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2004年02月12日

引退世帯が支える消費と家計負担増加のインパクト

【目 次】
  【1】 個人消費の現状
  (1) 減少を続ける勤労者世帯の消費

  (2) 引退世帯の消費は選択的な支出が牽引する中で堅調維持

  (3) 引退世帯の消費堅調の背景
    [1]収入の安定性
    [2]物価下落による金融資産の実質購買力の増加

  (4) 引退世帯消費のインパクト

  (5) 消費性向上昇が持つ二面性 ―― 持続性への懸念

【2】 2004年度以降の家計負担増加
  (1) 負担増加は2004年度5000億円、2005年度1兆円

  (2) 負担増加の影響は限定的
    [1]家計部門が政府部門から受け取る「ネット」の給付額の増加
    [2]物価下落による金融資産の実質購買力の増加の持続
    [3]雇用・所得環境の下げ止まり傾向

【3】 家計負担増加が家計に与える影響

【4】 個人消費の持続的な成長のために
要約
1. 2004年度、2005年度には、年金保険料の引き上げなど家計負担の増加につながる制度変更が相次いで予定されており、景気への悪影響を懸念する声がある。そこで以下では、個人消費の現状を整理した上で、今後の家計負担増加の影響を検討した。
2. 個人消費の現状を世帯タイプ別にみると、勤労者世帯では、可処分所得の減少に並行する形で過去5年間に支出額が約1割減少した。一方、引退世帯では、[1]相対的な収入の安定性の高さ、[2]物価下落による金融資産の実質購買力の増加、を背景として、消費性向が上昇し、消費は堅調に推移している。
3. こうした引退世帯の消費堅調は、世帯数の増加ともあいまって、わが国の個人消費全体を支える形となっている。もっとも、マクロの消費性向の上昇を招くため、中長期的には貯蓄不足による金利上昇を惹起し、日本経済にマイナスに作用するリスクがある。
4. 配偶者特別控除の廃止や、雇用保険料引き上げに加え、2004年度政府予算案と税制改正案に基づく制度変更により、今後、年金保険料の引き上げ等、家計負担が増える予定である。家計の負担増加は、2004年度5000億円、2005年度1兆円超に上る。
5. 上記の制度変更が家計に与える下押し圧力は無視できないものの、以下の事情を勘案すると、2004年度は消費の底割れは回避される見通し。 [1]家計の給付から負担を差し引いた「ネット」の給付額増加の状態が続くこと。[2]物価下落による金融資産の実質購買力の向上が引き続き消費下支え要因となること。 [3]雇用・所得環境の下げ止まり傾向に伴い、勤労者世帯の消費抑制が緩和されること。 もっとも、2005年度には、現在検討課題となっている一段の家計負担増につながる施策が実施される可能性があり、景気後退を招くリスクが高まることに留意が必要。
6. 個人消費の持続的な成長のためには、[1]持続可能な社会保障制度の構築を着実に進め、制度への信頼を取り戻していくとともに、[2]経済再生を通じ、勤労者世帯の家計所得増加を実現することが必要。とりわけ、家計所得を増加させることは、マクロの貯蓄率低下に一定の歯止めをかけつつ消費を拡大するために不可欠。
 昨年末に発表された2004年度政府予算案と税制改正案で、保険料の引き上げ、老年者控除の廃止など家計負担の増加につながる制度変更が相次いで発表された。2003年度税制改正で決定されていた配偶者特別控除の廃止や、雇用保険法改正による雇用保険料の引き上げに加えての負担増加となる。こうした制度変更の結果、消費の低迷が一層深まり景気へ悪影響が及ぶことを懸念する声があがっている。  そこで以下では、個人消費の現状を整理した上で、今後の家計負担増加の影響を検討した。
【1】個人消費の現状
(1) 減少を続ける勤労者世帯の消費
世帯タイプ別に消費動向を比較すると、勤労者世帯では、厳しい雇用・所得環境が続く下、可処分所得の減少に並行する形で過去5年間に名目ベースで約1割減少(図表1)。家賃をはじめとする物価の下落の影響を調整した実質ベースでも支出額は減少している。
(2) 引退世帯の消費は選択的な支出が牽引する中で堅調維持
一方、引退世帯(1)の消費額は、可処分所得が勤労者世帯と同様に減少するなかでも、堅調を維持。名目ベースでは横ばい、実質ベースでは微増となっている。  消費内容をみると選択的な項目が支出額を牽引(図表2)。世帯員一人当たりの消費額を比較すると、嗜好品等の食品(果物、酒等)、家具・家事用品、旅行費等の教養娯楽費、テレビ等の教養娯楽耐久財などへの支出額が堅調。なお、一般に高齢者世帯では、必需的支出である医療費が増えると考えられているが、世帯主70歳以上の世帯では確かに増加しているものの、60歳台の世帯では、その他世帯同様の増加にとどまっている。
(3) 引退世帯の消費堅調の背景
勤労者世帯同様に所得が減っているにもかかわらず、引退世帯で消費の堅調が維持されているのは、消費性向(所得のうち消費支出にあてる割合)が上昇しているため(2)。引退世帯の消費性向は100を上回っており(図表3)、貯蓄を取り崩すことで消費を支えている形(図表4)。  この背景としては、以下の2点を指摘可能。

