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中国グリーン金融月報【2023年7-8月号】

2023年09月26日 王婷


中国グリーン金融月報【2023年7-8月号】をお届けします。

1.王の視点
新エネ車のポイント制度が2度目の改正

 2023年7月に、中国の工業信息部や商務部など6つの政府機関が共同で、「乗用車企業の平均燃費と新エネ車ポイント並行管理方法の改正に関する決定」を公表しました。新しい管理弁法は8月1日より施行されました。今回は、2020年7月の改正以来の2回目の改正となります。
 これは、通称「ダブルポイント」制度と呼ばれています。もともとは、2017年に工業情報化部など5省が「乗用車企業の平均燃費ポイントと新エネ車ポイント並行管理弁法」を制定してこの制度は構想されました。エネルギー効率評価基準を満たした自動車製造企業にプラスポイントを付与、そうでない企業には付与しない。同時にガソリン車を製造販売するとマイナスポイントを課し、新エネ車の製造販売を促進させようという制度で、2018年4月からスタートしました。
 「ダブルポイント」制度が開始されて約5年間。新エネ車の生産と販売台数は急速に増加し、2022年末の販売台数は667万台で、2018年と比べほぼ倍増となりました。また、乗用車の平均燃費も19.6%下がり、2022年末時点の平均燃費は4.10L/100キロとなって、元々定められていた2025年に4.60L/100キロの政策目標を前倒しで達成という成果を上げました。
 一方、様々な課題も露呈しています。例えば、上述した平均燃費改善の理由は、新エネ車の急速的な普及によるもので、ガソリン車の技術進歩による改善ではありませんでした。また、自動車製造企業間で取引される新エネ車ポイントに関しては、需給が変動大きく、ポイント取引価格が不安定であることが指摘されています。この結果、新エネ車メーカーの収益性とインセンティブに大きな影響を及ぼすことになります。具体的には、工業情報化部のデータによると、2018年の平均取引価格は1,000元/ポイント前後に集中したのですが、2019年には500元/ポイント以下になり、2020年には1,204元/ポイント、2021年は2,088元/ポイント、2022年は1,128 元/ポイントというように不安定に変動したのでした。
今回の改定には、4つの主要な項目があります。
・一つ目は、新エネ車のポイントの計算方法とポイントの上限値を調整し、標準モデルの新エネ車のポイントを
 約40%下方修正したこと
・二つ目は、エネルギー密度の低い動力電池でポイント計算時に使える指数を低めに調整したこと
・三つ目は、ポイントのプール制度を構築し、企業は自主的に新エネ車のプラスポイントをプールに貯蓄することを
 可能としたこと(期間は5年間有効)
・四つ目は、企業の炭素排出情報を求めるとしたこと
 上述の標準モデル車ポイントの下方修正やポイントのプール制度の構築は、新エネ車ポイントの価値を高め、新エネ車製造企業のインセンティブを維持する重要な政策と評価されています。つまり、制度の改正により、新エネ車のポイントは大幅に規模が縮小される反面、ポイントの価値を高めることができる、また、プール制によりポイント取引市場の需給バランスを安定させることができると期待されているからです。さらに、自動車製造企業の炭素排出情報の開示を求める点については、業界関係者は、「ダブルポイント」制はあくまでも過渡期の制度であり、自動車製造企業の二酸化炭素排出量情報を開示させることで、今後は企業の炭素ポイント管理に移行するではないかという観測もなされています。
 こうしたように、中国では、政府主導で新エネ車産業振興策を作り、市場と企業の状況を合わせて、制度の改正を行い、新エネ車市場の健全性と競争性を高め、業界全体の革新を促進する環境が作られているのです。 

2.今月のトピックス
【国家気候変動中心】「中国気候変動青書(2023)」を公表
 このほど、生態文明貴陽国際フォーラムにおいて、「中国気候変動青書(2023年版)」が公表された。青書によると、気候の温暖化の傾向は依然として続いているとしたうえ、中国は気候変動に敏感な地域であり、2022年には、夏の平均気温、沿岸海面の高さ、ウルムチ河源流の第1氷河末端の後退距離、多年生永久凍土帯の活動層の厚さなどの指標が、いずれも過去最高値を更新したと明らかにした。特に、2022年、中国では3,501の観測点で猛暑日が発生し、その頻度は1961年以降で最も高く、中でも重慶市北碚(45.0℃)、江津市(44.7℃)、湖北省竹山市(44.6℃)のような、計366観測点での日最高気温が過去の極値を上回ったという。一方、中国の植林面積は着実に増加しているとも指摘した。
2023-7-13 中国大気網
https://www.chndaqi.com/news/344776.html
コメント:7月末から8月初めにかけて北京や天津など華北地域が台風に見舞われ、連日の大雨で浸水や川の堤防の決壊など大きな災害が生じました。天津に生まれ育った私にとっては、不思議な出来事で、今も疑問が解けません。7~8月は華北地域では降水量が多い季節ですが、台風が来ることは全く想像できませんでした。数年前に、中国の北西地域の敦煌の砂漠地域で、突然地下から川が沸きあがったと聞いたときと同じ気持ちです。上述の青書が示すように、台風、森林火災、海面上昇などの異常気象とその影響の頻度や規模が大きくなっています。これらは偶然の出来事ではなく、地球温暖化の影響によるものと確信できるでしょう。地球温暖化に真剣に対応しなければならない証左でもあります。

