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2004年12月01日

基礎年金と生活保護の一体的な議論を

【要 旨】

バラバラに取り扱われる基礎年金と生活保護

 社会保障制度の一体的改革をめぐり、「社会保障の在り方に関する懇談会」などの場において議論が行われている。このような動きは歓迎されるものの、所得保障政策として本来一体的に検討されるべき年金と生活保護との関連に関して、議論は極めて手薄である。2004年11月8日の第4回の懇談会でも、公表されている厚生労働省の提出資料をみると、両者を別々に取り扱う従来からの同省の考え方が踏襲された模様である。
 しかしながら、わが国の年金制度は1986年に基礎年金を持つ制度へと改められており、高齢期の基礎的な消費支出を賄うことを目的とする基礎年金と、生活保護はその目的が近接していることから、両者の関連について議論を掘り下げていくことが不可欠である。

基礎年金と生活保護の関連は本来極めて重要な論点
 基礎年金と生活保護との関連が極めて重要な論点であることは、次のような事実により明確に確認される。

 先ず、歴史を紐解けば、戦後の欧米の社会保障制度設計の礎となったイギリスの『ベヴァリジ報告』(1942年)において、年金と生活保護との関連が核心的課題の一つであった。そこでは、受給に際しスティグマ(汚名)の伴う生活保護によらず、正々堂々と給付を受けるために社会保険の仕組みが提案され、その給付水準は最低限の生活に必要な額でなければならないとされた。同報告は、社会保険という仕組みとその給付水準は、生活保護との相対的な関係のなかで議論されるものであることを示している。

 近年では、イギリスのブレア労働党政権が、年金と生活保護の一体的改革を行っている。第1に、給付水準の低くなっていた年金制度の1階部分である国家基礎年金をカバーするために、2階部分を低所得者にとって手厚い給付体系に作り変え、低所得者でも保険料を一定期間支払えば、1階と2階を合わせて、生活保護を上回る年金額を受給できるようにした。第2に、「補足性の原理」、すなわち貯金や年金給付を利用してもなお最低限の生活に不足する部分のみを補填するという従来の生活保護の原則を見直し、現役時代の貯蓄や国民保険料の支払いなどの努力に対しては、生活保護制度からボーナスを与えることとした。

 さらに、次のような近年のわが国の状況変化がある。一つは、国民年金加入者の属性の変化である。国民年金の加入者のうち最も割合が高いのは雇用者であり、雇用者でありながら受給できるのは基礎年金のみである。したがって、基礎年金が高齢期の支出のどの範囲までをカバーするのかが極めて重要になる。二つめは、国民年金の未加入者と保険料未納者の増大、いわゆる国民年金の空洞化である。その対策として、給付水準をはじめとする基礎年金の制度設計が国民にとって魅力的か否か、また、生活保護の「補足性の原理」の存在が国民の保険料支払いインセンティブを削いでいないか否かについて検証する必要がある。

一体的な議論のポイント
 基礎年金と生活保護の一体的な議論のポイントは、次の通りである。

 先ずは、個々の制度設計の改善である。基礎年金についていえば、その給付水準は、少なくとも基礎年金の意義を明確にし、国民に提示する必要がある。また、定額保険料は早急に見直す必要がある。

 次に、基礎年金と生活保護の給付水準の相対的な関係の見直しである。わが国の現行の年金制度と生活保護制度の場合、基礎年金の満額給付額が生活保護の水準を下回る。しかも、生活保護を受ける場合、「補足性の原理」の存在により現役時代の貯蓄や保険料の支払いが無駄になりかねない。これでは、国民の保険料を支払うインセンティブも阻害される。したがって、両者の相対的な関係の見直しが必要である。

 さらに、現行の基礎年金と生活保護の枠組みを前提とした相対的な関係についての議論のほか、基礎年金と生活保護を統合するといった制度の枠組みそのものを変える議論がある。ブレア労働党政権における改革のほか、例えば、スウェーデンは、1999年の年金改革によって、従来の基礎年金を給付要件が極めて緩やかな保証年金に改め、高齢者向け生活保護の大半を代替する制度設計とした。もっとも、このような議論を行うためには、年金と生活保護を別々に取り扱うという考え方を改めなければならない。
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