日本総研ニュースレター
第7次エネルギー基本計画策定に寄せて~柔軟に軌道修正しながらシナリオ実現を図れ~
2024年08月01日 早矢仕廉太郎
今後の方向性を決める第7次エネルギー基本計画
クリーンエネルギー中心の産業構造への変革を目指すGX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議が2024年5月13日に開催され、第7次エネルギー基本計画が年度内に策定される方針が示された。ターゲット年度が2030年から2040年に改められ、これまでの計画内容に大胆な変更が加えられる予定とされている。
規制緩和が進んできたとはいえ、エネルギー産業が政策方針の影響を受けやすいことに変わりはない。第7次エネルギー基本計画が、将来のエネルギー産業全体の方向性を示すものになると考えて間違いはない。
VUCA の時代に欠かせない、迅速な意思決定体制の整備
2021年10月に前回の第6次エネルギー基本計画を閣議決定して以降、国内のエネルギー市場はさまざまな課題に直面した。ロシアによるウクライナ侵略、中東情勢の緊迫化、記録的な円安進展、DX進展に伴う電力需要の増大など、計画策定時点では予見できなかったことが次々と発生し、その度に対症療法を講じざるを得ない事態に陥った。まさにここ数年間は、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)が介在するVUCA(先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態)の時代を生き抜くことの難しさを痛感させられている。
第7次エネルギー基本計画では、こうした予測が困難な事態にも対応するため、不確実性を考慮し複数のシナリオを示すと言われている。その場合、設定した複数のシナリオに対して、それぞれ対応できるよう備える必要がある。
VUCAへの対応に有効となる、迅速な意思決定の手法の一つとして、Observe(観察)・Orient(状況判断)・Decide(意思決定)・Act(実行)で構成される OODA ループが提唱されている。OODAループの下では、計画自体は変えないものの、発生したイベントの原因・影響を把握し、状況判断した上で、計画の範囲の中で柔軟な意思決定ができる。
例えば、DXの進展が電力需要を爆発的に増加させるシナリオと、反対に省電力化が進み電力需要の伸びが抑えられるシナリオを設定したとする。その場合、DXの進捗を観察し(O:観察)、どちらのシナリオに適合するべきかを判断した上で(O:状況判断)、そのシナリオ実現に向けた政策方針を定め(D:意思決定)、実行することになる(A:実行)。こうした一連の意思決定を迅速にできる体制を整備することが必要ではないか。
S+3E を適切に把握するための指標設定と運用管理がカギ
迅速な意思決定を支える基盤として、目標の進捗を把握するためのKPIの設定も重要となる。エネルギー政策の大原則は、安全性(Safety)を大前提として、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時に実現する「S+3E」である。
前回の第6次エネルギー基本計画でも、大原則に従い、エネルギー自給率、電力コスト、エネルギー起源のCO2排出の削減割合について目標値が設定されていた。しかし、実際にはCO2排出の削減割合 46%に注目が集まってしまい、エネルギー自給率や国内全体の電力コストの総額に焦点を当てた具体的な政策の議論は少なかった。未曽有のインフレや円安による影響を踏まえた実態に沿う指標でなかったことも、議論が盛り上がらなかった原因と考えられる。
例えば、経済効率性を図る指標として、家計支出に占めるエネルギーコストの比率や海外のエネルギーコストと比較できる指標を採用するのもよいであろう。また、主要なエネルギーとなる電力分野では、安定供給の観点から供給予備力、経済効率性の観点から再エネの出力制御率など、業界でよく用いる指標を設定する考えも有効といえる。
エネルギーの明るい未来を照らす羅針盤に
確実な安定供給、低廉なエネルギーコスト水準を担保しつつカーボンニュートラルを達成する道はまだ明示されておらず、発生するイベントごとに探り探り歩みを進める他ないであろう。その際、安定供給、経済効率性、環境適合の3つのEの状況を的確に把握し、予期せぬイベントにも、目指すシナリオに向けて迅速な軌道修正を図れれば、エネルギーの明るい未来にたどり着けるはずである。第7次エネルギー基本計画が、このようなエネルギーの明るい未来を指し示す羅針盤になることを期待する。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。