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自律協生社会構築に向けた地域でのデザイン実践活動

2024年04月11日 山崎新太野々村真輔森本佐理、平田知子


1.はじめに~自律協生社会と官民連携(PPP)
 日本総研は2023年度からの中期経営計画のスローガンとして「自律協生社会の実現」を掲げている。自律協生社会を「地域」に引き寄せて考えると、以下の2つが重要なポイントである。



 わたしたちはこれまで、PPP/PFIの分野でコンサルティング活動を行ってきた。特に地方都市におけるPPP事業では、自治体や地域住民と共に事業を構想・計画し、地元企業が関わる形で事業化を支援してきた。
 例えば北海道弟子屈町における温浴施設・図書館・プールの複合施設整備事業では、まず初年度に町民約30名と合計6回のワークショップを行い、中心市街地の将来像を描いた。そして、当該複合施設の持続的な運営のためには地域のまちづくりを担っている主体が関わることが重要と考え、地域のまちづくり会社である「テシカガタウンラボ(以下TTL)」との連携を義務付けたかたちで設計者と指定管理者(町外企業を想定)を募集した。具体的には、TTLとの協働体制として、JVやSPC組成という例を示しながら提案を募ることに加え、事業期間を通じてTTLに運営ノウハウを移転することを求めた。結果として札幌市に本社を置くフィルドが選定され、協働体制の構築やノウハウ移転について積極的な提案がなされた。
 一方、後述の通り、PPP/PFI分野のコンサルタントとして活動する中で、「越えられない一線」のような、ある種のジレンマを抱えている。それは各案件における立場や業務受託の仕方が関係している。わたしたちはコンサルタントとして、自律協生な地域の実現にどのように関わっていけるのだろうか。

2.課題認識~PPPコンサルタントのジレンマ

(1)自治体発意から地域発意へ
 PFI法第6条に基づく民間提案の制度は存在するが、いまだPPP事業の大半は自治体発意である。コンサルタントは自治体から業務委託を受け、民間事業者へのサウンディング調査などのプロセスを経て、事業条件を整え、応募の競争環境を整えていく。地域住民の想いは、事業の構想段階においてワークショップやアンケート調査により汲み取り、その結果を構想や事業者選定の評価基準の一部に反映する。ここには、あくまで自治体がPPP事業の内容や枠組みを作り、それに参加・協力してもらえる民間事業者を募るという構図がある。
 一方、自律協生な地域では、官と民が共に発意し、PPP事業の内容から各種条件までを共に創っていくことが望ましい。地域主導かつ共創型のPPP事業を創り上げる上で、「自治体(=発注者)の代理人」という従前のコンサルティングスタイルには限界があるのではないか。

(2)PPP事業からPPPまちづくりへ
 PPP事業において、コンサルタントは民間事業者の選定までの支援、あるいは施設整備期間のモニタリング業務までを受託することが一般的である。当該事業がどのように地域に好影響を与え、地域が成長していくのかを見届けたいと思いつつ、事業開始以降の長期間の関与は難しいのが現状だ。
 また、「多様な主体と連携して地域のさまざまな課題解決に持続的に取り組んでいくこと」を「自律協生な地域のまちづくり」と定義するならば、本来は特定のPPP事業だけではなく、官民連携によるまちづくりにまで関与したい。その時、プロジェクト単位かつ限定された期間でのコンサルティングというスタイルでは対応できない。わたしたちがPPP事業からPPPまちづくりへの関与を目指すとき、常日頃から地域と対話を重ねる関係性を築き、いつでも柔軟に支援できる方法を構築する必要がある。

(3)コンサルティングからコーチングへ
 コンサルタントはとかく啓蒙的になりがちである。業務の中ではPPPや特定分野(文化・スポーツ・DXなど)の専門家としての役割が求められ、事業内容について質の高い提案が期待されている。またPPP/PFIプラットフォーム(※1)のような場において、コンサルタントが事務局支援やファシリテート役を担う場合が多いが、議論を積極的に促し、円滑にアウトプットを出すことに固執してしまい、情報のインプットや議論の誘導を行ってしまうことがある。コンサルタントが自らの能力を発揮するということは、その裏返しとして、参加者の主体性や自ら考える機会を奪ってしまっている可能性がある。
 一方、自律協生な地域では、地域の担い手となる組織や個人が自ら考え、アイデアを生み、それを事業に昇華することが望ましい。そのためにコンサルタントは、地域の主体をエンパワーメントする役割を果たすべきである。関係者の想いや悩みに対し、「傾聴」「対話」「言語化」を繰り返すコーチング技術が求められる。

