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中国グリーン金融月報【4月号】

 王婷


中国グリーン金融月報【4月号】をお届けします。

1.王の視点
中国、トランジションファイナンス支援の制度作りを推進
 国家発展改革委員会は関連部門と共同で、先月、「グリーン・低炭素トランジション産業指導目録(2024年版)」を発行しました。これは「グリーン産業指導目録(2019年版)」を基に改訂・更新したものです。
 今回の改正の目的について、政府としてグリーン産業だけではなく、伝統産業の低炭素トランジションを支援する必要に迫られる局面になり、グリーン産業と低炭素トランジション産業のそれぞれの範囲を定めて、政府が支援するトランジション産業の明確化を狙うためと謳われています。
 目録は、7つの大項目、31の中項目、246個の小項目という三層構造より構成されます。7つの大項目は、①省エネ・CO2削減産業、②環境保護産業、③資源循環産業、④エネルギーのグリーン・低炭素化、⑤生態系保護・修復・利用、⑥インフラのグリーン化・高度化、⑦グリーンサービスです。
 改定の特徴と主な内容は以下のように要約することができます。
 1点目の特徴としては、目録の名前に「低炭素トランジション」が追加されたように、「CO2削減」に関連する内容が多く取り入れられたことです。例えば、2019年版の項目と比較すると、「省エネ・環境保護産業」が「省エネ・二酸化炭素削減産業」に、「省エネトランジション」が「省エネ・二酸化炭素削減トランジション」に変更されました。また、「重点産業グリーン・低炭素トランジション」という項目が新たに追加され、そのサブ項目として「省エネCO2削減とエネルギー効率向上、生産工程改善とプロセス最適化、デジタル化、スマート化」が挙げられました。さらに、「CO2削減」に関連する新しい産業項目が追加されました。以下の通りです。



 2点目の特徴としては、伝統的エネルギーが、クリーン・低炭素トランジションに関連する産業として、目録に盛り込まれたことです。下記のように、2019年版と比べ、2024年版の内容が拡充されました。



 3点目の特徴としては、すべての項目に関して、支援の条件と基準を詳細に記述し明確化したことです。ひとつの例をとってみると、「省エネCO2削減とエネルギー効率向上」を求める条件として、「改修後、国家強制的エネルギー消費限度基準のトップレベルと『産業重点分野エネルギー効率ベンチマークレベルと基準レベル」に到達する必要がある』と明記されています。多くの項目には、適用される国家基準などが明記されています。
 
 実際、中国ではトランジションファイナンスに関する施策の検討が地方政府で先駆けてスタートしました。2022年1月に浙江省湖州市が「湖州市トランジションファイナンス支援目録2022年版」を発行しました。紡績業、紙・紙製品製造業、化学繊維製造業、非金属鉱物製造業等9つの産業で支援の対象を定めました。また、2023年12月には上海市が「上海市トランジションファイナンス目録(試行)」を公表し、水上輸送や石油加工、自動車製造など6産業を対象としています。両地方政府が支援する産業分野は異なるのですが、これらの地方で蓄積した経験と知見は、今後その他の地方また中央政府の制度作りにも参考になるものと考えられます。

 中国では、国家級のグリーン分野の支援目録が2つ存在しています。一つは、上述した、国家発展改革委員会が主導し産業振興の視点で作られるものです。一つは、人民銀行が主導し作成する「グリーンボンド支援プロジェクト目録」で、投融資の視点で作られるものです。低炭素トランジションに対する金融面の支援策がどんな内容になるのか、今後、注目されます。


2.今月のトピックス
【人民銀行等】「グリーンおよび低炭素発展への金融支援のさらなる強化に関する指導意見」を公表
 4月10日に、国家発展改革委員会、工業情報化部、財政部、生態環境部、金融監督管理総局、中国証券監督管理委員会と共同で発表。今後5年間で、グリーン・低炭素発展のため、世界をリードする金融支援体系を構築し、2035年までに関連する政策枠組みを実現すると表明。指導意見では、グリーン金融基準体系の最適化、情報開示に基づく懲罰メカニズムを強化する内容が盛り込まれた。
2024-4-10 中国人民銀行
http://www.pbc.gov.cn/goutongjiaoliu/113456/113469/5325946/index.html
コメント:2016年「グリーン金融体系の構築に関する指導意見」が公表されてから約8年、中国のグリーン金融は飛躍的に成長しました。中国人民銀行が発表した2023年末のグリーン融資残高は30.08兆億人民元で、前年比で36.8%増となっています。うち、基礎インフラのグリーン化に向け13.09兆元、エネルギー産業のグリーン化向けは7.87兆元、省エネ環境保護産業向けが4.21兆元となっています。ただ、様々な課題と新しい時代の変化に向けて、制度設計を見直そうとするのが今回のガイドラインの目的だとされました。指導意見では、2つの重要な点が提起されました。一つ目は、グリーン金融基準制度を最適化することです。具体的には、金融機関向けのCO2排出量算定方法とデータベースの確立、CO2排出量算定方法の適用の促進、金融機関が自らのCO2排出量データおよび投融資先のCO2排出量データの管理・統計の強化を推進すること、また、統一したグリーン金融基準体系を策定し、トランジションに向けた金融基準の策定と研究を加速させることが強調されています。二つ目は、環境情報開示について、金融機関と企業の環境情報開示を同時に推進することを強調しています。さらに、環境情報の開示と評価の質を改善し、金融機関の環境情報開示のガイドラインの改善、グリーン金融商品に関する健全な格付制度の確立を進めると強調されました。

