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新規就農者受け入れは地域のチーム体制で

2024年02月20日 山本大介


1)新規就農者の減少は農業生産地域社会の消滅リスク
 農業生産の担い手の減少問題については既に社会的に広く認知され、さまざまな対応策が講じられてきている。しかしながら農林水産省の令和4年新規就農者調査結果によると、令和4年2月1日~5年1月31日の新規就農者は4万5,840人で前年に比べ12.3%減少した。特に「新規自営農業就農者(個人経営体の世帯員で、調査期日前1年間の生活の主な状態が、「学生」から「自営農業への従事が主」になった者および「他に雇われて勤務が主」から「自営農業への従事が主」になった者)については減少の一途であり、令和4年は3.1万人と平成29年(4.2万人)から5年で4分の3になった。農業の大規模化・機械化もしくは自動化が進むにつれ生産性は大きく向上しているので人数の減少をある程度補うことはできているが、農業が基幹産業のひとつになっている地方部では新規就農者の減少はすなわち地域社会そのものの消滅につながる問題である。

2)自治体による新規就農者受け入れ競争は激化
 これに対し、自治体が新規就農者を招く活動が広がっている。全国規模で複数回開かれる就農相談会であり、自治体が多く参加する「新・農業人フェア」への参加団体数は令和2年度490団体、令和3年度568団体、令和4年度は746団体と増えている(同フェア受託者による発表、報道による。記事末に参考URL)。新規就農者の数は減っているので、受け入れ競争が激化していることになる。
そこで各地域、自治体ともさまざまな工夫で新規就農者をひきつけようと努力している。
 ① 現地説明会、体験機会の提供
 ② ベテラン生産者のもとでの数年にわたる就農者実務研修の実施
 ③ 就農時の農地、農機などの調達支援
 ④ 住宅等の生活支援
などのプログラムは新規就農者受け入れに積極的な自治体の多くが実施している。また、国の施策である農業次世代人材投資資金の活用など、経済的な支援も充実しつつある。とはいえ、新規就農者にとって研修期間中はほぼ無収入となり、独立後もいきなり農業生産を安定化させることは容易ではないため、あらかじめ数年分の生活費を貯蓄しておくことが望ましいなど、ハードルは低くない。
 さらに、昨今指摘されているのは「地方移住の難しさ」である。令和5年は地方移住者と従前からの居住者の間でのトラブルがいくつかニュースになった。これらのケースを通じて地方あるいは農村地域について「閉鎖的・排他的」「プライバシー無視」などのネガティブなイメージが広がると、地方での新規就農希望者が減ってしまう恐れがある。すると数少ない就農希望者を巡っていっそう受け入れ競争の厳しさが増していくことになる。しかし、だからといって安易に新規就農・移住者に対する支援条件を積み上げるだけでは、むしろ地域住民の不満の高まりなどあつれきの原因を生みかねず、持続的な受け入れを続けることは難しい。

3)新規就農者の離農が少ない地域のキーワードは「チーム」「対話」「変化への受容」
 一方で、新規就農者が地域に溶け込み、安定した営農生活を送っている地域や産地団体ももちろん多くある(表1)。



 これらの地域では以下のような特徴が際立っている。
 ① 自治体(就農促進と定住促進)、地域・地区の担い手・住民、JAが連携する体制が整っている
 ② 就農者と地域住民、就農者同士、先輩就農者との交流など多くの対話が行われている

 さらに、受け入れ側にこのような特徴があると思われる。
 ③ 地域の価値観や行動スタイルの変化を受容している

 筆者は平川村定住促進協議会にてお話を伺う機会を得たが、その際に「移住者には地域を維持する活動もやってもらいたいが、強制してもしょうがない。楽しい接点の場をつくっていけばいずれ自然とそうなる」「今はプライベートを重視するのが当たり前。移住者との接し方には配慮している」とお聞きした。こういう雰囲気が醸成されている地域であれば新規就農者も非常に移住しやすいだろう。

 ①~③は制度整備だけで対応できることではなく、地域住民・生産者達が連携して主体的に受け入れ活動に取り組んでいることを示している。


4)地域ごとに受け入れチームを整えるべき、自治体にはチームにおいて中核的な役割が期待される
 新規就農をスムーズに受け入れ、長く地域で生活してもらうためには「チームをつくる」「対話を重ねる」「変化を受容する風土づくり」が必要だと述べた。こうした取り組みを具体的なものとして推進するためには、まず「チームをつくる」から始めるとよいだろう。3)の事例で示した岡山県高梁市平川地区では、地区の農地(ぶどう・トマト園地)の将来の廃園予想図をつくり、農家に対して新規就農者を受け入れるかどうか意向確認を行った。その結果、4分の3の賛同が得られたため、自治体が中心となりつつ、県の農業改良普及指導センター、JAの支援を受けてJA生産部会の地区役員との協議を重ねた。協議の末、「農業関係者だけでなく地区振興を兼ねたより大きな組織づくりが必要」という認識に至ったことで「平川村定住促進協議会」の組成につながった。
 この事例に学べば、 きっかけは自治体からの働きかけがあるにせよ、チームの組成には「地域の主体的な取り組み姿勢」が必須であろう。自治体に対しては意思統一ができる単位の地区ごとに対話を重ね、「協議会」などのチームが組成できるような「促し」「支援」が期待される。「促し」を行うためのセミナーや勉強会の他、協議会立ち上げのための書式類やルール雛形、実際の運営時の中核的な参加者として実務を行うなど支援すべき事項は多いが、丁寧な支援体制の上で地域の意思を尊重することが大切だ。
 地域社会の消滅を防ぐためには、「人」がそこに居続けるしかない。農業の担い手は農村部の社会の持続性自体にも深く関わる存在だ。地域の意欲や知恵の結集が必要である。

参考URL:新・農業人フェアの参加団体数についての報道・発表
令和2年度: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000133.000004558.html
令和3年度: https://www.be-farmer.jp/consult/news/detail/1036/
令和4年度: https://ntour.jp/information/sightseeing/27306.html

以上

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。


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