この背景としては、以下の2点を指摘可能。

[1]収入の安定性
勤労者世帯では、勤め先収入が実収入の大半を占めているのに対し、引退世帯では、実収入の8割以上が年金などの社会給付となっている(図表5)。現役世代では、勤め先収入が減ったうえ家計負担が現実に引き上げられる一方、引退世帯では、少なくともこれまでのところ社会給付のカットは小幅にとどまっており、収入の安定性は相対的に高いと判断される。老後資金についてのアンケートでも、勤労者世帯の大部分を占める60歳未満の層では、老後資金が「非常に心配である」とする割合が高まっているのに対し、60歳以上では、緩やかな上昇にとどまり、心配している者のシェアも低い(図表6)。

[2]物価下落による金融資産の実質購買力の増加
家計部門のネットの金融資産(貯蓄-負債)(3)を年齢階層別にみると、引退世帯が大半を占める高齢者が多く保有しているうえ、90年代には、世帯主60歳未満の世帯との格差が拡大した(4)(図表7)。 このため、近年の物価下落により、この金融資産の実質購買力が増加し、消費を喚起する効果(ピグー効果)も高齢世帯で大きいと判断される。
実質購買力の増加を概算してみると、世帯主60歳以上の世帯では、消費者物価が下落に転じた99年度以降の累計で約22兆円と、60歳未満世帯の約20兆円を上回る(図表8)。
(4) 引退世帯消費のインパクト
引退世帯の消費を全体としてみても、引退世帯の支出が個人消費を下支えする形となっている(図表9)。これは、上記のような消費性向の上昇を伴った世帯あたり消費の堅調さに加え、世帯数が増加した結果。引退世帯数(5)は、人口の高齢化に伴い、1995年に495万世帯、2000年に656万世帯、2003年に770万世帯(全世帯数の22.4%)と増加傾向にある。  ちなみに、引退世帯で2000年以降、消費性向が上昇しなかったと仮定すると、家計調査の名目消費支出は、2001年の前年比▲2.7%、2002年▲0.8%、2003年▲1.7%という実績値から、さらに2001年に▲0.6%、2002年と2003年に▲1.4%下押しされていた計算となる。
(5) 消費性向上昇が持つ二面性 ―― 持続性への懸念
以上のように、引退世帯の消費が堅調であることは、短期的には個人消費の下支え要因として評価できるものの、中長期的には貯蓄不足による金利上昇を惹起し、日本経済にマイナスに作用するリスクも。
すなわち、引退世帯の消費堅調は、勤労者世帯に比べ消費性向が高い引退世帯のシェア上昇とともに、マクロの消費性向の上昇(=貯蓄率の低下)を招来(図表10)。2000、2001、2002年度には、貯蓄率低下に伴う金融資産の積み増し幅の減少に加え、資産価格下落による評価損が出た影響で家計金融資産が純減(図表11)。2003年には、所得環境や株価に下げ止まりの動きがあるなかでやや持ち直したが、このままマクロの貯蓄率が低下し続ける場合には、日本経済の構造的な問題とみなされ、為替や金融市場の撹乱要因となる可能性も否定できず。
(1)本稿では、データの制約から全世帯の7割強を占める世帯員二人以上の世帯についてみた。このうち引退世帯は世帯主が60歳以上で無職の世帯とした。自発的に「引退」した世帯に加え、就労意欲はあるが、職が見つからない「失業」世帯を含む。なお、勤労者世帯、引退世帯のほかに、[1]法人経営者、自由業者等からなる事業主等世帯(2003年の世帯シェア18.5%)と[2]世帯主60歳未満の無職世帯(同1.7%)があるが、世帯シェアが小さいこと、サンプル数が小さく統計の振れが大きいこと、[1]については収入のデータが公表されていないことから、本レポートでは勤労者世帯と引退世帯をとりあげた。
(2)勤労者世帯でも、世帯主50歳台、60歳台の世帯では消費性向が上昇傾向にあるものの、20歳台、40歳台が低下し、勤労者世帯全体では微増にとどまっている。
(3)総務省の「全国消費実態調査」によれば、実物資産も、金融資産同様、高齢者世帯が多く保有している。しかし中古住宅市場の整備やリバース・モーゲージの普及が遅れるなか、家計が実物資産価値を流動化し、消費につなげることは事実上困難であるため、本稿では、金融資産のみをとりあげた。
(4)世帯主60歳未満世帯の金融資産残高の伸び悩みは、持ち家率が上昇し、金融資産が実物資産(持家)に置き換わった影響を一部含むものの、基本的には、貯蓄余力低下のあらわれであると判断される。
(5)二人以上世帯の数。単身の引退世帯も2003年には360万世帯(単身世帯全体の26.4%)に上る。
【2】2004年度以降の家計負担増加
(1) 負担増加は2004年度5000億円、2005年度1兆円
2004年度政府予算案と税制改正案に基づく制度変更の主な内容は、以下の通り(図表12)。
2004年度には、既に決定されている配偶者特別控除の廃止(年末調整時に4790億円の負担増)に加え、10月からの年金保険料の引き上げ(10月~3月分で1,600億円の負担増)。負担軽減要因として、児童手当の拡充や平成15年度税制改正に伴う減税措置の効果が一部期待されるものの、2004年度全体では差し引き5000億円強の負担増加となる見込み。
続く2005年度には、年金保険料の引き上げや、引退世帯に影響が大きい老年者控除・公的年金等控除廃止の影響が本格化。2003年4月に成立した雇用保険法改正に基づく雇用保険料引き上げ(年間1500億円)も含めると、2005年度全体の負担増加額は、前年度対比1兆円を超える。
(2) 負担増加の影響は限定的
上記制度変更が家計に与える下押し圧力は無視できないものの、以下の事情を勘案すると、2004年度は消費の底割れは回避される見通し。
[1]家計が政府部門から受け取る「ネット」の給付額の増加
社会保障給付(年金・医療・介護保険等)が、人口の高齢化に伴い着実に増加する下、この受取額から家計の負担を差し引いた「ネット」の給付額は93年度以降プラス幅を拡大(図表13)。2004年度、2005年度も、現在計画されている負担増加は、給付額の増加を下回り、「ネット」の給付額は、依然として増加する見通し。年金等の給付が多い引退世帯を中心に、消費下支え要因となる。

