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海外のB Corp認証事例に学ぶ

2024年07月23日 渡辺珠子


 2024年5月1日~4日にかけて台湾・台北市にて「アジア太平洋地域B Corpチャンピオンリトリート」というB Corp認証の国際イベントが開催された。B Corp認証は、米国のNPO法人B Labが運営する国際認証制度で、社会性と利益を両立する事業を展開する企業だとB Labから承認された企業に与えられる。この国際イベントは、アジア太平洋各国・地域におけるB Labのグローバルパートナーと、各グローバルパートナーのローカルパートナーが集まり、B Corp認証企業事例を共有するとともに、B Corp認証企業を取り巻くエコシステムの活性化についてお互いの知見を共有、議論する場として開催された。B Labの日本のグローバルパートナーは一般社団法人 B Market Builder Japan(以下、BMBJ)だ。日本総合研究所はBMBJのローカルパートナーとして台湾での議論に参加した。

 B Corp認証はB Labが設定した200を超える基準をクリアすることで取得できる。基準は、企業の製品やサービスを通じて社会的・環境的にもたらすプラスやマイナスの影響、事業の透明性や説明責任など多岐に渡る。ISOやJIS規格のように企業内の一部の取り組みや商品単体向けの認証ではなく、商品・サービス含めて企業全体を評価する点が特徴だ。2024年6月末現在、世界全体で9,000社がB Corp認証を取得している。2019年から2023年までの取得企業数は年率25.8%増と急速な拡大を見せており、その勢いは現在も継続中だ。なおアジア太平洋地域の取得企業は全体の約11%に当たる1,000社で、日本の取得企業数は41社である(※1)

 今回のイベント内で共有されたアジア太平洋各国・地域の知見や事例の中で、筆者が注目した内容を2点紹介したい。
① 採用と離職防止
 B Corp認証取得と求人応募者数に相関性があることについて世界的に指摘されているが、アジア太平洋地域でも同様の傾向がみられる。特に台湾では少子高齢化が急速に進んだことを背景に労働力不足が年々深刻化しており、中小零細企業にとって人材確保が喫緊の課題だ。台湾のB Corp認証取得企業はそれ以外の同規模の企業と比較して女性取締役数が1.6倍、男女同一労働同一賃金の達成率が1.8倍となっており、これが離職防止や優秀な人材採用に繋がっていることが報告された。スピーカーとして招聘された台湾の中小企業も、B Corpの認証基準を参考に従業員に対する福利厚生等に手を加えた結果、10年前に比べて従業員数は4.5倍に増加、若手従業員の離職率は毎年3~5%と低く抑えられているとのことだった。(台湾の24歳以下の平均離職率が7.9%(※2) )。

② 優秀なサプライヤーという評価
 気候変動対策や人権など世界的にESGへの対応強化が求められる中、ESG調達やSDGs調達と呼ばれるように、サプライチェーン上の取引先企業に対してもESG対応や情報開示を求める動きが広がっている。しかし未上場の中小企業の場合、発注元企業が求めるESG対応や情報開示をどのように進めるかに悩む場合が少なくない。台湾や韓国のB Labグローバルパートナーは、この課題に対してB Corpの認証基準を活用した対応方法を共有し、アドバイスを提供している。ESGの各カテゴリとB Corp認証基準を紐づけ、B Corp認証の取得ではなく、基準をうまく活用することで「環境・社会にとって良い企業行動」を拡大することが狙いだ。基本的にアドバイスは無償で提供される場合が多いが、個別企業の状況に合わせた改善策の検討を進める際には、B Labグローバルパートナーが各国のESGコンサルティング企業などを紹介することもある。台湾のB Labグローバルパートナーは、B Corp認証を取得したことで独自のSDGs調達基準を持つ半導体企業TSMC社から発注を取り付けた零細企業を好事例として取り上げ、「B Corp認証基準をうまく活用することは台湾の多くの中小企業にとって有用だ」と主張した。
 B Corp認証を取得すると投資や融資が得られやすくなるというメリットがあるのか、という質問をしばしば受ける。B Corp認証基準を満たすことと短期的な財務パフォーマンスの間に明確な相関性があるわけではない。他方でB Corp認証を取得した企業はその他の企業に比べて事業継続性があるといったレジリエンス力があるという分析結果が報告されている(※3)。イベントでのヒアリング結果を加えれば、取引先としてESG情報開示の要請に十分対応できると言える。つまり直接的な資金調達メリットは不明だが、ESG対応に迫られる企業からサプライヤーとして継続的に選ばれる可能性が高い。

 上記の①、②ともにB Corpの認証基準をうまく活用することで、企業のESG対応力を強化し、結果として人材確保や継続的な取引といった成果を上げている。B Corp認証基準は公開されているため、認証取得を目的とせずともESG対応力強化の参考情報として活用することは可能だ。特に人権やダイバーシティなどESGの「S」の取組み強化を検討している企業は、B Corpの基準を参考にしてみるのも一案だ。

(※1)世界全体および日本のB Corp認証企業数はB Lab Global "2023 Annual Report" より引用。アジア太平洋地域、日本のB Corp認証企業数は"B the Change" より引用。いずれも2024年7月1日閲覧。
(※2)Taiwan National Statistics "Turnover and employee's movement survey" より引用。
(※3)B Lab Global, 2023, "Insights Series No. 2 Financial Performance and Resilience of B Corps"


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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