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ビューポイント No.2023-011

米国の反ESG運動はサステナブルか?

2023年09月13日 森口善正


米国では近年、共和党や保守系シンクタンクが中心となって反 ESG(環境・社会・ガバナンス)運動を活発化させている。反 ESG 運動の主な主張として、①資産運用会社の ESG 要素を考慮した投資や議決権行使の禁止・制限、②ESG の観点から化石燃料産業等をボイコットしている金融機関等への投資やこれらを相手方とする契約締結の禁止、③保有ポートフォリオの脱炭素化を目指す金融機関連携に対する反トラスト法(独占禁止法)違反懸念の提起、を指摘できる。

化石燃料産業等に対する脱炭素の圧力が強まるなか、これら産業の州経済に占める比率が比較的高いテキサス州をはじめとするレッド・ステート(共和党が政治的主導権を握る州)において、反 ESG 運動が先鋭化しやすい素地がある。さらに、2024 年 11 月の大統領選挙や連邦議会選挙、州知事選挙等を控えて、共和党支持層や化石燃料産業の支持を固めたい議員や州知事が反 ESG 運動を強く推進している側面もある。

そもそも反 ESG 運動の底流には米国社会の分断現象があり、民主党支持者と共和党支持者の間で気候変動や環境保全に関する価値観のギャップはさらに拡がる方向にある。したがって、米国における反 ESG 運動は一過性のものではなく、サステナブル、すなわち中期的に継続する可能性が大きい。仮に 2024 年 11 月の大統領選挙で共和党候補が勝利する場合、新たな ESG規制の導入やパリ協定からの再離脱も想定され得る。金融機関と温室効果ガス多排出企業とのエンゲージメント(投融資先企業との対話)に絡む反トラスト法関連の訴えは、今後も提起される可能性が大きい。

ESG 要素の強化は、長期的な時間軸の下で、ビジネス・リスクを低減し気候変動等のシステミック・リスクに対する企業の耐性を高めるだけでなく、顧客や株主、従業員、社会との信頼関係構築等を通じて、企業価値の向上に寄与すると考えられる。したがって企業(含む日本企業)としては、 ESG 推進・反対両サイドの動きを注意深くモニターしつつも、米国政治動向に左右されることなく、自社の存在意義(パーパス)や経営理念に沿って ESG を着実かつ継続的、戦略的に推進していくことが重要である。

金融機関や機関投資家には、その知見を活かしたソリューションの提供と長期的視野に立ったエンゲージメントを通じて、脱炭素化を含む企業変革を粘り強くサポートしていくことが期待される。また、企業の ESG に関する実態把握と ESG 格付けの透明性・信頼性向上に継続的に取り組み、ESG 要素と運用パフォーマンスの中長期的な相関関係の実証と社会的コンセンサスの確立を図っていくことが求められよう。

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