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コラム「研究員のココロ」

金融サービス業に支店は必要か?

2001年11月12日 原田 喜浩


 銀行の統合や経営合理化のために、都心の一等地にある銀行の支店に閉鎖の旨を記した張り紙を見かけることが多い。また、主要ターミナルにある銀行窓口は、込み合っているものの、地方銀行の少し中心部から外れた支店では窓口に並ぶ顧客はまばらになる。

 一方で証券会社のネット取引口座数は200万を超え、支店網を持たない松井証券の2000年度の信用取引の取扱高は大手証券を抑えトップに立った。また、消費者金融業では5年前と比較して、大手4社の貸付残高が1.9倍の5.5兆円まで増加したが、そのうち有人店舗が2060店と77店減少した一方で、無人店舗は4000店以上増加した。(注:無人店舗は、自動契約機とATMから構成され、ビデオカメラによる遠隔モニターが行われているタイプの店舗。96年から本格的な導入が始まった。)

 このような流れに加え、am/pmとさくら銀行の提携から始まったコンビニへのATM端末の設置が本格化し、2002年春には1万台のATMが各コンビニチェーンに設置される予定である。また、銀行業界、カード業界などでは揃って、電話取引を行うためのコールセンターの充実を図っている。

 このように顧客との取引が支店外へとシフトする状況を見れば、企業側からも生活者側からも「支店は本当に必要なのか?」という疑問が起こってくる。筆者がコンサルティングを行った経験では、取り扱う商品・サービスがシンプルな企業ほど、「できることなら支店を減らしたい」と考えている。

 例えば、消費者金融のある大手企業では、新規顧客のうち約70%が自動審査機を利用する。そして、その後の借入や返済の手続きはATMで行うために、従業員が待機する窓口を訪問する必要は全くない。そのため小さな支店では、窓口を訪問する顧客は一日に数名しかないということもある。ならば、なぜもっと多くの支店を統廃合もしくは無人化できないのか? それには、大きく2つの障害が挙げられる。

1)コールセンターへの取組みの遅れ
店舗を閉鎖した場合に、顧客との取引はATM、コールセンター、インターネットなどのチャネルに移行する。しかし、日本ではこのチャネルの整備が十分ではない。米銀では20年以上前からコールセンターが開設され、10年前には既に24時間サービスを行っていた。しかし、日本で本格的なテレホンバンキングがスタートしたのは97年ごろからである。そのためセンターを運営するノウハウが蓄積されておらず、電話対応を行うオペレーターの確保も難しい状況にある。また、顧客側が電話取引に慣れていないため、利用が増えないという問題もある。

2)雇用問題
支店を集約し、顧客取引をインターネットや電話に移管した場合、コールセンターもしくはコンタクトセンターへの支店要員の異動が必要となる。しかし、コールセンターは効率性の観点から大規模化する傾向にあり、全国で1、2ヶ所しか作られない。そのため大部分の社員の転居が必要となる。この雇用の問題に手がつけられないために集中化を行う企業はまだ少ない。

 このような課題を解決して、単純な取引はインターネットや電話へ、複雑な業務のみを支店窓口へ誘導するのが、各企業にとっての理想的なチャネル戦略である。しかし、単純な取引を集中的に処理するためには多額のIT投資および設備投資が必要となり、ノウハウ蓄積や人材育成には時間がかかる。

 米国のネット専業銀行が、リアルの店舗を出店したことからも分かるように、大半の金融サービス業にとって支店は必要である。しかし、今日の窓口業務の大半を占める定型的な処理業務をコールセンター等に移行した後には、「支店でしかできない」ような高度で複雑な取引だけが残ることになる。その際には専門知識だけでなく、高度なコミュニケーションスキルが必要となる。支店業務を集中化させるセンター運営を軌道に乗せるには時間がかかるが、それと同時に、役割が変わる支店業務に対応できる人材を育てるために多大な時間がかかることも忘れてはならない。今から、その準備はできているだろうか?
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