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JRIレビュー Vol.4,No.115

在宅医療の提供体制改革と期待される財政効果-コメディカルとICT の活用により訪問診療の効率化を-

2024年02月28日 成瀬道紀


在宅医療は、高齢化に加え、住み慣れた自宅で過ごしたいという患者の希望をかなえ、入院医療費抑制に資するなどのメリットが期待されていることから、需要が急拡大しており、今後もこの傾向は続くとみられる。他方、供給面においては、医師および財源の不足など強い懸念が持たれており、需要増に応えるためには効率化を伴った提供体制の変革が不可欠である。現状、わが国の在宅医療は、諸外国と比べて医師による患者宅への訪問頻度が高く、コメディカル(医師を除く医療従事者)、および、オンライン診療をはじめとするICTを活用する提供体制への改革が求められる。それにより、医師による患者宅への訪問を患者の医療依存度に応じた必要最低限の頻度にとどめて、医療費を抑制しつつ、在宅医療の需要増に応え、コメディカルの専門性発揮を通してケアの質向上も期待できる。

そのために、対処すべき制度上の課題として大きく二つ指摘できる。一つは、訪問回数などの資源投入量で評価する診療報酬体系である。とりわけ、在宅医療を提供する診療所や病院にとって収入の柱である医学総合管理料の多寡は、訪問診療(計画的・定期的に患者宅を訪問する診療)の回数に大きく左右される。これにより、診療所等の経営の観点から、少なくとも月1回、通常は月2回の訪問診療が行われる。もう一つは、医師への過度な権限集中である。法律により、看護師は医師の指示がないと医行為を行えず、処方権は医師のみが有する。よって、医師の関与なしにはコメディカルを活用できず、低リスクのものも含め医療が一切成り立たない構造となっている。

以上を踏まえ、在宅医療の提供体制の効率化に向けて、以下の2点が求められる。一つ目は、医学総合管理料の評価方法の見直しである。訪問診療の回数などの資源投入量ではなく、患者の医療依存度に応じた評価とする。二つ目は、コメディカルの裁量の拡大である。具体的には、患者の病態の変化を予測し医師が看護師に対してあらかじめ対処方法を指示しておく包括的指示の利便性向上、一枚の処方箋を繰り返し使えるリフィル処方箋の普及促進、医師自ら診察しなくてもコメディカルに指示できるケースの明確化が挙げられる。

一定の前提のもとに推計すると、在宅医療を受ける患者数は2022年の95万人から2041年にピークの172万人に達するとみられる。もっとも、上述のような提供体制の改革により、訪問診療を患者の医療依存度に応じた必要最低限の頻度とし、コメディカルの訪問やオンライン診療等へ置き換えられれば、在宅医療費の増加を抑えることができる。在宅医療費は、現行体制のまま需要増に対応すれば2041年度に4.3兆円に達する一方、改革が実現した場合は4.0兆円にとどまり、その財政効果は3,000億円と推計される。

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