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上場ファミリービジネスの後継者計画・指名 ~複数の選択肢から状況に応じた使い分けを~

2023年04月01日 岡田昌大


「上場ファミリービジネス」の存在
 経済活動を行う主体である企業の中で、ファミリービジネス(ファミリー企業、オーナー企業)が担っている役割は大きい。ファミリービジネスとは創業者および創業家が所有と経営に一定以上関与する企業を指す。後藤俊夫特任教授(日本経済大学)と落合康裕教授(静岡県立大学)の『ファミリービジネス白書 2022 年度版』によると、2020 年度の東証一部上場企業 2,171 社のうちファミリービジネスは 975 社で約 45%を占める。
 また TOPIX100 のうち 31 社(31%)、TOPIX Mid400 では131 社(約33%)が該当し、TOPIX Small では約半数が上場しながらもファミリービジネス(上場ファミリービジネス)である。これは時価総額が高い上場企業の銘柄においても、ファミ リービジネスの割合が高いことを意味している。

後継者計画における上場ファミリービジネス特有の課題
 近年、上場企業を対象としたコーポレートガバナンス改革の一環として、各種の実務指針が公表されるようになっている。2022 年7 月には、「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGS ガイドライン)が改訂され、社長・CEO の後継者計画策定と運用の必要性が指摘された。
 後継者計画は、候補者の選抜と育成という二つの要素に分けられる。上場ファミリービジネスの場合、選抜要件で定める社長・CEO の資質の一つとして、経営理念や大切にしてきた価値観といった自社のDNA を受け継ぎ、経営の執行で実践できるかが問われるべきと筆者は考えている。
 もちろん上場企業である以上、PBR が 1 倍を下回ることなく、資本コストを上回る資本収益性を達成することは前提として当然求められる。一方、上場したことで保有する株式がファミリーから投資家に一定程度分散した後でも、ファミリービジネスとして存続できた理由にも目を向けるべきである。創業者が一代で築き上げたなら起業した時の情熱や想い、既に二代目以降の社長が率いているなら創業者の情熱や想いを理念や行動指針として言語化し、それらを起点に種々の施策に取り組むことで、持続的な成長を実現してきたとも言えるからである。
 こうした観点から見れば、上場ファミリービジネスの後継者として、親族内承継が重要な選択肢の一つと理解できる。親族として経営を間近で見てきた人材であるからこそ、自社の DNA を本当の意味で理解し、実現できる面も認められる。しかし承継時期によっては、親族内に社長・CEO の適任者がおらず、内部昇進者や外部招聘人材を据えることも十分 にあり得る。そのため後継者は親族内承継ありきではなく、 必ず複数の選択肢から選抜しなければならない。また育成 の観点では、後継者・候補者にタフ・アサインメントを与え、 修羅場を経験させることは愚直に続けていくべきである。
 とはいえ、日本の場合、外部招聘の経営者人材市場が成熟途上のため、後継者を外部から選抜しづらい面はある。グローバルな調査に目を移すと、スイスのザンクトガレン大学が世界のファミリービジネスの売上高上位 500 社を対象に実施した『Family Business Index』がある。ここでは 500 社のうち441 社でファミリー出身の取締役が 1 名以上在籍しているが、その中でファミリー出身者が最高経営責任者(CEO)も担っているのは 214 社に過ぎず、残りの 227 社では非ファミリー出身者がCEO を務めていることが示されている。この結果から、外部招聘の経営者人材市場が成熟していることと、ボードメンバーであるファミリー出身者がモニタリングモデルの取締役会で、非業務執行取締役として監督に専念するケースが一定以上あることが示唆される。

複数の選択肢を持ち、適切なガバナンスの下で実践
 日本企業の場合、外部招聘の経営者人材市場が成熟途上であることに加えて、上場企業の取締役会は業務執行取締役が多数を占めるマネジメントモデルからモニタリングモデルへ移行途中のため、上述の調査のような姿が標準となるまでには相当な時間がかかることが想像できる。
 とはいえ、親族内承継ありきではなく、内部昇進者と外部招聘人材も選択肢とする選抜と育成の計画を確立させる必要がある。その際、自社の DNA を継承して実践できる具体的な要件を言語化することが重要となる。そして指名委員会での議論を通じて透明性の高いプロセスを踏むという適切なガバナンスの下でそれらを実践し、選任理由をステークホルダーへ開示することこそ上場企業としての責務である。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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