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脱炭素化に向けたモノの利用の再考 CCU・カーボンリサイクル製品によりCO2を長く固定するために

2024年03月12日 福山篤史


 2050 年 カーボンニュートラルの達成に向け、各分野でCO2排出削減の取組がなされている。ただ、素材産業や石油精製産業のように省エネルギー化や電化・水素化等によるCO2削減に限界があり、今後もCO2の排出が避けられない産業分野も存在する。こうした分野で脱炭素化を目指すために、各拠点から排出されるCO2を貯留する「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」や、CO2を利用する「CCU(Carbon dioxide Capture and Utilization)」に期待が寄せられている。CCUは、単にCO2を貯留・固定するCCSとは異なり、CO2を有価物として捉えて素材・燃料源として再利用する手法であり、経済産業省もこうしたCO2再利用を「カーボンリサイクル」と表現し、脱炭素化と産業政策・エネルギー政策を両立するための重要なオプションの一つと位置付けている。国内では、CCUによる最大CO2リサイクル量は、2050年時点で約1~2億t-CO2に上るという。(CO2再利用する観点で「CCU」「カーボンリサイクル」も共通していることから、本稿では海外でも一般的な「CCU」に統一して表記する)。

 CCUの中でもCO2を一定期間素材や製品中に固定できるものもあり、各CCU技術自体や製品の使用方法によりCO2の固定期間が異なるため、各々に対して適切なCO2固定期間・量が規定されることが望ましい。ICROA(International Carbon Reduction & Offset Alliance) で整理されるカーボンクレジットの品質基準においては、国際的に認められる期間として、永続性基準年数を 100 年間としている。CCUを事業として営む提供する企業やCCUにより得られた製品を事業活動に利用する企業にとっては、CO2固定期間は事業活動におけるCO2排出量を決める要因にもなり、カーボンプライシングの導入等を視野に入れると事業の収益性にも直結するため、非常に重要なファクターである。
 さらに、CCU由来素材や製品の市場導入を図るためには、CO2固定期間が必ずしも永続性基準年数とされている100年以上でないとしても相殺手段として許容してよいのではないかという意見もある。一定期間CO2が固定されるとみなされる評価・算定方法を整備するとともに、CO2固定期間を永く保ちうる利用方法を採用することが有効である。

 セメント・コンクリート、プラスチックへのCO2吸収に関するクレジット創出プロジェクトが、VCS(Verified Carbon Standard)やGS(Gold Standard)等の主要なボランタリークレジット制度において検討されているものの、現時点ではCCU関連のクレジット認証・発行実績はない。セメント・コンクリートは長期間CO2を固定するものとして期待され、環境省の温室効果ガス排出量算定方法検討会において環境配慮型コンクリートによるCO2吸収量の温室効果ガスインベントリへの反映方法を検討する上での論点や調査項目について議論が開始されている。
 他方で、プラスチックは多様な用途があり、容器・レジ袋などのワンウェイ用途ではCO2固定期間が数か月程度と短い。他方、建築資材・土木部材等などの用途では数十年規模の一定期間の継続利用が想定できる。本稿ではプラスチックを例に取り上げて、CO2固定期間が長くなり得る用途・方法を検討してみたい。

 プラスチックへのCO2固定期間を長くするために、「CO2を固定・吸収したプラスチックを可能な限りマテリアルリサイクルで循環利用する仕組み」が効果的な打ち手になるのではないだろうか。プラスチックの再利用方法としてマテリアルリサイクル(再度プラスチック製品の原料として利用)、ケミカルリサイクル(化学的に分解して化学製品の原料として利用)、サーマルリサイクル(燃焼させて熱エネルギーとして利用)の3手段があるが、プラスチック中のCO2固定期間を長くすることを主眼に置き、可能な限りマテリアルリサイクルでカバーするのである。このような考え方は、プラスチックを循環利用や、製品原料の国内自給率向上にも繋がる。
 このようにプラスチックのマテリアルリサイクルによりCO2固定期間を延ばしていくためには、製品販売・利用側の変革も欠かせない。一つの糸口となるのが、スポーツブランドの「On」が取り組むランニングシューズのサブスクリプションサービス「Cyclon(サイクロン)」にあると考えている。On は利用者に対してシンプルな素材・構造の靴をサブスクリプションで提供し、一定期間利用されたシューズを引き取ったうえで、再びシューズにリサイクルしていくという。この仕組みでは、バイオベースの樹脂をマテリアルリサイクルし、素材の循環に挑戦している。このOn のサービスはToC向けであるが、より大きな需要と素材の循環を生み出すためには、自治体・学校・病院などの組織の中で利用される製品を対象としたToB/ToGモデルへの拡張も有効な打ち手となるのではないだろうか。

 2050 年 カーボンニュートラルの実現に向けて、CCUを生かしたCO2固定・除去を促進するためには、製造側の素材循環構築とともに、私たち生活者のモノ利用の在り方の再考も必要となるだろう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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