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定昇凍結と無給の休日による賃下げ効果とその影響

2009年11月06日 久保田智之


1.2009年の昇給は賃下げが相次いだ

 2008年9月のリーマンショック以降、多くの企業では、業績の回復が見られないまま昇給の季節を迎えることとなった。その結果、トヨタ自動車では管理職の賞与を前年度対比で6割減とし、また、パナソニックでは管理職の年俸を平均で13%カットすることとなった。
 企業におけるこれまでの正社員に対する雇用調整の一般的な対応は、
 ・月例給与・・・ベアゼロ、昇給原資の縮減
 ・ボーナス・・・支給月数の減少
であり、また一歩進んだ対応としては、
 ・採用抑制
 ・残業代の抑制
 ・配置転換、休業
 ・希望退職
であった。これらは要するに、給与水準の調整か人員の調整のいずれかである。しかし今回の場合、多くの企業では、正社員の給与体系が業績連動型へ移行が進んでいたため、これが年収抑制効果を発揮することとなり、雇用調整型の短期的対応をとることもなかったようである。つまり、一定のルールの下に実質的な賃下げが実施されたのが実情である。

2.「定昇凍結」と「無給の休日」

(1)賃下げ手法が限定的になっている

 一方で、こうした雇用調整手段はとりにくくなりつつある。例えば、「残業代の抑制」では残業時間はいうまでもなく、労働時間そのものの短縮が進んでいるため、調整幅が小さくなっている。また、「採用抑制」に関しては、10年ほど前の就職氷河期の教訓から、細々とでも新卒採用を継続的に続ける企業が多くなっている。「配置転換」にしても、コース別制度や専門職化が進んで、かえって柔軟な対応が取りづらくなってしまっている。
 このように賃下げ手法(雇用調整手段)が限定的になる中、一部の企業では新しい手法が行われた。それが「定昇凍結」と「無給の休日」である。

(2)定昇凍結とは

 定昇とは、「定期昇給」の意味である。一定の時期に昇給を実施する、という意味合いである。春闘の交渉の場面で「賃金体系の維持」として昇給を要求するということがいわれるが、これは年齢増加など自然増としての昇給のことを指している。必ずしも定期昇給という範囲に含まれているわけではない。
 この定期昇給を「凍結する」とは、昇給を今年は実施しない、という意味である(実際には、シャープが半年間の定昇凍結を実施し、また三洋も一年間の定昇凍結を実施すると発表した)。
 定期昇給をなぜ半年凍結するという対応措置をとるのであろうか?年間ベースで置き換えた場合、半分の昇給と同じ効果であると考えられる。しかるに半年昇給を伸ばすということは「定昇時点では、昇給させることができない。しかし、半年経てば業況が回復して昇給させることができる」ということであると考えられる。
 では、問題点はないのだろうか?予想される問題としては次のことが考えられる。定昇を50%だけ実施するとなれば、賃金体系の維持が難しくなる可能性がある。賃金表を前提とした賃金カーブであれば、1号俸昇給ということで設定されている場合が多い。それが0.5号俸昇給となり、制度の枠外での運用がはじまる可能性がある。半年間凍結するということは、こうした状況になることを避ける狙いも多分にある。生涯賃金ベースでは、どちらにしてもこの期の昇給部分が少なくなる。どこかで回復させておかなければ全体として水準が下がってしまう結果となる。
 長期的な視点に立って考えると、「賃金カーブの中だるみ」という現象が生じる可能性がある。年齢を横軸にとってみた場合、昇給をしなかった特定層のカーブが立ち上がらなくなり、そこだけ下方に下がってしまうことをいう。これまでは、ベアの実施に関連してこのことが指摘されてきた。最近では、ベアが実施されないので、昇給を停止することで生じる可能性が出てきた。一時期の昇給停止は、生涯年収にも影響を及ぼす。慎重に議論をしなければならないポイントである。
 この定昇の半年凍結により、「1年に一度昇給するという概念が通用しなくなる可能性」があると考えられる。経営の状況に不確実性が増す(将来が見通せない要素が多くなることを指す)と、将来を確保した制度をうちにくくなる。ますます打ち手が短期化していく可能性がある。

(3)「無給の休日」とは

 「無給の休日」とは、労働の稼働実態のない日を休みとする措置である(日立製作所が、給料を支給しない日を毎月1日平日に設け、休日とする制度として提案。これは賃金カットの新しい形である)。賃金支払いの原則は、ノーワークノーペイである。この原則に基づいて提案された。この「無給の休日」に関しては、この休日と休業との違いがどこにあるのかが問われた。
 労働基準法第26条では、「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合は、平均賃金の100分の60以上の支払」が必要となる。いわゆる休業手当の支払いである。例えば、月3日の製造ラインの停止などが具体的には該当する。この使用者の帰責事由は広く認定されている。経済状況の著しい悪化による経営難などの場合も含まれている。使用者側が一方的に実施するという点がポイントの一つと考えられる。
 これと似た議論として「ワークシェアリング」がある。1ヶ月の就業日数を仕事量に合わせて調整し、これまでの雇用を確保するという方法である。就業日数が減少すれば、ノーワークノーペイの原則に基づき、日数の減少分だけ給与が減額されることとなる。
 休業日を定めると平均賃金の6割を支給することが必要となってしまうのでこの措置は企業としては採りにくい。実際の稼働日を減らすことで、その分の賃下げを同時に提案したいが、ワークシェアリングほど仕事量を調整する必要はない。そこで全員公平に「無給の休日」を入れることで人件費調整を行っていったと考えられる。
 雇用調整では、痛みの分かち合い方を労使でどのように受け入れていくのか、が結局のところポイントとなる。受け入れられやすい方法としては、『全員を公平に』、ということだが、これのみが拠り所となるのでは、人件費シェアリングはおぼつかない。もっと前向きの改定がいるのではないか。

3.長期的な視点で考える

 年功的な賃金制度の状況下では、雇用調整をいかに進めていくかが重要な点であった。最近では、人事制度の成果主義化が進み業績の変動に対してはスムースな人件費調整がなされるようになった。しかし、今回のような大きな経済ショックの場合には、単純な業績連動ではあまりにも社員に対する影響が大きすぎる。一方で、雇用調整手段が限定的となり、ますます短期的な対応が進むのではないかと考えられる。人件費の変動費化は避けて通れないが、今後は、競争と安定が確保された長期的な視点を持って給与制度を改革していくことが求められよう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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