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リサーチ・フォーカス No.2023-025

キャリアアップ助成金が「年収の壁」解消策なのか?

2023年09月19日 西沢和彦


2023年8月10日、岸田文雄首相は、パート主婦の就労調整を招いている「年収の壁」を「解消」するための企業助成を10月にも始めると表明した。企業助成とは、キャリアアップ助成金であると報じられている。本稿は、年収の壁をおさらいし、この問題に取り組むうえでのポイントを整理したうえで、現状で得られる情報は限られているものの政府案の是非について検討した。

キャリアアップ助成金とは、雇用保険料を原資とする雇用安定事業の1つであり、大まかにいえば、非正規雇用を正規雇用に転換する企業に対し、国が事業主体となって金銭的にバックアップする制度である。現在、6つのコースに分かれており、その1つに「短時間労働者労働時間延長コース」がある。企業が、助成条件に則って、労働時間を延長し、新たに社会保険の適用とすることで助成を受けられる。今回の政府案は、このコースに基本給の引き上げという条件を加え、1 人当たり助成額を増額し、助成規模を拡大したものと見受けられる。

政府案であれば、確かに、パート主婦の可処分所得は、年収の壁一歩手前の水準をわずかではあるが上回る計算となる。報じられている1 人当たり最大50万円の助成額であるならば、企業の側のコスト増も十分に賄える。ただし、年収の壁の「解消」となるようなものではないだろう。第1に、飽くまで企業への助成であることなど、パート主婦のニーズに合致しない可能性である。第2に、報じられているように財源規模が200億円であるならば、就労調整を図っているパート主婦約400万人という規模に比し非力である。1人当たり助成額50万円とすると4万人分でしかない。第3に、申請にかかる時間的・金銭的コストである。既存の「短時間労働者労働時間延長コース」の助成額も年間数億円程度にとどまっているとみられ、要因の1つに手間の割にメリットが少ないことが指摘できる。加えて、年金と医療の保険料がもたらしている問題への対応に、雇用保険料を用いることの合理性も問われる。

年収の壁は、一朝一夕には解決出来ない。厚生年金保険の適用・非適用に関し、基準が不明瞭な現状を是正すべく、国から明確な基準を示すなど当面の課題を確実にこなしつつ、制度再構築に向けた議論に着手するダブルトラックが求められる。


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