3.自律協生な地域との関わり方
 自律協生な地域におけるPPPを実現するために、わたしたちはコンサルタントとしてどのように地域に関わることができるのか。現在検討中の3つのモデルについて述べたい。

(1)官民双方への関わり
 1つ目のモデルは、PPP事業の構想段階から、コンサルタントが自治体と民間の双方に対し、事業化に向けた包括的なマネジメントサービスを提供するというものである。本モデルについては、現在、天草市において実証・研究を進めている。
 日本総研は令和5年9月に熊本県天草市と持続可能なまちづくりに向けた包括連携協定を締結した。当該協定に基づき、わたしたちは、天草市と武蔵野美術大学が進めている本渡港拠点施設整備プロジェクト(※2)に参画し、このプロジェクトを進めるため天草市および地元事業者から構成されるAMP(天草まちづくりプラットフォーム)への包括的なコンサルティングを実施している。
 本事業は、天草市の中央に位置する本渡港において、市民や来訪者の交流、および地域の魅力を発信する拠点施設を整備・運営するものである。当初は、「本渡港周辺環境整備事業基本計画(原案)(令和4年策定)」に基づいて検討が進められてきたが、施設の整備・運営主体(官または民、地元あるいは市外)に関する議論が難航していた。
 そこでまず官民対話の場として、天草市、地元企業、武蔵野美術大学、日本総研による官民連絡協議会を立ち上げ、導入機能、事業スキーム、事業条件など本事業を成立させるために重要な事項を皆で協議・検討することとした。わたしたちが仲介役となって対話をコーディネートするとともに、自治体の果たす役割や負えるリスクの整理、地元企業が事業に参画する場合の事業体組成や事業計画の作成支援を行い、武蔵野美術大学は建築や都市デザインのノウハウを生かして施設イメージの3Dモデリングなどを行っている。



 わたしたちがこのような立ち位置を取ることにより、天草市は主体的に庁内調整に向けた準備に取り掛かり、一方、地元企業は官民連携事業のノウハウを学びながら、本事業に前向きにチャレンジする機運を醸成していく、という環境を形成していきたい。また今後は、必要に応じて、地域外の企業と地元企業の協働をコーディネートし、事業化を推し進める役割を果たす可能性もある。官民双方へのコンサルティングサービスによって、「自律的な官民共創型のPPP事業の立ち上げ」と「協生型の事業化」に効果的に関わることができるのか、実証・研究を進めていきたい。

(2)PPP事業プロジェクトへの長期間の関わり
 2つ目のモデルは、事業主体であるSPCへの人材派遣や出資を行うことで、SPCの一員としての立場や責任を引き受け、地域のPPP事業に長期に関与するというものである。
 各地でPPP事業に携わっている経験を生かし、全国的なトレンドや参考事例の紹介、新規事業への人的ネットワークの提供、補助事業の活用による資金調達等の貢献が可能であろう。また、自治体との連携の潤滑油になることや、事業期間中の社会状況の変化に柔軟に対応して新規サービスを構築するなど、SPCの安定経営に貢献できる可能性もある。
 一方で、PPP事業からPPPまちづくりへ展開していこうとする局面において、特定の事業を実施するための主体であるSPC(※3)にとどまっていては、かえって活動の幅を限定してしまうおそれもある。どのような事業であればSPCに参画してこそ価値提供ができるのかについては、今後も引き続き模索していきたい。

(3)地域への派遣~まちづくりの当事者としての関わり
 3つ目のモデルは、地域の中でコンサルタント以外の立場を得て、まちづくりの現場に関わるものである。特定のPPP事業について業務委託を受けるコンサルタントではなく、地域課題を引き受ける当事者に近い立場で、地域のまちづくりに総合的に関わっていく。このモデルでは、自治体、地元企業、地域住民との個人的な信頼関係を基盤として、以下のような価値を提供できる。



 これらの価値は、まちづくりの当事者に近い立場で、地域に身を置き、自ら地域課題を発見し、解決策を見いだしていくことで提供できるものである。当然、コンサルタント単独では限界があるため、地域の多様なプレイヤーとの連携・協働が不可欠となる。では、まちづくりの現場において、コンサルタントはどのような組織に身を置けばよいのだろうか。

