中国グリーン金融月報【2023年6月号】をお届けします。
1.王の視点
「都市鉱山」と目されるリユースEV電池の利用とその課題
中国で自動車の登録を管理する公安部は、6月末までの国内自動車の保有台数について発表を行いました。その内容によると、新エネ車は1620万台に達し、全保有自動車の4.9%を占めています。うち、純電気自動車(EV)は1259.4万で、新エネ車の77.8%を占めるといいます。また、今年上半期の新エネ車の登録台数は312.8万台で、前年同期比41.6%増となり、過去最高の伸びを記録したということです。さらに、新エネ車の新規登録台数は、全自動車の新規登録台数の26.6%を占めるとのことです。
EVが大規模に普及していくとともに、搭載される車載電池の利用も拡大しています。2022年にはEVに搭載された電池の容量は総計で294.6GWhになったそうです。車載電池の場合、一定期間使用して、充電量が定格容量の80%未満にしかならなくなると、劣化した車載電池は強制的に廃棄されなければなりません。中国の統計によると、2022年に廃棄された電池の総容量は27.7MWhに達するそうです。長期予測としては、中国の研究機関が、2026年までに累計で142.2GWhの廃棄電池が出現するとしています。EV電池の大廃棄時代に突入することになります。
車載電池の大量廃棄の出現に伴い、廃棄電池のリユース・リサイクルが脚光を浴びるようになりました。特に、EV電池を生産する原材料の価格高騰(昨年一時期暴落したが、今年になり再び回復)やEU新電池法案で定められた再利用材の使用比率義務の影響で、車載電池のリユース・リサイクル産業の形成が進みつつあります。
実際、中国では、2018年から政府主導で廃粟電池の回収・リユース・リサイクルのモデル事業か始っています。非常用電源、移動電源、街頭照明用電源など、様々な使用済製品が市場に出回っており、廃棄電池のカスケード利用市場が生まれつつあります。
その一方で、様々な問題も顕在化するようになってきました。最も懸念されるのは、安全性と経済性の問題です。
まず、安全性の問題です。国内外で、リユース電池を利用した新製品の充放電時の事故が多発しています。国内では、2018年に江蘇省揚州市で、2019年に北京市の某ホテルで、2021年に北京の某ショッピングモールで起きた発火事故の記憶が新しいものでしょう。いかに、リユース電池の安全管理を行うかは、電池リユースにおいて最も重要な課題です。
次に、経済性の問題です。これも安全性の確保と関連します。リユース電池を利用する新製品を製造する際には、容量や電圧、温度などの条件が規格に揃うよう、電池の選別が必須です。このため、条件に合わない電池はある程度使えるものの、実際には廃棄されることも多くあります。リユース品は一般的に安価で経済的だとイメージされますが、実際には、選別によりすべてが使えるということにならないので、コスト高になり、事業の採算性を悪化させてしまいます。安全を期するため、リユース電池の貯蔵電気エネルギーは、容量の60%までに抑制されており、車載電池リサイクルの特性を十分に利用出来ていないのが実態です。資源の浪費とともに、事業のコスト高の原因となっています。
上記の課題解決に向けて、新しい技術の開発が期待されています。オンタイム電池リバランス技術がその一つです。リユース電池を利用する新製品に、電池リバランス機能を装備し、稼働する当初からリバランス機能を発揮して、すべての電池の劣化速度を均等な範囲内に制御します。また、リバランス機能を通じて、異なる容量の電池で電圧の同時降下を実現し、小容量電池の過放電を回避させ、発火や故障の発生を防止し、電池の安全性と寿命を向上させるのです。こうした技術がいち早く商業化されることを期待しています。
2.今月のトピックス
【中国グリーン金融委員会】中国・EUタクソノミー・ワーキンググループ、フェーズII作業をスタート
2023年5月30日、中国とEUが主導する「持続可能な金融のための国際プラットフォーム(IPSF)」のタクソノミー・ワーキンググループは、コモン・グラウンド・タクソノミー(CGT)の第2フェーズの作業を正式に立ち上げた。
フェースⅡの焦点は、CGTの対象国を拡大し、例えば、シンガポールなどの国や地域のグリーン目録を比較対象に含めるなど、CGTの対象となる経済活動の範囲をさらに拡大し、より多くの国や地域でCGT関連のキャパシティを構築することである。
CGT技術専門家グループによると、フェーズⅡの作業は、共通タクソノミーがカバーする経済活動と環境目標の範囲を拡大するために、中国とEU共通タクソノミーをベースとした作業を継続し、より広範な経済圏におけるグリーンおよび変革的な金融活動に対応できるよう、手法を高度化させる。また、第2段階の作業では、異なる規制環境において「重大な危害を加えない」原則をどのように統合するかを検討するという。