【上海証券取引所等】「上場企業サステナビリティ報告書に関するガイドライン」を発表
 上海証券取引所、深圳証券取引所と北京証券取引所の3社は共同で、ガイドラインを作成し、公表した。2024年5月1日より施行。ガイドラインは6章63条から構成され、サステナビリティ報告書の情報開示の枠組み、環境、社会、ガバナンスの3分野の21の具体的なトピックを明記した。
中証180、科創50、深証100、GEMインデックスに組み入れられる企業、および国内外に上場している企業は、ガイドラインの要求事項に従ってサステナビリティ報告書開示を義務化するという。その他の上場企業には自主的開示を奨励する。
次のステップとして、上海証券取引所と深圳証券取引所は、より詳細な開示ガイドラインを策定し、上場企業に報告書の作成の際に参考となる具体的なガイダンスを提供し、さらに関連部門にESG格付け、指数開発、投資を支援する予定。
2024-4-12 SINA財経
https://www.szse.cn/aboutus/trends/news/t20240412_606840.html
コメント:本ガイドラインは、中国証券監督管理委員会の指導のもとで作られ、上場企業のサステナビリティ報告書の開示基準を明確化したことで、一部の上場企業では強制的にサステナビリティ報告書の開示が義務付けられるようになりました。いずれは、すべての企業まで報告書の開示の義務化が拡大するでしょう。Wind、商道、中国誠信を含む5つの主要のESG格付け機関は、ガイドラインを参考にESG格付けシステムを継続的に強化するということです。


3.今月のニュース
【国務院】炭素関連認証に関する規則の届け出要求の明確化

 温室効果ガス排出量の定量化に基づき、製品、マネジメントシステム、サービスなどの炭素関連認証を実施するための基本的な要求事項と手順を公表した。
2024-4⁻2 中国政府網
https://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/202404/content_6944116.htm

【国務院】「生態系保護補償規則」公表
 2024年2月国務院第26回常務会議で採択され、6月1日より施行。金銭的補償と市場メカニズムを通じて、生態系保護に参画する関係者の努力にインセンティブを与えることを狙う。
2024-4‐6 中国政府網
https://www.gov.cn/zhengce/content/202404/content_6944394.htm

【国家金融監督管理総局】「グリーン保険の質の高い発展の促進に関する指導意見」を公表
 グリーン保険を通じ、グリーン産業の運営やグリーンな生活・消費などに対するリスク保護と財政支援の強化を狙う。
2024-4‐20 中国政府網
https://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/202404/content_6947537.htm

【全国人大常委会】中国初エネルギー法(案)パブコメ
 中国エネルギー法(草案)が第14期全国人民代表大会常務委員会に審議された。既存の電力法、石炭法、省エネルギー法、再エネ法などを統合し、包括的な法的枠組みを確立する。
2024-4‐25 炭峰科技
http://www.npc.gov.cn/c2/c30834/202404/t20240425_436755.html

【広東省】初の割当量抵当担保融資基準を公表
 広東省市場監督管理局が「割当量抵当担保融資実施ガイドライン」を発表、2024年7月11日より施行。
2024-4‐17 21世紀経済網
https://www.21jingji.com/article/20240417/herald/af6a123534fb28db1d7d4ea7c6af49b5.html

【香港】全面的に「プラスチック禁止令」を実施
 4月22日より、使い捨てプラスチックの使用を管理・削減するため、「プラスチック廃棄物禁止令」(NPWO)と呼ばれる新しい環境法を施行した。
2024-4‐23 163ニュース
https://www.163.com/dy/article/J0FT08MU05371E5Q.html

【蘇州市】「江蘇省CO2排出ピークアウトカーボンニュートラルモデル建設方案」を公開
 第14次五カ年計画」の期間中に、代表的な都市園区と企業を選定し、CO2排出量ピークアウトとカーボンニュートラルのモデルプロジェクトを実施する。
2024-4‐26 163ニュース
https://www.163.com/dy/article/J0NHM7BK05328JC2.html


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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