国際戦略研究所 研究員レポート
【中国情勢月報】
最近の台湾の総統選挙を巡る動き
2023年06月09日 副理事長 高橋邦夫
5月17日、当初言われていた時期よりも早く、台湾の最大野党である中国国民党が、来年1月13日に行われる総統選挙の党公認候補として、侯友宜・新北市長を選んだ。既に、与党・民進党が頼清徳・副総統を公認候補に選出し、もう1つの野党・台湾民衆党も同じ17日に党首である柯文哲・前台北市長を公認候補とすることを決めた結果、主要政党の候補が出揃ったことになる。
今回は、台湾の総統選挙を巡る最近の動きや、それに対する中国の動向などについて、台湾や香港での報道なども踏まえながら見てみたい。
1. 侯友宜候補選出のプロセス
(1)今回、侯友宜氏が国民党の公認候補に選出されるに当たって、まず指摘されているのは選出のプロセスの不透明性である。公認候補選出に際して、朱立倫・国民党主席(党首)は、最も科学的な資料(注:世論調査の結果)及び国民党所属の県・市の長、立法委員(国会議員)の意見に基づいて、侯友宜氏を党公認候補として選出したと述べているが、一方で選出に先立って、同じく有力候補と見られ、また自身が活発な「選挙」運動を展開していた大手電子メーカー「鴻海精密工業」の創業者である郭台銘氏と個別に会談している。
(2)侯友宜氏が公認候補に選出された後、郭台銘氏は侯友宜氏支持を表明したが、台湾メディアによれば、これまで郭台銘氏を支援してきた人々の間からは不満の声が出ているとのことである。今回、朱立倫・主席が党員による投票などではなく、上記のようなプロセスで侯友宜氏を選出した背景には、党内の分裂を避けたいとの理由があったと言われているが、結果的にこれまで郭台銘氏を推して来た党員との間に不満が残るとすれば、逆効果になった可能性も排除できない。
<参考>与党・民進党の情況
①対する与党・民進党について見ると、総統選挙への立候補に名乗りを上げたのが、現職の副総統である頼清徳氏一人であったことから、党内が一致して同氏を推しているとも言われるが、台湾事情に詳しい専門家によれば、民進党内でも蔡英文総統の支持層と頼清徳副総統の支持層の間には微妙な距離感があるとのことである。
それは、前回2020年の総統選挙に際して、再選を狙う蔡英文総統に対して、党内で公認候補を選ぶ予備選挙に立候補したのが頼清徳・前行政院長であったためであり、結果的には、頼氏は予備選挙に敗れ、その後、蔡英文総統が頼清徳氏を副総統候補に起用して、2020年の総統選挙で蔡英文・頼清徳チームが勝利し、今日に至っている。ただ、2人の指導者をそれぞれ支持する層の間には、わだかまりがなお残っているということである。
②そうした状況を背景に、最近、一部台湾メディアで言われ始めた1つの可能性が、頼清徳・総統候補と組む副総統候補に、現在台湾の駐米台北経済文化代表処代表を務めている䔥美琴・女史を充てる案である。それは、同代表が蔡英文総統の側近の一人であり、立法委員を務めた経歴も有しているため、同代表が副総統候補になれば、頼清徳氏を支持するグループと蔡英文氏を支持するグループが一致団結できるから、という理由によるものである。
2.侯友宜氏とはどのような人物か
(1)では、侯友宜氏とはどのような人物であろうか。台湾メディアなどによれば、1957年6月に台湾南部の嘉義県で本省人(注:1945年の日本の敗戦以前から台湾に居住していた人々)の子供として誕生し、長じて中央警官学校を卒業して、警察幹部として頭角を現し、2006年には最年少で警察組織のトップである警政署署長に抜擢された人物である。…
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