IPSFのメンバーであるシンガポール金融管理局は、シンガポールグリーン金融タクソノミーを近日中に発表するとしており、共通タクソノミーのフェーズIIのワーキンググループに代表を派遣するとも公表した。
2023-6-2 グリーン金融専門委員会
http://www.greenfinance.org.cn/displaynews.php?cid=21&id=4075
コメント:現在、グリーン金融の定義や分類は世界的に統一されていません。中国・EU共通タクソノミーを踏まえ、中国の国内銀行間債券市場で公開されたグリーンボンドをラベリングしたところ、分類目録に準拠した中国グリーンボンドは193銘柄にのぼったといわれています。また、建設銀行や興業銀行など金融機関が共通タクソノミーに準拠し、海外でグリーンボンドを多数発行しています。中国人民銀行総裁は2023年3月開催されたボアオ・アジアフォーラムで、グリーン金融に関する中国・EU共通カタログの統一率は80%だと言及しました。2023年5月30日、中国とEUが主導する「持続可能な金融のための国際プラットフォーム(IPSF)」のタクソノミー・ワーキンググループは、コモン・グラウンド・タクソノミー(CGT)の第2フェーズの作業を正式に立ち上げた。
フェースⅡの焦点は、CGTの対象国を拡大し、例えば、シンガポールなどの国や地域のグリーン目録を比較対象に含めるなど、CGTの対象となる経済活動の範囲をさらに拡大し、より多くの国や地域でCGT関連のキャパシティを構築することである。
CGT技術専門家グループによると、フェーズⅡの作業は、共通タクソノミーがカバーする経済活動と環境目標の範囲を拡大するために、中国とEU共通タクソノミーをベースとした作業を継続し、より広範な経済圏におけるグリーンおよび変革的な金融活動に対応できるよう、手法を高度化させる。また、第2段階の作業では、異なる規制環境において「重大な危害を加えない」原則をどのように統合するかを検討するという。
IPSFのメンバーであるシンガポール金融管理局は、シンガポールグリーン金融タクソノミーを近日中に発表するとしており、共通タクソノミーのフェーズIIのワーキンググループに代表を派遣するとも公表した。
2023-6-2 グリーン金融専門委員会
http://www.greenfinance.org.cn/displaynews.php?cid=21&id=4075
【生態環境部】生態環境行政処罰弁法を7月1日より施行
生態環境部はこのほど、新たに「生態環境行政処罰弁法」を改正し、2023年7月1日から施行することを発表した。適用範囲は原子力・放射線分野にも拡大され、罰則の種類も改正・改善された。行政処分の種類を増やし、行政処分における自動監視データの適用も盛り込んだ。「情報開示」の特別項を追加した罰則賦課弁法では、立入検査等の要件が明確に定められ、法が適用される事案の規定が明確になり、結果として、軽微な不処罰事例が増加することになった。
2023-6-30 生態環境部
https://www.mee.gov.cn/ywdt/xwfb/202306/t20230630_1034944.shtml
コメント:「環境行政処罰弁法」は13年前に作成され、今回の改正に伴い、名所も「環境行政処罰弁法」から「生態環境行政処罰弁法」に変更されました。条文数は82条から92条に増加しました。今回の改正で最も注目したいのは、①違反が軽微であり、適時に是正され、生態環境に有害な結果をもたらさない場合、行政処罰は科されない、②違反行為が初めてであり、生態環境上の有害な結果が軽微であり、適時に是正される場合、行政処罰を課さないことができる、③当事者に主観的過失がないことを証明するのに十分な証拠がある場合、行政処罰を科さない、などの項目です。これまで環境保護の名目で、処罰が厳しくされる傾向があり、企業の正常な生産活動に悪影響を及ぼすケースがありましたが、今回の改正はこのような状況を是正することになると期待されています。生態環境部はこのほど、新たに「生態環境行政処罰弁法」を改正し、2023年7月1日から施行することを発表した。適用範囲は原子力・放射線分野にも拡大され、罰則の種類も改正・改善された。行政処分の種類を増やし、行政処分における自動監視データの適用も盛り込んだ。「情報開示」の特別項を追加した罰則賦課弁法では、立入検査等の要件が明確に定められ、法が適用される事案の規定が明確になり、結果として、軽微な不処罰事例が増加することになった。
2023-6-30 生態環境部
https://www.mee.gov.cn/ywdt/xwfb/202306/t20230630_1034944.shtml