【緑色金融専門委員会】中国・EU共通分類カタログに準拠した中国グリーンボンド銘柄を発表
 中国金融学会グリーン金融委員会は、数ヶ月前に専門家グループを立ち上げ、2023年3月31日時点で存続している、非金融企業が国内のインターバンク市場で発行したグリーンボンドを対象に、中国・EU共通分類カタログに基づき、評価ならびにラベリング作業を行った。このラベリング作業が完了し、共通分類カタログに準拠する193の中国グリーン債リストを正式に発表した。
今回のラベリングでは、電池製造、風力タービン製造、太陽光発電設備製造、省エネ・節電家電製造、風力発電、太陽光発電、水力発電、エネルギー貯蔵、都市・農村部の公共交通システム建設・運営などのプロジェクトを対象に評価が行われ、合計193件が共通分類カタログに合致したものとして選ばれた。対応する技術基準は、「実質的貢献」技術の定義基準など、共通分類カタログの基準を満たしている。 グリーンボンドが支援するプロジェクトは、共通分類カタログの作成方法論におけるシナリオ1、2、3、4をカバーしている。193件のリストは下記に掲載されている。
http://www.greenfinance.org.cn/upfile/file/20230714180015_295306_44417.pdf
2023-7-14 緑金委ホームページ
http://www.greenfinance.org.cn/displaynews.php?id=4124
コメント:今回の専門家グループによる作業は、中国外国為替取引センターと連合赤道環境評価株式会社が主導し、多くのグリーンボンド認証機関が参画して、評価とラベリングを実施しました。人民銀行は、共通分類カタログの改善と利用を重視し、同カタログを積極的に利用することで、中国のグリーン金融市場の国際的認知度を高めることができると期待しています。また、市場関係者が共通分類カタログに基づき様々なグリーン金融商品を開発し、中国以外の市場でも発行を拡大するなど積極姿勢を強めています。

3.今月のニュース
【党中央委員会】エネルギー消費量と効率の規制から炭素排出量と効率の規制への転換を指示

中央改革深化委員会第2回会議で、習近平氏は「エネルギー消費量と単位当たりエネルギー効率の規制から、徐々にCO2排出量と単位当たり排出量の規制へシフトするように」と指示した。
2023-7‐12 中国経済情勢報告網
http://www.china-cer.com.cn/guwen/2023071225211.html

【国家発改委等】再エネグリーン電力証書(グリーン証書)制度のさらなる改善に関する通知を公表
通知では、風力発電、太陽光発電、在来型水力発電、バイオマス発電、地熱発電、海洋エネルギー発電などすでに届け出た再エネ発電プロジェクトにより発電された全ての電力に対してグリーン電力証書を発行する。グリーン証書は、再エネ電力消費会計、再エネ電力消費証明として使用可能になる。
2023-8‐4 中国政府網 
https://www.gov.cn/lianbo/bumen/202308/content_6896514.htm

【国務院等】外資企業のグリーン証書取引への参加拡大を支援
8月13日に、「外商投資環境の更なる最適化と外商投資誘致努力の強化に関する意見」を発表した。外資企業のグリーン証書取引への参加拡大と省・地域横断的グリーン電力取引の支援を公表。
2023-8‐15 中国CDMFUNDホームページ
https://www.cdmfund.org/33578.html

【緑色金融専門委員会】中国気候共同関与プラットフォーム(CCEI)発足
大口機関投資家24社が参画する中国気候共同関与プラットフォーム(CCEI)が発足。約40兆人民元以上の運用資産を生かし、投資先企業のグリーン化・低炭素化を推進。
2023-7-12 緑色金融専門委員会
http://www.greenfinance.org.cn/displaynews.php?id=4118

【緑色金融専門委員会】「銀行業生物多様性リスク管理ガイドラン」を公表
銀行セクターにおける生物多様性リスクマネジメントガイドラインの全文が公表された。鉱業、水利、農業、林業など21業種を抽出し、金融機関が当該業種のプロジェクトを審査する際のポイントを明示。
2023-7-24 緑色金融専門委員会
http://www.greenfinance.org.cn/displaynews.php?id=4128

【上海市银行同业公会】金融管理能力の強化と金融サービス能力の強化
インクルーシブ・ビジネスの持続的発展を推進するインクルーシブ金融商品システムを促進すると提唱。
2023-7-24 上海市银行同业公会
https://www.shbanking.cn/ContentDL/ComDetail.aspx?id=6090&st=00060001

【北京市】中国初の水素炭素取引プロジェクトが北京の大興地区で計画
北京市生態環境局が作成した「北京市水素燃料電池自動車炭素排出削減方法論」に基づき、北京、天津、河北の16の水素エネルギー企業と協力して、プロジェクトを開発。
2023-8-4 SINA財経
https://finance.sina.com.cn/jjxw/2023-08-04/doc-imzeyvmi5993673.shtml
 
紹介した記事の原文は中国語です。内容を日本語でより詳しくお知りになりたい方は、
下記アドレスまでお気軽にご連絡下さい。
100860-green-asiaatml.jri.co.jp(メール送付の際はatを@と書き換えての発信をお願い致します)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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