Business & Economic Review 2009年11月号
【特集 新興国経済を考える】
新興国経済の展望
2009年10月25日 藤井英彦
要約
- 新興国経済が改めて注目。2007年のサブプライム・ショックや2008年のリーマン・ショックなど、一連の金融危機によってこれまで世界経済を牽引してきた欧米経済が深刻な低迷に陥るなか、新興国経済が総じて力強い経済成長を持続し、今後も引き続き底堅い経済成長が持続する見込み。
- しかし短期的にみれば、依然として不測のショックに見舞われるリスク大。例えば中国では4兆
元に上る景気対策に伴い実体経済の拡大を大幅に上回るペースで銀行貸出が増え貨幣供給量が増加する一方、株価や不動産価格が上昇してバブル色が増大。さらに、アメリカ経済の行方が最大の焦点。アメリカ経済については今春以降、株価が上昇し一部には景気は最悪期を脱し、底入れしたとの見方が拡がっているものの、現状に即してみる限り、一段と悪化。すなわち、まず実体経済では、消費主導のアメリカ経済において今後の行方を左右する最大の要因である所得雇用環境がほぼ一貫して悪化。一方、金融情勢では企業倒産や個人破産の増勢が加速。商業用不動産の価格下落が本格化するなか、銀行倒産件数の増勢に拍車。 - 欧米経済が底割れした場合、そのダメージは大。国によって濃淡の差はあるものの、新興国経済
も輸出に依存。しかし新興国に即してみれば、欧米経済からのダメージで景気が腰折れするほど深刻な影響に直撃される懸念小。大きな人口を抱え国内市場が大きく、輸出の落ち込みを補う余力。まずわが国高度成長期の需要サイドからみると、高度成長期のわが国と所得がほぼ同水準。旺盛な購買意欲を加味してみれば、三種の神器同様、大幅な市場拡大の公算大。 - 一方、供給サイドでは、①都市化の進行、②識字人口の増加、③IT利用の拡大、の3点が寄与する見通し。まず都市化には第一次産業から第二次・第三次産業セクターへの労働力移動による生産性上昇効果。今後、中期的に世界の都市化の中心は東アジアと南アジア。次に識字人口の増加は就業能力を引き上げ。義務教育制度が普及するなか、80年代に入り、識字人口が本格的に増加へ。識字人口の増加は当面、東アジアと南アジアが中心。さらにIT利用の拡大はグローバル化のなかでの競争力強化に貢献。現時点でみれば、先進国が利用の先頭に立つものの、近年、新興国は急速に追い上げ。
- さらに生産年齢人口から人口ボーナスの動向をみると、70年代から90年代前半の東アジアから、90年代半ば以降南アジア、さらに2020年代後半以降、サブサハラへシフトする見通し。わが国からみれば、構造変化は大きなチャンス。最も至近距離に位置し、経済的関係が深い先進国はわが国。成長センターとの連携強化は最優先課題の一つ。