資金の拠出のみならず、官が保有する知見をもって民間企業をサポートしていく動きも進んでいる。2018年5月、JAXAは宇宙イノベーションパートナーシップ(JAXA Space Innovation through Partnership and Co-creation:J-SPARC)の開始を発表した。J-SPARCは、「宇宙ビジネスを目指す民間事業者等とJAXAとの対話から始まり、事業化に向けた双方のコミットメントを得て、共同で事業コンセプト検討や出口志向の技術開発・実証等を行い、新しい事業を創出するプログラム」(※2)であり、新たな宇宙関連事業を創出するとともに、異業種からの参入を促進し、宇宙分野に閉じない技術革新が目指されている。そのため、J-SPARCの特徴として、RFI・RFPから始まりJAXAによる開発・実証を経て事業者に事業運営が移るというような段階的プロセスではなく、事業者とJAXA双方が対話し、共同で事業コンセプトを検討し技術開発・実証等を行う共創的プロセスが用いられている(※3)。このオープンイノベーションを生み出す枠組みを利用して、JAXAが蓄積してきた知見を足掛かりに、今後、新たなビジネス領域創出が目指されている。資金を拠出するだけでなく、必要となる知見をも提供し、官民一体でイノベーション創造、産業振興を図る動きが宇宙分野では現実のものとなってきた。
こうした取り組みでは米国に一日の長がある。「共創」を意図した宇宙政策として、SpaceXの成功に大きく寄与したCOTS(Commercial Orbital Transportation Services:商業軌道輸送サービス)というプログラム(※4)がある。スペースシャトルの退役を見据えて、低軌道・国際宇宙ステーションへの人員・物資の輸送を民間企業に委ね、米国の航空宇宙産業を振興させることを目的として構想され、COTSを進めていく上で、NASA(米国航空宇宙局)は、監督者ではなくパートナーとして事業者に伴走した。技術的な視点だけでなく法律や金融の専門家を集めプログラム成功に必要な枠組みを検討し、従来の宇宙関連企業だけではなく多様なプレイヤーが参加しやすいプログラムを目指し、スタートアップも参入できるようになった。2006年1月にCOTSプログラムの公募が開始され、同年8月に事業者が選定、その後、2012年5月にSpaceXの宇宙船の国際宇宙ステーションへのドッキング成功につながっていった。 「共創」という視点に改めて着目してCOTSの特徴を取り上げると、NASAと事業者のやり取りが充足していた点を指摘できる。プログラムの枠組みを計画する以前から企業との対話を実施するだけでなく、プログラムの選考過程において、審査メンバーはプログラムに応募した事業者の施設に訪問し、特に経営陣と綿密な議論を行った。問題があると考えられる点を事前に指摘し、事業者はそれらを改善することができた。また、SpaceX側の開発が想定スケジュールから遅延していった際も、プログラム開始当初からのNASAとSpaceXとの対話の積み重ね、あるいはそこから生まれた信頼感からプログラム終了が判断されるには至らなかった。
参考文献 (※1) 内閣府「宇宙戦略基金について」宇宙政策委員会 第108回会合 資料3 (※2) 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構「新たな事業を共創する研究開発プログラム『宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)』の開始について」平成30年5月11日 (※3) 文部科学省「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)等 状況報告」宇宙開発利用部会(第62回)会議資料 (※4) NASA「Commercial Orbital Transportation Services A New Era in Spaceflight」 (※5) 新谷美保子「米国における政府調達方式が宇宙ビジネスの産業振興に与える影響」小塚荘一郎、笹岡愛美編著「世界の宇宙ビジネス法」商事法務