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発達障害のある人への「配慮」を考える

2024年12月10日 山内杏里彩


 「発達障害」という言葉が知られるようになった。発達障害は人口の1割程度存在するとされているが、発達障害とは何か、発達障害の具体的な症状、特性とは何かについては詳細を知らないという方も多いと思う。

 2024年度に日本総研の主催で立ち上げたニューロダイバーシティマネジメント研究会では、発達障害のある人が能力を発揮しやすい業務領域やマネジメント手法を検討している。研究会の活動の中で、発達障害のある人自身やその支援をする方々の話を聞く機会も多い。そういう時に筆者が感じるのは、少し話を聞いただけでは発達障害の有無はわからないということだ。もちろん、特性の強弱にもよるが、診断結果を持っている方でも、周囲からはちょっと変わった性格程度にしか感じられない場合も多い。

 発達障害支援法(2005年4月1日施行)の定義に従えば、 発達障害とは、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」である(第二条)。

 この定義にあるとおり、発達障害には多様な症状があり、人によってその特性も大きく異なっている。例えば、自閉スペクトラム症(ASD)では、他人との関係性構築やコミュニケーションが苦手という特性が見られることが多い。一方、注意欠陥多動性障害(ADHD)では、不注意や多動の特性が強い場合はしゃべりすぎたり、話が飛んでしまったりする可能性はあるものの、コミュニケーションにおいてそれほど問題は発生しないという人も多い。ASDとADHDを併発しているケースもあり、その場合は、互いの特性が打ち消し合って、特性が表出しにくい。

 見た目ではわからない発達障害は、何か困りごとがあっても本人の性格の問題や努力不足で片づけられてしまいがちだ。だが、発達障害のある人は、障害があるように見えないよう、自身の特性の理解とその対策に並々ならぬ努力をしている場合が多いのだ。それなのに、性格の問題や努力不足と片付けられてしまう。ここに発達障害を抱えた人の生きづらさがある。

 障害者差別解消法(障害者を理由とする差別の解消の推進に関する法律、2016年4月1日施行)では、行政機関や事業者に対し、社会的障壁の除去について「必要かつ合理的な配慮をしなければならない」と規定されている(第5条、第7条、第8条)。この「必要かつ合理的な配慮」とは、障害者の権利に関する条約で使われている言葉で、条約では、「障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。」と定義されている。(※1)

 例えば、足の不自由な人には手すりを設置し、耳の不自由な人には字幕を付ける。これらが「必要かつ合理的な配慮」の例だ。だが、発達障害のように多様な症状がある障害の場合、どのような配慮ならば「必要かつ合理的」と言えるのか。これは、周囲の人はおろか、実は本人にすら想像しにくいことなのである。

 本人にすら想像しにくいことを、周囲がどう配慮できるのか。とある特例子会社の方が「障害のある方のために“必要な配慮や環境整備”はするが、“特別扱い”はしない」と言っていた。最初に聞いたときは、なんだか冷たい発言のように感じたのだが、どこまでが必要な配慮で、どこからが特別扱いなのかをしっかり考えているからこその発言なのだと気が付いた。

 合理的な配慮の定義に立ち戻って考えると、発達障害のある人にとって他の人と平等に働くための環境調整は”配慮”、一方で一緒に働く従業員が不公平感を持つ、マネジメント層が過度に気を遣うことは“特別扱い”に当たるのだろう。しかし、発達障害には様々な症状があり、特性の表出の仕方もそれぞれであるため、どうすれば他の人と同じように働けるのか、それをマネジメント層だけで判断するのは難しい。発達障害の当事者に加え、一緒に働く人も巻き込んで、どういう特性があって、何に配慮すれば良いのかを話し合うしかないだろう。

 ここまで考えると、これは発達障害のある人のみならず、本来は働く人全てに当てはまることではないかとも思う。得意・不得意は誰にでもある。だが、その得意・不得意をオープンに話し合える環境が、果たして今の職場にどれくらいあるのだろうか。以前働き盛りのうつ病患者の急増が話題になっていたが、これは発達障害のある人以外も生きづらさを抱えていることの証拠ではないだろうか。それぞれが抱える生きづらさを解消するためにも、障害の有無は関係なく、職場では互いの得意・不得意をオープンにし、配慮し、サポートし合えるような人間関係や雰囲気づくりをしていくことが、改めて重要になってくるのだろう。

(※1) 障害者の権利に関する条約は、2006年に国連で採択され、2008年に発効している(日本国の署名は2007年で114か国目)。なお、「合理的な配慮」は、reasonable accommodationの訳語である。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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