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中国グリーン金融月報【2024年2-3月号】

2024年04月23日 王婷


中国グリーン金融月報【2023年2-3月号】をお届けします。

1.王の視点
世界が調整局面に入るなかでの中国電気自動車市場

 3月28日シャオミSU7が正式に発売されました。標準バージョン、PRO長距離バージョン、MAXバージョンの3車種があり、それぞれの価格は21.59万元、24.59万元、29.99万元です。外観が海外の有名車種そっくりで斬新さがないと批判する意見があれば、シャオミの長所である高いコストパフォーマンスを継承していると評価する声もあります。特に、シャオミは車、携帯電話、家電製品の統合制御を実現することで、新しいライフスタイル体験を実現していると評価する声も多く聞かれます。
 他方で、2024年にはいってから、中国の電気自動車市場に関してはホットなニュースが続々と伝えられています。
 まず、BYDをはじめとした新エネ車の値下げです。「秦PLUS DM-i Pride Edition」と「Destroyer 05 DM-i Pride Edition」の価格がそれぞれ7.98万元と7.19万元に引き下げられました。10万元以内の値段で新エネ車を手に入れる時代が到来したことになります。BYDに加え、国内メーカやテスラが相次ぎ値下げで追随し、10万元以下及び10~20万元の自動車市場が熱狂ぶりを呈しています。その背景には、技術革新、過剰生産に加え、新技術普及のため価格を下げても規模拡大を優先する戦略をとっている側面もあるといわれています。
 新興EVメーカ同士の競争も厳しくなっています。新勢力は2016年あたりでは数十社あったものの、奇点や威馬のように倒産したり、再編されたりする企業も少なくありません。新興EVメーカトップの3社も順位の変遷を辿っています。過去の蔚(来)・小(鵬)・理(想)の順位から、足元では理(想)・小(鵬)・蔚(来)の順となりました。理想は2023年に黒字経営を実現したものの、先輩格である蔚来と小鵬はまだ赤字のままです。テスラ車の値下がりが現実となるなか、これら3社に、どのぐらいマーケットが残されているのかに、注目が集まっています。
 中国メーカーと外資との合弁や共同の事例が増えたこともホットなニュースの一面です。例えば、小鵬とフォルクスワーゲンの協業では、B級EVを共同開発し、2026年に生産を開始する予定と報道されています。ステランティス・グループと零跑汽車は、51:49の出資で合弁会社を設立し、合弁会社は中国以外のグローバル市場への独占輸出販売権と零跑汽車の現地での独占製造権を持つそうです。また、蔚来がメルセデス・ベンツからの投資を求めたことや、トヨタが次期グローバルモデルに搭載する先進運転支援システム(ADAS)に関して、ファーウェイとモメンタとの連携を採用するとも報じられました。これらの合弁や共同事業の特徴は、中国企業が製品と製造技術を提供するという点にあります。
 政府が、国有自動車メーカの第一汽車集団、東風集団、長安汽車に対して、評価システムを変更すると発表したことも大きなニュースでした。従来、これらの国営企業に対する評価は収益性に重みが置いれていたのです。今回の変更で、収益のみを重視するのではなく、技術力、収益性、市場での差別化能力を重視することになりました。評価項目の変更を通じて、国営企業に、新エネ車の研究開発により積極的に取り組むよう促す狙いだと報じられています。今後、国営企業が新エネ車市場に参戦することで、市場競争はさらに競争激化することになると予想できるでしょう。
 今年2月には、アップルが10年間続く電気自動車の開発計画を白紙に戻すと宣言しました。また、今年に入って、フォード、GM、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、ジャガー・ランドローバーなどの自動車メーカは電気自動車の開発計画を縮小または延期すると相次ぎ発表しました。世界的に電気自動車開発が消極的になる市場ムードにおいて、中国メーカは、近年、技術革新を進め、電動化の次の目標であるスマート化に向けて、研究開発、製品製造にさらに舵を切ろうとしています。果たしてスマート化分野で競争に勝てるのか、中国自動車企業にとって次のチャレンジとなります。

2.今月のトピックス
【国家発展改革委員会等】グリーン・低炭素トランジション産業指導目録(2024年版)を発行
 国家発展改革委員会、工業信息部など10の政府部門は、「グリーン産業指導目録(2019年版)」を改定し、グリーン発展の新情勢、新課題、新要求を踏まえ、「グリーン・低炭素トランジション産業指導目録(2024年版)」を作成した。
2024-2‐29 国家発展改革委員会
https://www.ndrc.gov.cn/xwdt/tzgg/202402/t20240229_1364292.html
コメント:今回の改正では、まず目録の名前が変更された点が注目されます。従来の「グリーン産業指導目録」を「グリーン・低炭素トランジション産業指導目録」に変えたのです。その背景は、低炭素化トランジション産業支援を対象として追加し、グリーン金融やトランジションファイナンスとの関係性を高めるためだといわれています。改正の内容については、2点が注目されます。1点目は重点支援産業分野の分類をさらに精緻化したことです。省エネ・炭素削減産業、環境保護産業、資源循環産業、エネルギーのグリーン・低炭素化、生態保護・修復・利用、グリーンサービスの7つの分野を大項目とし、その下に属する小項目の内容を明記しました。例えば、省エネ・炭素削減産業を例にとってみると、省エネ設備製造、先進輸送設備製造、省エネ・炭素削減転換、重点産業分野のグリーン・低炭素転換、温室効果ガス制御の5つの内容を取り上げています。2点目は、新興産業分野を新たに追加した点です。具体的には、温室効果ガス制御、重点産業のグリーン・低炭素転換、グリーン物流、情報インフラ、グリーン技術・製品の研究開発・認証・促進、新汚染物質処理(マイクロプラスチックなど)、水素の生産・貯蔵・伝送・利用という全産業チェーンの設備製造など、グリーン・低炭素転トランジション等が盛り込まれました。政府は、今後これらの関連産業の発展を支援し、重点的に政策と資源配分を行うことになるでしょう。

