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2004年09月09日

郵政民営化は抜本的見直しが不可欠 ~郵政民営化基本方針の評価と課題~

【提 言】
(イ)経済財政諮問会議での議論を踏まえ、郵政民営化の『基本方針』の閣議決定が視野に。郵政民営化に対する反対論は依然強力で、当面は郵政事業の一体運営を維持すべしとの意見が根強いなか、当初から郵政事業を4分割、すなわち、2007年4月から、窓口ネットワーク・郵便・郵便貯金・郵便保険の4事業体への分社化の方針が小泉首相の指示のもと、諮問会議において決定される見込み。以下では、郵政民営化『基本方針』(現時点での各種報道等に基づく)の評価と今後の課題について提言する。

(ロ)郵政民営化に関する『基本方針』の策定は、わが国の金融・行財政・社会システムを大きく変革する「明治以来の大改革」を進めるうえで大きな一歩であり、「官から民へ」「貯蓄から投資へ」という小泉構造改革を実現するうえでも、極めて重要な意義を有する。郵政改革の目的は、国民の利便性向上にとどまらない。その眼目は、わが国金融・経済・産業が21世紀において一段と活力を高め、持続的な成長・発展をするために、市場メカニズムの確立によって各事業の競争力の強化を図り、諸外国を凌駕する1,400兆円という個人金融資産の有効活用を図ること、すなわち、利用頻度の低い道路や保養施設の建設や維持・補修から、新事業創出など、わが国経済・産業が発展し、新たな雇用が生まれる分野に資金供給ルートを転換することにある。こうした観点に即してみると、とりわけ、重要な問題は次の3点。

(ハ)第1は規模の大きさ。4事業とも民間企業に比べて際立って大きい結果、たとえ、政府保証が完全に撤廃されても、暗黙の政府保証が残存する懸念大。仮に政府サイドでは政府保証の完全廃止が想定され、政府出資が無くなったとしても、経営危機など、万が一の場合には、一国経済全体に対する打撃の大きさから救済せざるを得ない、いわゆる"too Big to Fail"の事態が予想。加えて、そうした見方が国民の一部にせよ保有されることで、事実上、競合する民間企業との間に信用力格差が発生。そもそも、万が一の場合でなく平常時でも、国民の暗黙の政府保証に対する期待が残存すること、さらに、これまで公的企業として蓄積してきた設備や情報、人的ネットワークなどが、民間企業を上回る競争優位の立場を提供。民間企業とのイコール・フッティングを実現するには、規模の大幅縮小が大前提。しかし、その点についての明確な規定は不在。加えて、このところ、宅急便事業の積極展開あるいは新たな生保商品の販売など、新規の業務進出への取り組み始動に加え、準備期間での投資信託の販売や移行期間中における段階的融資業務への進出が容認される模様であるなど、民間企業とのアン・イコール・フッティングが拡大し、市場競争の歪みが一段と増幅される懸念が増大。

(ニ)第2は事業間のリスク遮断の不十分さ。『基本方針』では、郵政事業が2007年4月から窓口ネットワーク・郵便・郵便貯金・郵便保険の4事業に分割され、別々の株式会社が設立されるものの、4事業を統括する持ち株会社(当初100%、2016年度末時点でも3分の1以上の株式を国が保有)が設立。これでは、一体運営が行われている現在の公社形態との差異は実質的にほとんどない。他方、郵便貯金・郵便保険会社に関しては、移行期間に株式を売却し「民有・民営」を実現することが盛り込まれる見込みだが、「民有・民営」の定義が曖昧なため、移行期間の最終期限である2016年度末までに郵便貯金・郵便保険会社の株式をすべて民間所有にするという完全民営化への道が確保されたかどうかは不透明。そもそも、事業リスクの遮断とは、[1]単に金融システムの健全性を確保するために、他の事業から金融事業に対するマイナス・インパクトの波及を阻止するだけでなく、[2]資源配分の歪み問題の回避も重要な目的。すなわち、各事業間で収益性や成長性が異なるため、収益性や成長性が高い分野からみると、低い事業分野のために事業展開が制約。一方、収益性や成長性が低い分野からみると、高い分野での信用力を援用して有利な条件での事業展開が可能で、競合事業者との競争条件の同一化、すなわち、イコール・フッティングが確保されず、市場原理が不徹底な結果、一国経済全体では過剰投資や過少投資、過剰雇用や過少雇用を招来。こうした事業形態の問題に加え、政府保証の付いた債務と民営化後の政府保証が付かない債務の、いわゆる、新旧勘定の分離について、郵便貯金・郵便保険会社が実質的に管理・運営に当たり、一体運営を通じた過度の収益・損失の付け替えが行われる懸念がある結果、市場の歪みを拡大しかねないという問題も看過し得ず。

