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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.23,No.90

タイ新政権が直面する経済課題

2023年08月10日 熊谷章太郎


タイの新政権を取り巻く経済・社会環境は課題が山積みである。プラユット政権下で深刻化した国内の主要経済課題としては、家計債務問題、経済格差問題(再分配前の所得格差や資産格差)、少子高齢化問題を挙げることが出来る。これらの問題の根底には低所得者の所得環境の改善の遅れがあり、その抜本的な解消には労働生産性の引き上げが必要不可欠である。

プラユット政権下で深刻化した諸問題に対応するため、新政権は即効性の高い財政支出を拡大することを検討している。しかし、①政策の優先順位や具体策については政党間で方針の違いが見られること、②財政支出の拡大に必要な安定的な財源確保の道筋が見えていないこと、③政治・社会改革を巡る政治対立が経済政策の円滑な実施を阻害する可能性があること、などを踏まえると、各種政策が公約通り実行されるかは不透明である。安易な国債発行に依存して各種政策を実施する場合、税・社会保障制度を含む抜本的な構造改革の遅れが財政の健全性を損ない、中長期の成長率を押し下げる公算が大きい。財政支出を伴わない最低賃金の引き上げについても、生産性の上昇ペースを大幅に上回る引き上げとなれば経済成長に悪影響をもたらしかねない。

タイを取り巻く国際環境も先行きを楽観出来ない。コロナ禍からの経済・社会の正常化といった明るい材料がある一方、世界経済の減速や保護主義の強まりなどがタイの貿易・投資を下押しする。米中対立などは、対立しあう国から「中立」の立場をとる国への生産移転といった経路からタイの貿易・投資を押し上げる側面があるが、他のアジア新興国と比べた労働コストの高さや先進国と比べた資本・知識集約型産業の競争力の低さを背景に、タイはその追い風に乗れていない。

内憂外患の状況が続くと見込まれるなか、日本のアジアビジネスにおけるタイへの関心は低下しており、それが日本企業のタイ離れとタイ経済の低迷の連鎖を引き起こす可能性がある。こうした悪循環を回避するには、アジア各国とタイの間の事業の補完性を高めていく必要があり、特にEV(電気自動車)を中心とする次世代自動車のサプライチェーンに積極的に参加していくことが重要である。化石燃料由来の素材のバイオ素材への切り替えに向けた機運が高まるなか、タイが豊富に有するバイオマス資源を積極的に活用するなど、脱炭素社会に適合した部品の生産・輸出拠点になれるか否かが、タイの持続的な成長のカギとなるだろう。

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