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Business & Economic Review 2009年12月号

【特集1 財政緊縮下における自治体の公営企業改革】
公営企業としての病院経営事業は今後どう改革すべきか

2009年11月25日 国際医療福祉大学 教授・順天堂大学 客員教授 阿曽沼元博



目次

  1. はじめに

  2. 自治体病院経営見直しのきっかけとなった社会の動き

  3. 自治体病院の経営困窮化と経営改革のケース検証

  4. 公的病院経営改革の各事業スキームについて

  5. 結局、自治体病院はどうすべきか



要約

  1. はじめに
    地方公営企業は、本来住民の生活に密接に関連した事業を行い、広く公平にサービスが住民に配分され、その恩恵を住民一人ひとりが享受されるものでなくてはならない。この原理原則に立ち返ったとき、病院事業は、住民一人ひとりの健康のライフステージ(注1)に的確に対応するため、病院施設という限られた空間(病床・医師数・看護師数・医療機器配備状況にそれぞれ限界がある)に通院や入院が可能な人、救急で運ばれてくる人など、現実的には限られた人にのみに医療サービスが提供されるだけで良いのかという原点をそもそも考え直す必要がある。「病院」といわれる組織はどうあるべきか、どう建設されるべきか、どう運営されるべきか、そしてそこに高質な医療サービスを提供し続けるための仕組みはどうすべきかを、行政は抜本的に考え直し、地域(病院周辺という意味ではなく、行政区割りの広域の地域)ニーズにどう応えるべきかを行政サービスのあるべき姿の原点にもどって考え直し、改革する時期に来ている。
    「赤字は諸悪の根源である」といわれている。しかし多くの、とくに地方公共団体の医療機関管理者である病院長(注2)は、我国の皆保険制度や診療報酬体系のもとでは、必然の赤字が出ざるを得ず、どう頑張っても赤字にならざるを得ず、「赤字にも良い赤字があり、決して悪い赤字ばかりではない」として、自らの赤字を正当化する発言をする。あたかも、仕組みが悪いので赤字は必ずしも経営や運営の責任ではない。自分達は一生懸命目の前の患者さんを治療し汗をかいて頑張っている。しかも医療サービスを継続するには必要な人材や医療機器があり、そのためにはコストがかかる。コストがかかれば赤字も仕方ないという考え方である。
    確かに一理ある。汗をかいても報われない仕組みであり、そういう環境となってしまっているのも事実である。しかし、やはり「赤字は諸悪の根源である」。一般の組織(企業であれ民間病院であれ)では赤字であれば資金調達は困窮を極め、その結果、人材確保に困窮し、医療機器は陳腐化し、そして建屋も老朽化してくる。モチベーションは低くなり、やがて医療サービスレベルは低下し、安心と安全確保にも不安が出て信頼が薄れていき、組織は確実に衰退していく。
    今多くの地方公営事業である「病院」がその状況に陥りもがいている。経営資源である人・物・金のすべてにおいて困窮を極めている。そしてこの困窮状況を克服し、健全化し今一度病院事業を蘇らさなければならいとの大合唱も聞こえてくる。事業の課題を克服し、真に必要な事業として事業継続が可能で、高質なサービスを住民一人ひとりに公平に提供していく道を探っていかなければならない。それは、決してその病院事業の「箱もの的感覚」での施設運営継続を前提にしたものではない。地域における医療サービスの提供の在り方、そして住民一人ひとりのライフステージに則した、保健・医療・福祉サービスの切れ目にないシームレスなサービスのあり方の再構築を前提としたものでなくてはならない。
    模範解答があるわけではない。地域の実情を踏まえ、その状況に則し、そして将来を見据えたロードマップを策定し、中長期の計画を立案しなければならない。そして短期的な喫急な課題克服の処方せんと中長期のその処方せんは必ずしも一致するものではなく、なかには全く正反対の施策を同時並行的に行わなくてはならない場合も多い。
    本稿では、財政緊縮下における公営企業としての病院の経営健全化を、財政数字・経営数字から見える課題だけでその方策を論じるのではなく、人・物・金の経営資源的側面、さらには組織(注3)としての医療機関経営のあり方といったマーケティング論的側面を加味しながら、より現実的な方策を示していきたい。

    (注1)ライフステージとは、人間が健康期・半健康期・疾病罹患期・治療中期・治癒後経過観察期・介護期・終末期など、一生の内に健康や病気の状態、それに伴う生活の状況など刻々と変化していくが、それぞれの状況(ステージ)において必要な保健・医療・福祉サービスが適切に行われていくことこそが重要である。この住人(国民)の健康度の各期を総称して「ライフステージ」という。
    (注2)残念ながら地方公営企業下の病院長は経営者ではなく、ただ単に管理者でしかない。全部適用下における事業管理者は一見経営者として見えているが、予算立案権、資金調達権、予算執行権、人事権などの把握が弱く、いわゆる組織のCEOとしての権利・実権・責任を有しているわけではない。
    (注3)あえて「組織」と強調したのは、病院が組織としての活動が行われていることが非常に稀で、専門職の「集団」としての行動パターンしか見えないことが多いからである。とくに医療従事者は自分達が組織の一員としての意識が希薄で、組織の理念や目標達成のために、部門の利害得失を越えて、組織的活動をする事が苦手である。専門職の集団であるがために、非専門の面々が組織全体を考えてその専門職集団にもの申す事が出来ないなど、組織一体感が醸成しにくい組織である。しかし、正に病院は組織としての自覚と行動を求められている。

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