3.今月のニュース
【生態環境部】CCERが再始動
2023年6月27日、北京で国家温室効果ガス自主排出削減登録制度と取引システム構築プロジェクトの予備受入会議が開催された。新しい国家温室効果ガス自主排出削減登録システムは国家気候戦略センターの経営陣に移管され、再始動することになる。
2023-6-28 Sina財経
https://finance.sina.cn/esg/2023-06-28/detail-imyyvafz1133999.d.html
【全人代】8月15日を全国の生態日を設定
6月28日、第14期全国人民代表大会常務委員会第3回会議は、8月15日を「全国生態日」に制定することを決定した。 国家として、さまざまな形で生態文明の宣伝・教育活動を展開する。
2023-6‐28 全人代
http://www.npc.gov.cn/npc/c30834/202306/c52a33bbc1d84648a35e884444c8e411.shtml
【中国情報通信研究院】炭素データサービスネットワーク(CRC)を公開
炭素データサービスネットワーク(CRC)は、デジタル化と信頼性を通じて、炭素データのワンストップサービスを実施し、製品のカーボンフットプリントのトレーサビリティ、炭素資産管理、信頼性の高い炭素データの預託、炭素金融サービスなどのアプリケーションを実現する。
2023-6-21 北京市通信情報協会
https://www.bita.org.cn/newsinfo/6073206.html
【中国銀行】アジアインフラ投資銀行の「持続可能な開発パンダ債」発行を支援
アジアインフラ投資銀行(AIIB)が発行する持続可能な開発パンダ債の規模は70億人民元で、25年満期、クーポンレートは5.2%である。調達資金が持続可能なインフラ開発の支援に使用される。
2023-6-13 中国銀行
https://wap.boc.cn/bif/bi1/202306/t20230613_23226404.html
【S&Pグローバル】 「サステナビリティ・イヤーブック(中国版)2023」を創刊
S&PグローバルCorporate Sustainability Assessment(CSA)チームは、既存の方法論に基づき、中国企業1,590社を厳格に評価し、44業種の88社を選定し、「サステナビリティ・イヤーブック(中国版)2023」の掲載対象にした。
2023-6-29 Sina財経
https://finance.sina.cn/esg/2023-06-28/detail-imyyvxmm2618848.d.html
【重慶市】重慶炭素市場参画基準の調整に関する公表
重慶市は炭素市場の規制対象基準を、従来の、2008年から2012年のいずれかの年の二酸化炭素換算年間排出量が2万トンの工業企業としていた内容から、二酸化炭素換算年間温室効果ガス排出量が1万3,000トン(標準炭約5,000トンの合計エネルギー消費量)以上の工業企業とする内容に変更した。
2023-6-13 重慶市生態環境
https://sthjj.cq.gov.cn/zwgk_249/zfxxgkml/zcwj/qtwj/202306/t20230613_12060146_wap.html
【武漢市】低炭素行動に具体的な利益で報いる
6月2日、武漢炭素資源開発管理有限公司が設立された。削減されたCO2排出量は、個人の「カーボン権」として個人カーボンアカウントに蓄積され、その「カーボン権」を使い商品券、イベントチケット、駐車場無料券などと交換することができるようにする。
2023-6-17 湖北省人民政府
http://www.hubei.gov.cn/zwgk/hbyw/hbywqb/202306/t20230617_4711729.shtmll
【上海市】「カーボンフットプリント計算器」を公表
カーボンフットプリント計算機バージョン1.0は、海運と貿易のビッグデータを組み合わせて開発されたもので、海運に伴う、商品や製品の炭素排出量の推計値を効率的に計算することができる。
2023-6-28 CCTVニュース
http://sh.cctv.cn/2023/06/27/ARTIz3s8Sq11rsS3sHy15vFX230627.shtml
紹介した記事の原文は中国語です。内容を日本語でより詳しくお知りになりたい方は、
下記アドレスまでお気軽にご連絡下さい。
100860-green-asiaatml.jri.co.jp(メール送付の際はatを@と書き換えての発信をお願い致します)
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。