Business & Economic Review 2009年11月号
【特集 新興国経済を考える】
タイの政局不安と経済への影響
2009年10月25日 大泉啓一郎
- 近年のタイの政局不安はさまざまな経路を通じて景気を抑制してきた。PAD(民主市民連合)とUDD(反独裁民主同盟)の反政府運動は、GDPの6%を占める観光業に多大な被害をもたらした。また、政局不安の長期化は、消費マインドを冷え込ませ、景気回復の足かせになっている。
- 現在もなおPAD、UDDともに活動を継続しており、政局不安の火種は残ったままである。9月に
UDDはタクシン元首相の恩赦を求める署名(350万人)を国王秘書局に提出しており、その行方が注目される。またPADやUDDの反政府運動は、物価や失業率の上昇に伴って大規模化する傾向があり、景気回復が遅れれば、年末にかけて政局が再び不安定化する可能性があることに注意したい。 - アピシット政権は、発足当初から景気刺激策を実施してきたが、その内容は政権の支持基盤強化と社会不安回避に重点が置かれたために総花的なものとなっている。現時点では、公的債務残高はGDPの40%台の水準にあるため、即座に財政危機に陥る可能性は低いが、その後の政策をみても財政負担を拡大させる内容のものが多く、中期的に財政の健全性に及ぼす影響が懸念される。
- 政局不安が続くなか、日本企業のタイへの期待度は依然高い。これは80年代後半以降積極的に投資を行ってきた結果であり、ASEANのなかで最大の生産拠点を有しているからである。また、2010年からASEANを中心にさまざまなFTA(自由貿易協定)が発効することを考えると、タイの生産拠点を活用した新しい事業展開が期待できる。ただし、近年の政局不安を課題と捉える企業が増えており、再び政局不安が加速すれば、中長期的なタイの位置付けに変化が表れる可能性も否定できない。