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生活者意識とサステナブルな社会の実現

2023年09月26日 二宮昌恵


 日本は生活者の環境問題に関する意識が低いと言われる。これは、各種の国際調査結果に現れている。
 米シンクタンクのピュー・リサーチ・センターが2021年に行った気候変動に関する国際意識調査(※1)では、「気候変動の自身への影響」について「非常に懸念している」との回答割合が、17か国中で日本のみ大きく低下した(前回2015年調査対比、▲8ポイント)。同様に、「気候危機の現状に対して、自分のライフスタイルを変えてもいいか」との問いに対しても「変えてもよい」との回答割合は17か国中で最下位だった(55%、日本を除く平均は80.8%)。
 2023年3月に電通総研が公表した気候不安に関する意識の国際比較調査(※2)においても、傾向は同様だ。若年層を対象に海外10か国と比較した結果、気候変動への影響に対して「極度に心配している」「とても心配している」と答えた割合は16.4%と11か国中で最下位であり、海外10か国の平均58.5%と大きくかけ離れている。気候変動がもたらす感情についても、日本は「不安」が7割超と高く、10か国平均を上回るものの、「怒り」といった負の感情や「罪悪感」「恥ずかしさ」といった自己を責める感情は、10か国平均の半分以下に留まる点が特徴的である。また、気候変動から連想するネガティブな未来のシナリオについても、自分には当てはまらないと楽観的な見通しを持つ人の割合が平均より高かった。

 こうした違いはなぜ生じるのだろうか。ひとつには、気候変動がもたらす危機や不利益が、自身の生活で顕在化していないことが挙げられるだろう。国内でも猛暑や大雨など異常気象が程度を増しているとの認識は高まっているが、熱波や大規模な山火事に既にさらされていたり、干ばつ・水害リスクと隣り合わせとなっている国々では、自身の生活や未来への危機感が段違いに大きいと考えられる。日本では「現時点では」自然環境やインフラ・住環境等が相対的に恵まれた状況にあり、故に気候変動を「自分ごと化」している人が少ないのかも知れない。
 また、環境意識を醸成しにくい素地も考えられるだろう。欧州などにおいては、従前より環境教育が根付いている国も多い。例えば、ドイツでは1970年代から学校での環境教育を取り入れている。2020年には、イタリアが世界で初めて学校教育における気候変動に関する授業の必修化を発表した。また、上記の調査では、「他の人と気候変動について話さない」との回答も日本が突出して多かった。関心の低さの裏返しでもあるのだが、そもそもの知識を得る機会が相対的に限定され、身近な人との話題にも挙がりにくいということであれば、関心も高まりにくいのは当然だろう。

 環境問題に関する意識の低さは、当然ながら生活者としての行動変容のハードルの高さに結び付く。気候変動のために行動を変えたくないとの回答率の高さは前述の通りだが、日本においては行動変容のハードルとして「よりお金がかかる」「より手間がかかる、不便」「何ができるかわからない」といった回答が高いとの調査結果もある(※3)。特に、後者2つの回答率は他国と比べて高く、「便利な暮らしが当然の前提であり、且つ手放す必要性も感じない」「何をしたらいいかの知識・情報が乏しい」という状況から起因しているといえよう。

 現在、いくつかの企業は、カーボンニュートラルや生物多様性保全など、サプライチェーン全体で、地球と社会の持続可能性の向上を目指し、ビジネスモデルの転換すら視野に入れ始めている。しかし、企業が本質的に必要な取り組みを始めても、生活者サイドの意識が伴わず、その価値が消費意思決定のプロセスで評価されない限り、企業の努力も「外部の規制が高まっているから対応」するものであって、単なる「コスト増」となってしまう。よほどの信念でもない限り、企業の側の取り組みも長続きはしないだろう。持続可能な社会の実現に向けては、政策や企業対応のみならず、生活者を含む社会の価値観全体が変化していくことが必要であることが、どうやらハッキリしてきた。「お客様は神様」という言葉に敢えて挑戦してでも、生活者意識の構造とその変化の必要性を口にすることを許容する。そうした空気を、世の中全体で醸成していきたい。


(※1)“In Response to Climate Change, Citizens in Advanced Economies Are Willing To Alter How They Live and Work”
(※2)「気候不安に関する意識調査(国際比較版)」
(※3)ボストンコンサルティンググループ「サステナブルな社会の実現に関する消費者意識調査結果(日本/グローバル比較)」


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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