(ホ)第3はユニバーサル・サービスの重視。現下の郵政改革論議では、ドイツ・ポストは、民営化によって競争力の強化に力点が置かれるなか、ユニバーサル・サービスの維持に失敗し、政府の規制を余儀なくされたとの位置付け。これは、郵便局が90年末時点の2万9,285局から民営化に伴う整理・統合によって次第に減少し、97年には1万5,331局と90年末対比ほぼ半減するなか、98年にドイツ連邦政府が公布したユニバーサル・サービス令によって、ドイツ・ポストは、[1]全郵便局数の下限として12,000局、[2]人口4,000人超の自治体には例外なく郵便局を1カ所以上設置、[3]市街地の郵便局相互間の距離を最大2km以内など、一定のサービス提供に向けた規制を受けるに至ったとの経緯に基づく。しかし、近年の動きはそうした見方と齟齬。すなわち、ドイツ・ポストは、2003年に入り、自発的取り組みによって郵便局数を増加。これは、EUの郵便事業自由化に歩調を合わせたドイツ連邦政府の郵便市場自由化に向けた2002年の制度改正によって、2003年以降、ドイツ国内でも郵便事業の自由化テンポが加速した結果である一方、そうした情勢下、ドイツ・ポストがユニバーサル・サービスを企業競争力の源泉と認識し、国内営業基盤の強化に着手した帰結。こうした動きを踏まえてみると、ユニバーサル・サービスを過度に重視して「官から民へ」の動きを抑制するよりも、むしろ、競争原理を積極的に活用・導入することによって、資源配分の効率化を図ると同時に、サービスの拡充を指向すべき。

(ヘ)このようにみると、今後の与党との調整論議や法案化、さらに実際の改革遂行プロセスでは、改革推進・反対派の間で同床異夢ともなりかねない『基本方針』について、その曖昧さや裁量の余地をいかに排除していくかが所期の改革目的達成の成否を握る。そのためには、以下の3点の実現がきわめて重要な課題。

(ⅰ)まず暗黙の政府保証を廃止、民間との完全なイコール・フッティングを実現する大前提として、郵便貯金・郵便保険会社の事業規模の縮小と準備・移行期間中の新たな事業拡大の制限は不可欠。国民の利便性向上という美名のもとに、規模の再拡大や先行的な業務範囲の拡大が行われれば、最終的には、わが国金融システムの弱体化を招来し、真の国民利益の増大には繋がらないことに留意。

(ⅱ)事業リスクについては、持ち株会社形態が維持される限り、完全な遮断は困難。この点に立脚すれば、持ち株会社形態から、4事業が完全に分離された株式会社形態への転換が不可欠であり、遅くとも移行期間の最終期限である2016年度末までには持ち株会社の廃止と少なくとも郵便貯金・郵便保険会社の全株式の民間放出が必要。

(ⅲ)ユニバーサル・サービスについては、資源配分の歪み是正という郵政改革の眼目からみても、ドイツ・ポストの成功例を直視し、明確な時限を設けたうえで、政府の関与を排除し、市場原理を通じたサービスの維持・拡充を目指すべき。
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