行政の制度疲労の最大要因の一つである」ことである。
人的資源マネジメントの欠落は、①行政活動の目標や成果の不明確化、②職員の危機意識や当事者意識の欠如、③能力開発・能力開発に向けた取り組みの不備等の問題を発生させている。そしてその結果、行政活動における成果の達成が不十分なものとなっている。
これらの問題を解決して、行政活動における成果を上げるためには、いかなる取り組みが必要なのだろうか。私は、今後の行政のあり方を鳥瞰した上で、人的資源マネジメントに関連して、以下の3つの要諦を指摘したい。
第一に、行政活動の目標や成果の明確化の観点から、行政が何をなすべきかについて組織のミッションから敷衍して徹底的に検証することが不可欠である。
私は、これまで多くの職員の方に改革に関連してヒアリングさせて頂いているが、行政が何をなすべきかという問いに関しては「拡大解釈」や「類推解釈」の傾向が強い。単に住民ニーズがあるとか、民間ではこれまで蓄積がないといったことだけでは行政がなすべきという理由にならない。世界的な経営学者P.F.ドラッカーが多くの文献で繰り返し述べているように、行政の各組織(部署)が一体何のために存在するのかといったミッション(=組織の存在理由)に立ち返った議論が重要である。そしてそのミッションは常に顧客からの思考・発想によって定義される。ミッションがぐらついていると、目標や成果が不明確になり評価の軸もぶれることになる。人的資源マネジメントの根本のところが、ゆらぐことになるのである。
第二に、当事者意識や危機意識を植え付けるため各職員レベルでのミッションからブレークダウンされた目標の設定が不可欠である。
上記のミッションは各職員の目標として落とし込まなくてはならない。行政の方からは、行政の場合は目標の設定が困難であるとの指摘を多く受けるが、私のこれまでのコンサルティング経験からは、どんな組織に属する職員についても目標の設定が不可能ということはない。
段階的な目標設定、アンケート調査の活用、アウトカムの代替としてのアウトプット目標の活用など様々な手法によって、目標の設定は可能である。各職員レベルに目標を落とすことで、真の当事者意識や危機意識を植え付けることができる。
先般、私が英国において行政の人事改革について意見交換した際に、すべての人事マネージャーが、「例え定型的業務であっても個人レベルでの目標設定は当然である」と述べていたことは改めて、各職員レベルでの目標設定の重要性を認識させられた。これらの目標の達成度を人事評価に連動させていくべきことは当然であろう。
第三に、各職員レベルでの「キャリア・ディベロップメント」の確立が不可欠である。
従来の行政においては、各職員のキャリア・ディベロップメントを考慮せず、順送り的な人員配置を行ってきた。また、そのことと関連して研修など能力開発も一律かつ受動的なものが多く、職員の自立性に基づくものは少なかった。しかし、複雑化・高度化した現代社会においては、職員に専門性が求められる。専門性は一朝一夕で身につくものでは決してない。そもそも希望しない分野について長期的な専門性の向上を職員に求めることは土台無理である。職員の希望や適性を考慮したキャリア・ディベロップメントの確立が肝要である。
具体的には、例えば自治体の場合、事業分野(福祉や土木、商工など)から最低1つ、機能分野(財政、経理・会計、法律・条例、人事など)からできれば1つの専門分野を各職員が選択して、それぞれの専門性を向上させる人員配置や能力開発のプログラムを構築することなどが必要であると考える。人員配置においては各職員が選択した専門分野を最大限考慮するともに、当該分野における能力開発に関する項目を目標管理の項目に入れて職員の成長を促すことが肝要である。