[2]物価下落による金融資産の実質購買力の増加の持続
消費者物価の下落幅は足元で縮小しているが、医療費の窓口負担の引き上げなど一時的な制度要因の影響によるもので、物価下落傾向は根強く続く見通し(図表14)。このため、物価の下落による金融資産の実質購買力の増加が引き続き消費にプラスに作用。

[3]雇用・所得環境の下げ止まり傾向
雇用・所得環境の悪化に下げ止まりの動き。失業率の上昇に歯止めがかかり、雇用に対する見方も改善傾向(図表15)。これにより、勤労者世帯の消費抑制の動きも緩和される効果が期待可能。
(3) 家計負担増加が景気に与える影響
以上のように、今後の家計負担の増加による景気下押し圧力は、人口の高齢化に伴う給付の増加を主な下支え要因とする下で、当面、限定的なものにとどまる見通し。

もっとも、現在、検討課題となっている一段の家計負担増につながる施策が今後実施される可能性には留意が必要(図表16)。2005年度を展望すると、海外景気の減速が予想されるなか、既に見込まれている1兆円の家計負担増加に加え、一層の家計負担増につながる施策が実施される場合には、景気後退を招くリスクが高まるとみられる。

加えて、現状の「ネット」の受取超過持続は、財政赤字の拡大・年金財政の悪化、すなわち将来世代への負担先送りであり、持続不可能な姿。抜本的な社会保障改革が先送りされるなか、将来不安が消費を下押ししている状況も問題。
(4) 個人消費の持続的な成長のために
個人消費の持続的な成長のためには、以下の課題への取り組みが強く求められる。
[1]持続可能な社会保障制度の構築を着実に進め、信頼を取り戻していくとともに、社会給付と受取のバランスをとることで、マクロの貯蓄率低下に一定の歯止めをかけていくこと。消費不振をもたらしている先行き不透明感を払拭するとともに、将来世代への負担先送りに歯止めをかけることは喫緊の課題。

[2]経済再生を通じ、勤労者世帯の家計所得の増加を早期に実現していくこと。本格的な個人消費回復には、消費の支え手が引退世帯に限られる現状から、勤労者世帯を含む幅広い層が消費を支える形に復帰させることが不可欠。「今後の」引退世帯である現役世代が十分な貯蓄を行い、「現在の」引退世帯同様の資産を保有していくためにも急務といえる。所得増加こそ、貯蓄率低下に一定の歯止めをかけつつ消費拡大を実現するために不可欠な条件。
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