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子どもと子どもをケアする大人との濃密な関わりの重要性

2023年07月25日 福田彩乃


 私たちは、当事者になると否が応でも、ある事象と向き合わざるをえない状況に置かれる。その中で、初めて本質を突く課題認識に至ることも多い。「そういうもんなんだ」と簡単に受け入れてしまうのではなく、向き合っていくしかないと気づかされることも少なくない。私自身がこれから当事者となるのは「子育て」である。これまで、待機児童や産後うつなどの様々な問題を耳にはしてきたが、今回は目前に迫る「子育て」をめぐって、その覚悟のような思いを記したい。

 「子育てには村一つが必要」という言い習わしがあるように、従来の子育ては、隣近所の住人、友人知人をはじめとするコミュニティの支えのもと、祖父母や父母といった「家庭」が中心に担ってきた。しかし、女性の社会進出や核家族化の進展で、環境は大きく変化している。家庭にだけ子育てを押し付けるのではなく、延長保育の実施や預かりサービスの提供など、子どもを産み育てられる社会を目指して、官民ともに様々な支援サービスを充実させている。
 もちろんこのような「社会化」は、現代の子育てを乗り越えていくために不可欠で、私も利用するであろう。ただ、外部サービスへの頼りすぎ・使いこなしすぎは、子どもにとって、ケアしてくれる大人(母親がその代表かもしれないが、あえて本稿ではそう規定せず、「ケアする大人」と記す)との親密な関係を阻害し、結果として、多くの問題を引き起こすことが明らかになっている。研究結果(※1)によると、3歳までに繰り広げられる子どもと大人との間の会話(やり取り)の濃密度は、子どもの脳の発達に影響を及ぼし、認知能力及び非認知能力の差をもたらすという。また最近の子どもたちの間に広がる発達障害や精神障害等の生きづらさや心身の不調は、幼少期の愛着不足が一因であることもわかってきたという。

 現在の風潮や政策は、「子育てにかかる大人の負担を減らすこと」に主眼を置いているが、幼少期のケアする大人との濃密な関わりの減少による歪みが子どもたちの間に表れてきている。とすれば今後の日本を担う「子どもの可能性を開く」という観点で、子どもとケアする大人の関わりを充実させ、支援していく政策も必要ではないだろうか。
 そのためには、まずケアする大人の側に、子どもとの濃密な関わりの重要性を認識してもらうことが大切だろう。現状、父母が子どもの発達等について、知り・学ぶ機会と言えば、検診や両親学級くらいだが、検診では「子どもの身体機能が順調に発達しているか」「母体に異常がないか」という医学的な観点での確認・対処に終始しており、両親学級でも沐浴等の「お世話の仕方」を学ぶに留まっている。民間事業者からも一部、ウェビナー等が主催されているが、要は商品やサービスの紹介に帰結していることが多い。子どもとケアする大人を中心に、それを支えるプレイヤーが手を携えて、濃密な関わりの重要性を学び合える場があるとよい。
 また、濃密な関わりを継続させるための方法として、「見える化による意識づけ」がある。子どもとの濃密な関わりの効果は、わかりやすく目に見えるものにはなりにくい。意義を理解して信じ、意識的に継続を目指していくことが重要となる。海外では研究成果に基づき、大人の関わり(会話)を数値で見える化・分析したうえで、改善を図るプログラムが提供されている(※2)。こうした取り組みは、日本でも十分に展開の余地があるように考えられる。

 子どもとケアする大人との濃密な関わりさえあれば、全ての子どもたちが将来「よい人生」「幸せな人生」を送れるわけでは必ずしもないのは自明であるが、それでも、なるべくその可能性を開かれたものにしてあげることは、ケアする大人や社会の役割に間違いはないだろう。

(※1)研究結果と実践方法をまとめた書籍として、ダナ・サスキンド(2018)『3000万語の格差―赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ』(掛札逸美、高山静子訳),赤石書店 がある。
(※2)例えば、LENAプログラムがある。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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