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インパクト評価における「ベースラインデータ」の整備

2024年03月01日 渡辺珠子


「インパクトコンソーシアム」発足
 2023年11月22日、ESGやインパクト投資に携わる民間企業や関係団体および経済団体が中心となり、「インパクトコンソーシアム」が発足した。環境・社会的効果(インパクト)の創出にとって重要な投融資の手法や市場を、官民が連携して確立させ、事業を推進することが目的だ。
 このコンソーシアムは、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」で謳われる「金銭的リスク・リターンに加え社会面・環境面のインパクトを考えるマルチステークホルダー型企業社会を推進する」取り組みの一つに位置づけられ、共同事務局を経済産業省と金融庁が務める。コンソーシアム参画事業者や関係団体と関係省庁の連携を積極的に推進する構えだ。
 インパクトコンソーシアムには、4つの分科会が暫定的に設けられる。中でも注目したいのは、投融資におけるインパクト指標の標準化に向けた議論を行う「データ・指標分科会」だ。投資を受ける側の多くがインパクト評価に詳しくない中、インパクトの指標の設定やデータ収集には大きな課題があるとされる。インパクト投資ファンドが設定する独自の指標では、ファンド間での比較が難しく、日本語で参照できる指標例も少ないためだ。データ・指標分科会で環境・社会課題に応じたインパクト指標が設定され、データ収集の手法が整備されれば、インパクト投融資市場がアクセスしやすくなり、一層の活性化が見込めるはずだ。

「インパクトを測る」とは
 ESG評価は製品やサービスを生み出し顧客に提供する企業のプロセスを評価するものだが、インパクト指標は「事業や活動の結果として生じた、社会的・環境的な変化や効果を示す指標」(「“インパクト指標”を活用し、パーパス起点の対話を促進する」(経団連/2022年6月))だ。
 自分たちが見せたい成果だけ見せることは「インパクトウォッシュ(見掛け倒しのインパクト)」と言われかねない。だからこそ、データ・指標分科会でインパクト指標の設定方法や、インパクトを測るためのデータの収集・集計方法等についての何らかのガイドラインが示されることへの期待は大きい。

ベースラインとなる指標不足
 インパクトを測る上でもう一つ重要な要素は、ベースラインとなるデータの整備だ。製品やサービスを提供する前の状態が分からなければ、どの程度の成果や効果があったのかを測れないからだ。
 現在のインパクト投資では、投資を受ける側がデータを自ら収集することが多い。ベースラインに公的機関の統計データなどを使いたくても、データが古いことや該当する項目がないことも少なくない。投資を受ける側がアンケート調査などで独自にデータを取得することもあるが、データの信頼性や比較可能性などで課題が残る。実際、筆者が2023年にインタビューしたベンチャーキャピタリストからは「発行体が設定するインパクト評価指標やベースラインデータの妥当性に疑問がある」という声が上がった。
 データ・指標分科会では中期的な取り組み案として「国際団体等と連携した投資実践に活用できるデータ等の整備」を掲げるが、少子高齢化や地方の過疎化など日本社会固有の社会課題についてはやはり国内でデータを整備していく必要がある。インパクト投資市場が拡大する中、ベースラインデータの整備は急ぐべきだ。
 既に、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)対応として、国内の森林の生態系や日本近郊の海洋生物に関する研究成果をデータベース化を進めている大学もある。また、子どもの貧困や児童福祉に関する研究成果をデータベース化する検討を始めた大学も現れた。これらはインパクト投資を意識したものではないが、インパクト評価のためのベースラインとして活用できそうだ。政府を含めた様々な関係者が参画するインパクトコンソーシアムだからこそ、国内大学の研究に目を向け、ベースラインとして活用することを積極的に検討したい。
 インパクトコンソーシアムは2024年春に第1回総会が開かれ、各分科会の委員や検討内容などが正式に発表される予定だ。データ・指標分科会で何を検討し、どのような成果を生み出すつもりかについて、注目していきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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