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救急搬送体制の省力化・省人化に関する提言

2024年06月11日 山本健人、志崎拓八


全文資料

<要点>

●令和4年度の救急出動件数は723万件、搬送人員は平成14年度から1.6倍に増加しており、これに伴い現場到着および病院収容にかかる時間が増加、一方で救急隊員数の増加が僅少で救急搬送需要に追いついていない。

●特に、過疎地域では、社会構造や周辺環境の変化により、救急搬送の需給バランスが崩れはじめており、既存の救急搬送体制では、増加する搬送需要に対応しきれなくなっている現状がある。こうした状況下では、現場で活動する救急隊員の疲労感や身体的な負担と、それに起因する救急活動中のヒヤリ・ハットなど、国民の不利益が発生し得る。

●多忙な状況下での人員の逼迫によって救急隊員の心身には大きな影響が生じており、若年層の退職や、救急隊員の疲弊を要因とした事故等が発生している状況である。

● 現状の成り行きでは、出動件数の増加に伴い2030年時点で現場到着までに11分以上、病院収容までに50分以上がかかると推計され、業務負荷の増大と特に心停止や脳卒中などの循環器系疾患の患者への甚大な影響が懸念される。

●救急搬送にかかる業務負荷は、「(救急搬送件数/対応する救急隊数)×1搬送当たりの業務量」という形で模式化できる。これら3つの観点から、救急搬送を省力化・省人化していく必要がある。

●海外においては複数の国で、トリアージや機材の整備により2名体制での搬送を実施しており、人口比で救急車両の台数は日本と比較しても多い。すなわち稼働できる救急隊数が多いことから、隊員ごとの負荷は日本と比較しても少ないと考えられる。

●救急搬送の抑制の観点で、諸外国のようなコールトリアージや、民間救急の活用、1搬送当たりの業務量低減に向けたDX化への取り組み拡大の検討が必要である。また、軽症例を少人数で搬送する取り組みで地域をカバーする救急隊数を増やし、そのための車両や資機材の増強も射程に入れた検討が必要になる。

●そのためには消防・救急間の費用バランスの再検討など、財政的措置を含めたテクノロジーおよび車両も含む資機材導入の促進が不可欠である。諸外国において実施されているような不搬送の決定や、民間救急の活用、患者の状況に応じた柔軟な搬送に向けたトリアージプロトコルの質の向上も求められる。さらに、救急隊(および消防指令)の職務権限拡大と、職務権限拡大に応じた現場の救急隊員を保護する仕組みの構築等の制度および運用の検討、これらを評価するための救急に関する統一化されたデータの蓄積が必要となる。



<本提言の帰属>
本提言は、株式会社日本総合研究所リサーチ・コンサルティング部門ヘルスケア・事業創造グループが、中長期的な観点から社会貢献をしたいとの考えから、公正・公平な視点を心がけた上で意見を取りまとめ、提示するものである。

協賛:日本ストライカー株式会社

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