ビューポイント No.2025-007 トランプ政権のドル高是正構想 −基軸通貨の揺らぎにつながるのか− 2025年05月21日 福田直之第2次ドナルド・トランプ政権は、基軸通貨ドルの過大評価が製造業の競争力と雇用を奪い、貿易赤字を固定化してきたと考え、関税や為替政策を駆使してドル高の是正と貿易赤字の削減に取り組もうとしている。狙いは米国の再工業化と雇用回復、各国との負担分担である。実際、1950 年代に国内総生産(GDP)の 25%を占めた製造業は現在1割へ縮小した。中間層の所得シェアは 1970 年の 62%から 2022 年は 43%へ低下した。沿岸の金融・IT 都市は繁栄する一方で、中部のラストベルトは工場閉鎖や貧困、薬物問題に苦しみ、地域間・階層間の格差は深刻になった。また、中国は 2001 年の世界貿易機関(WTO)加盟以降の米国の貿易赤字を拡大させており、1990~2007 年の製造業雇用減の 44%を説明するとの分析もある。政権の経済政策ブレーンである大統領経済諮問委員会(CEA)のスティーブン・ミラン委員長は 2024 年 11 月の論文で、ドルの過大評価が起きている原因として、各国の外貨準備としてのドル需要の根強さを指摘し、負担の他国との分担の見直しに言及している。ドル高抑制のため、高関税の撤回と安全保障上の支援継続をレバレッジに使い、外国と為替調整をする構想である。「マル・ア・ラーゴ合意」構想という、プラザ合意をほうふつとさせるドル安誘導案も提示している。スコット・ベッセント財務長官も、各国を協力度で分類し、安全保障における協力や関税優遇で差をつける考えを持つ。ただ、2025 年4月の相互関税表明だけで米国債が売られたように、強引に対外不均衡の是正を進めれば、ドル安全資産神話を損なう恐れがある。ドル離れが進めばユーロ・円などによる「緩やかな多極化」が現実味を帯び、トランプ政権が維持しようとするドル覇権が逆に弱まる可能性がある。米国は巨額の対日貿易赤字を計上し、日米安全保障条約に基づく防衛義務も負っており、我が国は関税・安保双方で圧力を受ける公算が大きい。ただ、トランプ大統領の考え方は後の政権にも引き継がれる可能性があり、わが国は米国に依存しきった戦後 80 年の思考から脱し、米国との関係を軸としながらも自律的な国家戦略を再構築することが急務である。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)