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2004年06月04日

米国経済への金利引き上げのインパクト

【要 約】
米国では、雇用情勢の大幅な改善やFedの利上げスタンスの明確化を受け、長期金利が3月中旬のボトム3.68%から5月中旬には4.86%へと約1.2%ポイントも急上昇。足許の長期債市場は、既にFF金利誘導水準の1%引き上げを織り込んでいる可能性。
家計部門の財務状況を概観すると、負債比率(対可処分所得比、対総資産比)、返済負担比率は過去最高の水準にあるが、[1]固定金利負債の割合の高さ、[2]足許の景気拡大傾向を勘案すると、負債水準の高さ自体が金利上昇局面で直ちに家計部門の下押し圧力に直結するわけではない。
金利上昇が可処分所得に与える影響を試算すると、資産が負債を上回る家計部門では、 1%の金利上昇が、名目可処分所得を0.4%増加させる。しかし、金利上昇が株価・住宅 価格などの資産価格を下落させ、これが消費等へ影響するという間接的影響を勘案すると、実質個人消費は、▲0.4%減少。住宅投資減少(▲1.9%)を含む家計部門全体では、 実質GDPを▲0.4%下押しする結果に。
一方、企業部門では、1%の金利上昇により、[1]直接的な利払い負担の増加を通じて 企業収益が ▲2.8%下押しされること、[2]資産価格の下落、個人消費の減速などに伴う 間接的な影響が出ること、の二つの経路から設備投資が▲3.4%減少し、実質GDPを ▲0.3%押し下げると試算される。
家計部門・企業部門への影響を総合すると、金利1%の上昇で実質GDPが向こう1年間で▲0.7%下押しされるとの結果。循環的な回復局面にある米国経済にとって、深刻な景気後退に陥る程のインパクトでないものの、2004年後半の景気拡大ペースが、年前半の4%台から加速せず、 3%台にスローダウンする要因となろう。
さらに、リスク要因として、金利の上昇を契機とした株価・住宅価格などの資産価格の下落が予想以上に進む結果、家計のバランスシートが悪化し、実体経済を一段と下押しするルートについては警戒的にみていく必要。

 米国では、雇用情勢の改善傾向やFedの利上げスタンスの明確化を受け、長期金利が3月中旬のボトム3.68%から5月中旬には4.86%へと約1.2%ポイントもの急上昇を演じた(図表1)。
 ちなみに過去の利上げ局面(94年~、99年~)の長期金利と政策金利の動きをみると(図 表2)、直近ボトムからの長期金利上昇幅は、FF金利累計引き上げ幅の7~9割方であり、足許の長期債市場は、既にFF金利誘導水準の1%引き上げを織り込んでいる可能性がある。
 以下ではこうした金利上昇が米国経済に与える影響を家計部門、企業部門の各々につい て検証した。



【2】家計部門への影響
・ 家計部門の財務状況を概観すると、負債比率(対可処分所得比、対総資産比、図表3)、返済負担比率(図表4)は過去最高の水準にある。

・ただし、以下を踏まえると、負債水準の高さそれ自体が金利上昇局面で直ちに家計部門の下押し圧力に直結するわけではない
  [1]固定金利負債の割合の高さ(約6割)
市場金利の上昇が直ちに利払い負担増加につながる割合は約4割にとどまる(図表5)。
[2]景気拡大傾向の持続
足許、延滞比率、債務不履行比率は緩やかに低下(図表6)。過去の金利上昇局面でも、同様の傾向にあり、家計負債が問題化するのは、景気後退局面に限られている


・ 金利上昇が可処分所得に与える影響を試算すると、資産が負債を上回る家計部門では、1%の金利上昇は、名目可処分所得を0.4%増加させるとの結果。
・ 一方、金利上昇が家計部門へ影響する経路としては、上記の[1]所得の変化を通じた直接的影響(所得効果)のほかに、[2]金利上昇が資産価格を変動させ、これが消費等へ影響するという間接的影響(資産効果)がある。
・ そこで、金利上昇が資産価格に与える影響を試算すると、住宅価格は長期金利1%の上昇で▲4.8%下落、株価は、▲6.4%下落するとの結果。
・ これらをもとに実質個人消費に対する影響を試算すると、所得効果が+0.4%、住宅の資産効果(逆資産効果)が▲0.6%、株式が▲0.2%との結果。合計で実質個人消費を▲0.4%下押し。なお、実質住宅投資は▲1.9%減少すると試算され、家計部門全体では、実質GDPを▲0.4%下押しする。

・ 以上から、金利変動による家計部門への直接的影響のみを考えると、短期的には家計所得の増加要因となるものの、警戒すべきは、金利上昇が株価・住宅価格など資産価格の押し下げを通じて家計のバランスシートを悪化させるルート。足許の雇用情勢の回復を勘案すると、金利1%の上昇による個人消費下押し圧力を相殺する雇用者所得の増加(+0.5%)は達成可能であり、現状では、大幅な個人消費減速の可能性は高くないが、株価や住宅価格など資産価格が大きく下振れする場合には要注意



【2】企業部門への影響
米国非金融企業部門では近年、財務体質が改善傾向
[1]市場から資金調達は抑制気味に推移(図表8)、
[2]負債/キャッシュフロー倍率もキャッシュフローが改善するもとで低下傾向(図表9)。
  負債/資産比率も安定傾向が持続。
[3]金利低下に伴い利払い負担は概ね横ばい。収益改善を背景として利払い負担率は急速に低下(図表10)



・ 以下では1%の金利上昇が企業部門に影響する経路を以下の3つに分けて考える。
[1]直接的な利払い負担の増加
[2]資産価格の下落、個人消費の減速などに伴う間接的な影響
[3]長期金利上昇、株価下落が起債、新株発行を抑制し資金調達チャネルが縮小
・ このうち、[1]直接的な利払い負担の増加規模を試算すると、企業収益を▲2.8%下押しし、これが実質設備投資を▲0.4%減らす(図表11)。
・ [2]の間接的な影響については、先の家計部門の試算から得られた個人消費、住宅投資、株価の下落幅をもとに試算すると、設備投資を家計需要(個人消費・住宅投資)の減少が▲0.9%、株価下落が▲2.1%下押し。[1]、[2]合計で設備投資は▲3.4%減少し、実質GDPを▲0.3%下押し
・ なお、[3]の資金調達については、既にみた通り、企業の財務体質の改善が進む下、今のと ころ資金逼迫の動きはみられない。足許、企業は内部資金の範囲内で設備投資をまかなっており、ファイナンシングギャップはマイナスに。

 以上より、企業部門に対しては、利上げが収益下押し・設備投資押し下げ圧力となるものの、[1]これまでの収益回復基調と、低金利の恩恵を受けて、企業の財務体質が改善していること、[2]雇用回復の動きが、2004年後半の減税効果剥落後の個人消費減速を限定的なものとする可能性を勘案すると、深刻な影響が出るには至らない公算。

 家計部門・企業部門への影響を総合すると、金利1%の上昇で実質GDPが▲0.7%下押しされるとの結果。循環的な回復局面にある米国経済にとって、深刻な景気後退に陥るイン パクトはないものの、2004年後半の景気拡大ペースが、年前半の4%台から加速せず、3%台にとどまる要因となろう。
 さらに、リスク要因として、金利の上昇を契機として資産価格がアンダーシュートし、実体経済を予想外に下押しする可能性には注意が必要



以上
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