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その環境配慮の取り組み、伝わっていますか?~伝わらない現実を変えるための企業間連携の必要性~

2025年02月26日 中島 栞


 近年、多くの企業が環境配慮の取り組みを進めている。業態や企業規模によってその内容は異なるが、例えば食品メーカーであれば、製造過程における温室効果ガスの削減、再生可能エネルギーの利用、排水の処理や使用水の削減、環境に配慮した包材の使用・回収・リサイクル、プラ削減やフードロス削減など多岐にわたる。こんなことまでやっているのかと驚かされることも多い。しかし、それらの取り組みを伝える手段は限られている。消費財メーカーであれば、パッケージや商品名、或いは店頭POPなどとなるが、他にも伝えなければいけない情報がある中、環境配慮の取り組みを強調するのには限度がある。結果、パッケージの隅に小さな文字で書いたり、エコラベルを付けたりといった対応にならざるを得ないが、これが想像以上に読まれない。そもそも、種類の多いエコラベルの意味をそれぞれ正しく理解している生活者もほとんどいないのが実態だ。企業の環境配慮の取り組みは、その努力に比して、あまりにも伝わっていないのである。

 せっかくの取り組みがなぜ伝わらないのか。もっと企業の努力を生活者に効果的に伝える方法はないか。そのような思いから、弊社「グリーン・マーケティング・ラボ」では、自社の取り組みが伝わらないという悩みを抱える企業に呼びかけ、「チャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアム」(以下「CCNC」)を立ち上げた。CCNCでは、メーカー・流通・脱炭素ソリューション企業・教育機関が一丸となり、企業の環境配慮の取り組みを買い物や教育の現場を通じて生活者に伝え、商品の選択や購買行動の変容を促すための活動を推進してきた。

 活動の一つとして、自治体等が主催する環境イベントに出展し、生活者の認知や共感を誘う工夫を施した施策を展開している。例えば、大阪府と協力し、ショッピングモールの一角で実施したイベントでは、大阪府やCCNC参加メーカー数社による取り組みについて、オリジナルキャラクターを用いたイラストや直感的な表現を使った立体的な説明パネルを制作し、面をとって、実際の商品とともに展示した。そして、展示をヒントに回答すると景品がもらえるクイズを実施することで、参加者に展示内容をじっくり見てもらうことを狙った。
 しかし、実際に現場で参加者の様子を観察したところ、説明をじっくり読もうとする人は少なかった。一方で、こちらから話しかけると想像以上に話を聞いてくれることが分かった。例えば、環境配慮の取組みを示すA社独自のエコラベルについての説明では、「このエコラベルが付いているから探してみて」と言って展示商品(誰もが知っている身近なお菓子)を渡すと、「こんなところに(エコラベルが)付いてた!」「今まで全く気付かなかったのが不思議」「家でも探してみよう」など、高い関心を持っていただけた。

着ぐるみとパネルで生活者に足を止めてもらう様子



商品に付いているエコラベルを見てもらう様子



クイズへの参加を促すパネル


 立体的なパネルを置き、キャラクターやクイズで誘導してもなお説明をじっくり読む人が少ないということは、説明するスタッフのいない店頭でPOPやパッケージによって訴求するだけでは、読んでもらえる可能性は非常に低いということだ。しかし、クイズやパネルを通じて足を止めてもらえる場を作ったうえで、実際に人が立って説明すれば、取り組みを理解してくれる人を確実に増やすことができることも実感できた。この体験を通じて、企業の環境配慮に対する取り組みがまだ十分に知られていない現時点では、手間と費用をかけてでも地道にイベントなどを実施して生活者と対面でコミュニケーションをとることが、回り道に見えて、実は一番効果的な訴求方法なのではと考えるようになった。

 ただし、それを個別の企業の努力に委ねることには難しさを感じる。個社単独で行うイベントでは面をとるのが難しいし、その企業なりその商品なりには関心を持ってもらえるかもしれないが、企業の環境配慮に対する取り組み一般に関心を向け、購買行動の変容を促すものにはならないだろう。コストや人手の面でも負担が大きい。それだけの手間暇をかけられる企業は、一部に限られる。
 CCNCが自治体や小売店と連携し複数企業で一体となって啓発コンテンツを企画・実施するようにしているのには、このような背景がある。皆で協力し合い、コストを分担し合うようにするからこそ、地道な普及啓発の取り組みを継続的に実施することが可能になるのである。

 これまでの活動を通じて実感するのは、生活者の認知を変え、購買行動の変容を促すには、業界や企業の垣根を超えて協力をし、リソースを持ち寄りながら共通の知見を獲得・共有していくことが求められるということだ。また、各所で同時多発的にこのような協力関係が生まれ、生活者との丁寧なコミュニケーションが継続して行われてゆけば、環境配慮に取り組む企業の商品・サービスが選ばれる市場が着実に育つということにも確信が持てるようになった。
 自社の環境に対する取り組みをうまく伝えることができず、半ば諦めてしまっている企業担当者も多いことと思う。しかし、諦めるのはまだ早いのではないか。個社では突破できなかったことも、業界や企業の壁を超えて力を合わせれば道は開けるからだ。CCNCの活動はささやかだが、その糸口は示せたと思う。自社の取り組みが伝わらないと悩んでいるならば、周りの企業や団体を巻き込んで、共に啓発活動を行うことから始めてみてはどうだろうか。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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