日本総研ニュースレター
民間主導による水道事業のデータ利活用~データ所有と標準化で継続的な成果を目指す~
2024年06月01日 副島功寛
ウォーターPPPによるデータ利活用で事業コストを削減
水道事業は今、資産の老朽化、技術職員の減少、自然災害の増加などの経営課題に直面している。そこで国が推進しているのが、民間活用を促進するウォーターPPP(以下「WPPP」)だ。例えば、内閣府では10年間で100件の導入目標を設定した。令和6年度から水道の所管省庁となった国交省も、WPPPの導入検討の支援を開始している。
WPPPの導入効果のうち、筆者は特に「データ利活用の深化による事業成果の達成」に注目している。例えば、施設データや修繕データなどをAIを活用して分析することで、更新計画が最適化され、事業コストの削減といった効果が期待できるようになる。そこで近年では、水道事業を担う各自治体(以下「水道事業者」)での議論も加速している。
しかし、データが十分利活用できず、成果が出ていない現場も少なくない。その背景には、以下のような構造的課題があると考えられる。
①水道事業者単独では事業数が限られるため、データ利活用の費用対効果を確保できる条件が整わない
②定期的な人事異動があり、データ利活用から事業成果の達成までを担える人材育成やノウハウ蓄積が難しい
一方で、民間事業者は、複数の水道事業者からの受託により、データ利活用の費用対効果を確保しやすく、専門人材の育成やノウハウ蓄積も行いやすい。つまり、水道事業でのデータ利活用は、WPPPを通じて民間事業者に委ねる形が、水道事業者にとっても成果を得やすいと思われる。
水道事業者によるデータ所有とデータ標準化が必要
民間主導でデータを利活用する際、重要になるのが水道事業者側でデータを所有することとデータの標準化だ。
民間事業者にデータ利活用を委ねると、水道事業者は自らデータを蓄積し、所有することに消極的になりがちだ。しかし、それでは他の民間事業者による「運営の代替性」が確保できなくなり、中長期にわたって民間事業者間の競争が起きにくくなる。つまり、民間主導にすることで、結果として水道事業者の財政負担の高止まりを招く懸念がある。
また、データを所有しても標準化されていなければ、水道事業者間でのデータ比較や他の民間事業者によるデータ利活用は難しい。民間主導のデータ利活用を通じて、官民双方がフェアに事業成果を享受するには、水道事業者側でのデータ所有とデータ標準化を行うことが重要となる。
標準化されたデータを水道情報活用システム上で共有
その有力な手段として、国が推奨する水道情報活用システムの導入が期待されている。データが標準化されてプラットフォーム上で蓄積される仕組みとなっているため、水道事業者が標準化されたデータを所有しやすくなるからだ。
その際、ポイントになるのが水道事業者と民間事業者の合意形成だ。WPPPは事業範囲が広くなり、高い事業運営能力を期待される傾向があるため、受託可能な民間事業者数が絞られる可能性がある。その場合、対応しにくい条件を課す事業には応募が集まらない恐れがある。水道情報活用システムの適用条件や導入までの移行プロセスなど、WPPPでの事業条件を調整しながら民間事業者に提案を求めることで、中長期での成果を得ることを目指すべきだ。
中長期のパートナーシップで継続的な成果を目指すべき
こうした検討を公募時や事業開始後に行う際、次期事業で別の民間事業者に委ねる可能性を示唆しすぎないように注意したい。現事業を受託する民間事業者が事業を改善する意欲を失い、適切な投資などを怠りかねないからだ。
実態として、同じ民間事業者に継続的に業務を委ねる方が、データ利活用をより早く深化でき、事業成果も高まりやすい。運営の代替性の確保については、あくまで民間事業者が優位な立場になり過ぎないためのものとすべきだろう。
一方、民間事業者が自社の事情によって受託を継続できなくなる可能性もある。つまり、水道事業者がデータを所有し標準化することで、民間事業者は「撤退」できる条件を得られるともいえる。
受託した民間事業者との中長期のパートナーシップを基本にしながら、水道情報活用システムの活用によって別の民間事業者への変更を妨げない条件を設定しておくことが、継続的に事業成果を享受するための基本姿勢ではないか。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。