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石油依存なき時代の実現に向けて ~産官学で実現するカーボンサイクルイノベーション~

2024年07月01日 福山篤史


石油依存からの脱却をイノベーションで推進
 カーボンニュートラルの達成が重要な社会的課題となる中、温室効果を持つCO2を大気中から削減する対策が各方面から進められようとしている。これまでは、省エネルギー化や再生可能エネルギーへの転換といったCO2の排出を抑制するアプローチが主であったが、現在では、排出されるCO2を回収して適切に処理をするアプローチについても研究開発や実証が進められるようになった。
 CO2を地中などに固定化するCCS(Carbon Capture and Storage)については、政府が検討を進め、事業者の許可制度等を盛り込んだ法律が2024年5月に成立した。さらに、CO2を有効に活用するアプローチであるCCU(Carbon Capture and Utilization)に関しても、今後の大きな進展が期待される。
 これからのエネルギーは、CO2の主要な発生源である石油依存からの脱却が加速することが予想される。ここでもう一つ重要なのは、こちらも私たちの生活に欠かせない、素材としての石油を、他の炭素源、すなわちバイオマス・CO2へシフトしていくことである。
 地域内で生じる炭素源であるバイオマスとCO2を持続的に活用するためには、これらを原料として素材を循環させる、炭素循環(カーボンサイクル)の視点が重要となる。
 また、素材原料の単なる置き換えにとどまらず、地域の産業の創出などの複数の価値を生み出す視点も重要となる。短期的には、地域産業の創出・イノベーション・CO2排出削減などの複数の価値を同時に生み出し、その価値を適切に評価する仕組みを構築することになる。

バイオマス・CO2が実現するカーボンサイクル素材産業
 石油依存なき時代を実現させるためには、「バイオマス・CO2を炭素源としたカーボンサイクル素材産業への転換」が重要な課題となる。ただし、この転換を全ての地域で一斉に実現することは現実的ではないため、まずは特定の地域でモデルケースを作り、同時に他の地域にも展開できる仕組みを構築することが望ましい。特定の地域として、原料となる「農林水産業の土台」、需要としての「素材産業の素地」、カーボンサークルを形成する「コンパクトな経済圏」の3つの要素を兼ね備え、かつ中核となる地方公共団体や企業が積極的に取り組む地域を選定し、検討をスタートすることが重要である。

事業拡大には供給側と需要側のすり合わせが不可欠
 バイオマス・CO2を原料とした素材生産について、供給側自体の検討はこれまでも進められてきたが、地域の需要側との性能や価格のすり合わせは十分ではなかった。そのため、バイオマス・CO2を原料とする素材の生産設備の導入や製造プロセスの変更などに伴うコスト高を価格転化して販売することが難しかったのが実態である。また、製品の性能が石油由来から変化することについて、需要側の理解を得られないことも少なくない。そうしたことが積み重なり、事業規模を拡大しにくいという構造的な問題に陥っている。
 日本総研でも、この構造的な問題を打開するため、素材産業を供給者と需要者が一体となってつくり上げる取り組みを行っている。製品の価格や性能について、どの程度であれば利用できるのか、必要な政策的な制度・規制は何かなどを、計画段階から議論して明確化するアプローチである。
 特に、バイオマス・CO2を原料とした素材産業においては、石油を原料とする従来のプロセスとは異なる新しいプロセスが求められる。また、プロセス全体の設計とともに、構成する要素技術を拡充させることが欠かせない。そこで、日本総研では、企業の持つ事業ノウハウと、大学の知・技術を融合させるため、産官学が一体となった体制を構築し、新たな共同研究の創出と技術の実装を加速させている。
 脱炭素化への圧力は、産業創出や技術革新を推進する追い風でもある。この好機を捉え、供給者・需要者、企業・研究機関・地方公共団体という幅広いステークホルダーが知見・技術・ノウハウを持ち寄ることで、石油依存なき時代を実現させなければならない。また、この産官学による協力関係を、今後の新たなイノベーションを生み出す装置として発展させることも重要である。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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