2004年07月06日 |
2004~2005年度改訂見通し ~デフレからの脱却と成長持続への課題~ |
【要 約】 |
1.わが国景気は強めの回復ペースが持続しており、国内民需の牽引力拡大、物価の下落幅縮小など、徐々に自律回復への兆しが現れている。もっとも、海外経済の失速が懸念されるほか、国内でも素材価格上昇・金利上昇などのマイナス要因も顕在化。 2.こうした状況下、今後を展望するうえでポイントとなるのは、[1]海外経済、とりわけ中国経済の動向がわが国経済に与える影響、[2]素材価格上昇による企業収益への影響と設備投資の行方、[3]雇用・賃金構造の変化と個人消費持ち直しの持続性、[4]デフレ脱却の展望とその影響、の4点。 (1)中国経済は、これまでの金融引き締め効果が現れて、固定資本投資が減速に向かっており、当局の政策コントローラビリティーは高く、2004年末に向けてソフトランディングに成功する見通し。こうしたなか、わが国輸出を牽引している中国向け輸出をみると、金融引き締めの影響を直接受ける固定資本関連製品のシェアがそれほど高くないため、輸出全体への影響は一定範囲内にとどまるものと判断される。 (2)企業部門をみると、最終製品価格への転嫁は容易ではなく、素材価格の上昇がコスト増として働いて、製造業部門を中心に企業収益を押し下げる見通し。もっとも、景気回復を背景に売上増による増益効果も強まっていることから、企業収益は増益を維持することは可能。企業収益の回復に加え、電気機械を中心に生産拠点の国内回帰の動きも出始めていることから、設備投資は高いペースでの回復が続く見通し。 もっとも、わが国景気が本格回復するためには、足元の景気を牽引している製造業部門に加え、サービス産業が回復に向かうことが必要。また、企業規模別の好不調の二極化状態も根強く残存。 (3)失業率は今後も緩やかに改善していくと予想されるものの、家計の所得環境は、[1]ミスマッチ残存などから雇用者数の大幅増が期待できないこと、[2]企業が固定費削減を目的に、人件費を変動費化する動きが広がっていること、などから回復ペースは緩やかにとどまる見通し。こうした所得環境の低迷下でも、消費マインドの改善、デジタル家電市場の拡大などを背景に、当面、個人消費は回復傾向は続く見通し。もっとも、若年層での就労環境悪化、2004年度後半からの家計負担増加などにより、個人消費の増勢が強まる見込みは小。 (4)実体経済の回復を背景に需給ギャップが急速に縮小したことに加え、中国からの低価格製品輸入の拡大も一巡したことから、消費者物価の下落幅が急速に縮小。需給ギャップは2005年入り後には解消するとみられ、デフレ脱却の条件は整うものの、その後も生産性上昇・名目賃金低迷などを背景に、基本的にはディスインフレ状態が持続する見通し。 インフレ加速の可能性が小さい一方、企業部門の二極化状態も根強く残ることから、早期の量的緩和解除は副作用が大きく、当面は量的緩和政策を継続すべき。この間に、金融政策のフレームワークについてのコンセンサス形成を図ることが重要。 3.以上を踏まえて先行きを展望すると、2004年度については、[1]輸出の増勢、[2]設備投資の高い伸び、[3]個人消費の堅調、の3点を背景に、回復傾向が持続する見通し。2005年度については、[1]設備投資の循環的な調整局面入り、[2]制度変更に伴う家計負担増、を背景に年度後半にかけてスローダウンする見通し。ただし、中国経済の成長持続、企業部門の体質改善などを勘案すれば、調整は軽微にとどまると予想。 4.わが国経済は、バブル崩壊後の長期停滞局面を脱し、ようやく「正常への回帰」過程が始まった段階。もっとも、復活を宣言するには、中国依存度の上昇、雇用・賃金調整の持続、産業別・規模別の二極化など、解決すべき課題も残存。こうした問題解決のためには、[1]FTAの戦略的活用、[2]新規サービス産業の活性化、[3]積極的労働市場政策の展開、[4]地方主導の産業・雇用構造の転換推進、[5]金融政策正常化に向けたコンセンサス形成、[6]社会保障改革・財政健全化計画の提示、の六つに取り組むことが必要。 |