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コラム「研究員のココロ」

行政における目標管理

2001年11月12日 山中 俊之


 最近、行政において目標管理制度を導入しようとする気運が各地で盛り上がってきている。行政マネジメントの一つのツールとしての認識が高まっているためである。しかし、目標管理にも多様な役割・機能があるため、目的や期待する効果に応じて使い分けないと行政マネジメントのツールとして十分に活用できない恐れがある。以下、目標管理の役割や機能について整理した上で、行政マネジメントのツールとして活用するための課題やその解決策について述べることにしたい。

 目標管理(Management by Objectives and Self Control)は、P.F.ドラッカーが1954年に提唱したのが最初である(『現代の経営』1954年)。日本語では、一般に目標管理と訳されているが、正確には「目標と自己コントロールによる管理(マネジメント)」である。背景には、目標を進歩・向上の源泉として社員の成長を促す人間性尊重の哲学がある。目標をいわば「達成しなくてはならないノルマ」と捉えて社員を目標によって拘束するのではない。自ら設定した目標達成のために様々な工夫をこらすことによって社員の自律的な成長を実現し、ひいては組織全体の業績向上を達成することに目標管理の眼目があるといえよう。このような目標管理は、民間と行政を問わず導入可能である。

 目標管理は、その目的によって業績志向型と能力開発型とに分類できる。いずれの型も行政において活用が可能である。

 業績志向型の目標管理は、行政の目標を組織(局・部や課)単位で設定して、その目標達成を業績として管理・マネジメントする手法である。これまで主として事業単位でなされていた評価を、組織単位で目標管理することによって、管理・マネジメントのツールとして活用することを目指す手法である。民間企業では「全体―部門―個人」といったレベルで業績を評価している。行政においても、管理・マネジメントのツールとしては、組織単位での評価を導入していくことが望まれる。組織単位での目標の設定は、最終的には組織の構成員である個人レベルにまで落とすことが、個人のインセンティブを高め、ひいては個人の集合体である組織の目標を達成する上で重要である。

 一方、能力開発型の目標管理とは、各職員の能力開発に関する目標を設定して、その目標の達成度を計測することによって、職員の成長を促す仕組みである。これまでの行政は、職員に対する職位や年次に基づく研修は存在したが、各職員が各自のキャリアプランに基づいて自主的に取り組む能力開発への取り組みは遅れていた。民間企業では、一斉の社員研修は新人研修を除いては姿を消し、各社員が自分のキャリアプランに基づいて自主的に研修を選択して能力開発に取り組むことが一般的である。行政においても、今後は各分野(例えば福祉)の専門性が要求される時代に突入している。各職員が自主的に能力開発計画を設定する手法として、能力開発型の目標管理の導入が望まれる。

 では、このような行政における目標管理システムの課題にはいかなるものがあるのか。その解決策と共に示すことにしたい。

(1)職員の目標管理に対する反発・警戒感
 目標管理というとノルマ管理であると職員に認識され反発や警戒感を持たれるため、導入自体が頓挫するという問題点がある。しかし、前述したように、目標管理には目標を進歩・向上の源泉として職員・社員の成長を促す人間性尊重の哲学がバックグランドにある。ノルマ管理の仕組みではなく、職員・社員の成長のための仕組みであることを理解してもらうことによって職員の反発や警戒感をなくしていくことが望まれる。また、目標管理システムを最終的には人事評価にリンクさせていくことが、職員のインセンティブを高める上で必要だとしても、当面は人事評価にリンクさせることを控えることもスムーズな目標管理システムの導入の上で考慮すべき点である。

(2)目標のための指標設定の困難さ
 行政において、目標のための指標を設定することが困難であるという問題点があげられる。確かに、行政においては、民間に比べて指標の設定が困難な面がある。しかし、近年活用が高まっている顧客満足度調査や定性評価をより活用することによって、行政においても、代替的な目標の設定を行うことが可能である。民間企業においても業務プロセス改善や人材育成に関して様々な指標が代替的に設定されているため、これらの指標を参考にして、行政においても代替的な指標を設定することが望まれる。

(3)目標を低めに設定
 目標管理システムを導入しても、職員が達成容易な低い目標を設定してしまうという問題点があげられる。この問題に対しては、上司(一般職員の場合は課長、課長の場合は部局長)の目標管理能力を高める研修を実施し、部下の目標設定に関するコミュニケーション能力を高めることによって解決が可能である。例えば、行政経営で先進的な自治体として知られる米国のフェニックス市は、管理職クラスに対して部下の目標設定をサポートするための数日間の研修を実施している。もう一つの解決法は、目標設定の際に、目標の困難度を考慮する仕組みを導入することである。例えば、ある目標達成が困難であれば、通常の場合に比して1.2倍を掛けた値を最終的な達成点とすることによって、より困難な目標に向かわせることが可能である。
業績指向型目標管理と能力開発型目標管理
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