ア)地方自治体への派遣
 地方自治体への派遣の場合は、地域の政策を企画・立案する立場として、営利を目的とせず、地域社会への奉仕を基本として活動を行っていく。役割が明確であり、公共的な立ち位置を得られることはメリットだが、実務上はさまざまな課題がある。例えば部署間の縦割りのため、関与できる分野(観光・産業・都市整備・文化など)に制約がかかるともに意思決定に多大な時間がかかる。また、自治体としての公平性や説明責任が縛りとなり、先進的・挑戦的な事業や、地域外の民間事業者との協働に取り組みにくくなることがある。
 派遣に係る財源の確保という観点では、総務省の「地域力創造アドバイザー制度」や「地域活性化起業人(企業人材派遣制度)」という制度を活用できる。これらは、派遣先の地域課題の解決や魅力向上等を果たすために地方自治体に派遣され、指導・助言等のアドバイスを行うものである。ただし、派遣期間は6カ月~3年間と短期であり、まちづくり事業の立ち上げから事業化まで一貫して関与していくには課題が残る。

イ)まちづくり会社等への派遣
 もう1つの選択肢は、地域のまちづくり会社やDMO(※4)等への派遣である。これらの企業は、公益性と経済性を併せ持ち、地域の関係者のほか、さまざまな専門性を有する人材で組織されている。また、自治体が出資・出えんしていることが多く、民間事業者として柔軟かつ機動的に意思決定し行動するとともに、自治体との円滑な連携が可能である。
 コンサルタントがまちづくり会社やDMO等に身を置くことで、特定のPPP事業にとらわれずに、まちづくりの司令塔として地域を牽引していくことや、地方自治体によるまちづくりを補完/伴走することが可能となる。さまざまな分野・事業に関与していくことを通じて地域に対して価値を提供しながら、派遣者自身も幅広い知見とネットワークを得ることができるだろう。
 一方、派遣に係る財源の確保という観点では課題が残る。現状、コンサルタントを地方の公益的な民間事業者に派遣する際に活用できる外部資金は見当たらない。今後、民間事業者主導の財源確保方策を検討していきたい。

4.展望~これからのPPPコンサルタントに必要な能力
 ここまでは、PPPコンサルタントが地域にどのように貢献できるかを述べてきた。最後に、このような取り組みが、ビジネスマンとしてのコンサルタント個人にとってどのような意義付けができるのか、展望を述べたい。
 自律協生な地域とPPPコンサルティングのあり方について考えると、わたしたちはPPP/PFIのプロフェッショナルであるとともに、真の意味で「地域におけるPPPまちづくりのプロフェッショナル」にならなければならない。それはワークショップを通じて基本計画を作成する類のものではない。またマーケットサウンディングを通じて事業条件を整えるものでもなく、PPP/PFIについて顧客を啓蒙する能力でもない。そこで必要とされるのは以下のような能力であろう。



 このようなミクロな現場の経験と、マクロな政策立案能力を兼ね備えていることによって、わたしたちシンクタンク系PPPコンサルタントは、行政と民間双方の顧客に対して以下の価値を提供できる。
 まず行政に対しては、首長や国省庁のような上流政策を立案している主体のニーズに応えることができる。極めてローカルな課題や事例に精通し、かつその背後にある構造的・制度的なボトルネックを言い当てられるコンサルタントは希少である。一方民間に対しては、人口規模の小さい地方都市に関わろうとする大企業の伴走者となれる。これまでも、地方における大規模な公共事業を受託するために大企業が地元企業と連携することはあったが、これは請負モデルであり、かつ地元企業とは元請・下請関係ということが多かった。一方これからは、自治体・地元企業・大企業が対等な関係で事業を推進する協生型のモデルとなる。その時、ローカルを知り尽くし、上述の能力を体得しているPPPコンサルタントがコーディネーターとして求められるであろう。
 わたしたちは今後、本稿に関連した実証事業を行う。熊本県天草市では既に動き出しており、さらに協働先の地域を増やしていく予定である。現場での経験を定期的に情報発信するとともに、そこで得た知見を生かし、全国で自律協生な地域づくりに取り組んでいきたい。


(※1) 地域の企業、金融機関、自治体が集まりPPP/PFIのノウハウ取得や案件形成能力の向上を図り、具体の案件形成を目指した取り組みを行う場。
(※2) 2022年11月に日本総研は武蔵野美術大学と共同研究を開始。この共同研究の一環として武蔵野美術大学が天草市と進めていた本渡港拠点施設整備プロジェクトに参画した。
(※3) 特定の事業の実施を目的に設立される特別目的会社(Special Purpose Company)のため、当該PPP事業以外の事業を実施できない。
(※4) 観光地域づくりの司令塔となる法人。Destination Management Organizationの略称。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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