【生態環境部】セメント業界「温室効果ガス排出量の算定及び報告」、「温室効果ガス排出量の検証に関する技術指針」に関する意見公募
 「炭素排出権取引の管理に関する暫定規則」に基づき、セメント産業に属する企業の温室効果ガス排出量計算の報告と検証を標準化し、国内の炭素排出権取引市場における同産業の適用範囲の制度的拡大を図るため、「セメント製造企業による温室効果ガス排出量の算定及び報告に関するガイドラインに関する意見公募のお知らせ」と「セメント製造企業による温室効果ガス排出量の検証に関する技術指針」が作成され、意見を募集している。募集期間は2024年4月15日までとする。
2024-3-29 生態環境部
https://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk06/202404/t20240403_1069931.html
https://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk06/202403/t20240315_1068508.html
コメント:セメント業界に加え、今回、同時にガイドラインが発出されたのはアルミ精錬業界です。算定基準、報告、技術検証などが整備されたことで、今年の政府作業報告が「2024年に全国排出権市場の対象が拡大される」としたことに呼応して、この二つの業界がいち早く全国統一排出権取引市場に組み込まれるだろうと予測されています。2021年7月に全国排出権取引市場がスタートした際に、14次5か年計画期間中に、電力に加え、石油化学、化学、建材、鉄鋼、非鉄金属、製紙、航空の7業種がすべて組み込まれるという予想がなされました。しかし、関連データ整備の作業が遅れることで、当初の計画が相当遅れているのは事実です。他方で、排出権取引対象が拡大されるとの観測に関連してか、3月29日の全国排出権取引市場の炭素取引最終値は90元/トンCO2eqまで高騰し、3月の月平均の取引値を押し上げて、82元/トンCO2eqに達しました。より多くの企業が全国市場で取引しなければならなくなると、市場は活性化され、炭素取引価格はさらに上昇するでしょう。

3.今月のニュース
【国家発展改革委員会】グリーン電力証書と省エネ・炭素削減政策との接点を強化

最近、「グリーン電力証書と省エネ・炭素削減政策との接点を強化し、非化石エネルギー消費を大幅に促進することに関する通達」を公表。省エネ評価にグリーン電力証書取引を組み込むという。
2024-2‐2 国家発展改革委員会
https://www.ndrc.gov.cn/xxgk/jd/jd/202402/t20240202_1363866.html

【国家エネルギー局】2024年非化石エネルギー発電の導入比率は約55%に
最近公表した「2024年エネルギー作業指針」において、非化石エネルギー発電の新規設置比率を約55%に増やし、風力発電、太陽光発電は全国の発電量の17%以上にするとの目標を公表。
2024-3‐25 中国政府網
https://www.gov.cn/lianbo/bumen/202403/content_6941282.htm

【国家金融標準化専門委員会】「証券・先物取引業におけるグリーン証券業務基準に関する計画(2024-2025年)」を公表
すべての市場参加者のグリーン証券業務に対する理解を高め、グリーン証券業務基準の確立・改善を目指し、基準を策定したという。
http://www.greenfinance.org.cn/displaynews.php?id=4250

【証券取引所】企業の持続的可能の情報開示ガイドラインに関するパブリックコメントの募集
上海証券取引所など3社は、「上場企業自主規制ガイドライン-サステナビリティ報告書(試行案)」を公開。上場会社のサステナビリティ情報開示の枠組みの確立、情報開示プロトコルの明確化を狙う。
2024-2⁻9 SINAニュース
https://news.sina.cn/2024-02-09/detail-inahmafk6135719.d.html

【浙江省】浙江省金融研究院が3つのトランジションファイナンス関連団体基準を公表
「紡績業転換金融支援経済活動目録」、「銀行金融機関転換融資実施規範」、「グリーン金融情報サービスプラットフォーム基本要求」という3つの団体標準を発表した。
2024-2‐23 グリーン金融専門委員会
http://www.greenfinance.org.cn/displaynews.php?cid=21&id=4254

【上海市】製品カーボンフットプリント管理システム構築加速に関する行動計画を作成
計画では、製品カーボンフットプリント管理システムの確立、製品カーボンフットプリントの測定、データ収集、評価・認証サービスの改善、カーボンフットプリントの適用シナリオの拡大などを主要タスクとする。
2024-3‐18 上海市政府
https://shanghai.gov.cn/gwk/search/content/9ddcd99b89f14cb2a3c301ab8fc8c859

【【蘇州市】工業園区は初めてESG産業発展促進のための支援策を導入
「蘇州工業園区ESG産業発展行動計画」及び「蘇州工業園区ESG発展促進に関する若干の措置」を公表。新設する適格なESGプロジェクトにつき最大500万元の奨励金を提供するという。
2024-3‐20 蘇州工業園区管理委員会
http://www.sipac.gov.cn/szgyyq/mtjj/202403/049ba495bf2f415a9564eabeddad6628.shtml
 
紹介した記事の原文は中国語です。内容を日本語でより詳しくお知りになりたい方は、
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100860-green-asiaatml.jri.co.jp(メール送付の際はatを@と書き換えての発信をお願い致します)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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