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【対談記事】中小企業がSDGsに取り組む意義とは

2023年06月01日 土屋敦司、あさひ製菓株式会社 代表取締役社長 坪野 恒幸




 近年、メディアや政府、自治体からSDGsに関する取り組みが熱心に発信され、消費者や企業による環境問題や社会問題への意識が以前より一層高まっている。中小企業を対象としたSDGsに関する調査(※1)によると、86%の中小企業の経営者や経営幹部がSDGsを認知しており、大企業だけでなく、中小企業においてもSDGsへの認知が拡大している。
一方で、SDGsに取り組んでいる中小企業は12%にとどまり、認知度とは対照的に、実際に取り組んでいる企業は極めて少ない。その背景として、「何から取り組めばよいのか分からない」「SDGsに取り組むことによるメリットが分からない」といった課題が同調査においてあげられている。
 そこで、今回はSDGsに熱心に取り組まれている中小企業の1つであるあさひ製菓株式会社(以下、「あさひ製菓」という。)の代表取締役社長の坪野恒幸さんに「中小企業がSDGsに取り組む意義」についてお話を伺った。あさひ製菓は、山口県柳井市に本社を置く、大正6年創業の老舗の和洋菓子製造販売チェーン店である。同社のSDGs達成への取り組みは、農林水産省のWebサイト「SDGs×食品産業〜持続可能な社会と食品産業発展のために私たちにできること〜」で紹介されている。味の素、キリン、伊藤園など大手企業の取り組みが同ページで目立つ中、地方の中小企業であるあさひ製菓は少し異色の存在だ。

(土屋)
まずSDGsに取り組むようになった背景・きっかけは何ですか。

(坪野)
SDGsという言葉が出てくる前から、多くの取り組みをしていました。最初にSDGsという言葉が出てきた際は、読み方すらわからなかった記憶があります。調べてみるとなるほどと感じ、PRのツールとしてSDGsを活用しようということで、SDGsの各目標にもともと実施していた自社の取り組みを当てはめました。

(土屋)
SDGsが始まる前から、もともと実施されていた取り組みなのですね。

(坪野)
水を提供するという取り組み(図 1)がありますが、弊社の工場が立地する場所は地下水が豊富です。その水がとても美味しく、地元の方にも良い機会なので提供しようということで、蛇口20個を工場内に設置して無料で提供することにしました。1日300人くらいが水を汲みに来られるのですが、お菓子を買いに来る人より多いですよ。
地下水は自然のものなのでどうぞ自由に汲んでくださいと言って皆様に提供しており、とても喜んでもらっています。地元の人に貢献したい、喜んでもらいたいという気持ちもある一方で、それでもやはり商売なので、10回汲みに来たうちの1回くらいはお菓子を買ってほしいという気持ちで始めました。


(土屋)
しっかり売上向上につながることを意識して始められたのですね。

(坪野)
民間企業にとっては、自社の商売につなげることが大事だと思います。自社へのメリットがないと、なかなか続けられないと思います。ギブアンドテイクが大事で、ギブばかりだと続きません。
子どもたちにクリスマスケーキをプレゼントとするイベントの開催(図 2)や、工場見学に来られた方にお土産を持って帰ってもらう取り組み(図 3)も、子どもや工場見学に来られた方が将来のお客様になることを期待しています。特に子どものときに食べたものは強烈な印象に残るので、大人になったらお菓子を買ってねという想いはあります。夢のない話かもしれませんが、民間企業にとっては商売につなげることが大事だと思います。


(土屋)
それは重要な考えだと思います。CSRという形で商売とは別の位置づけで取り組まれている企業もありますよね。SDGsへの取り組みをボランティア活動のように捉えてしまうと、商売に関係ないことをやる余裕はないと考えてしまうので、SDGsへの取り組みを商売に繋げるというメッセージは重要だと思いました。

(坪野)
例えば、一部の大企業が植林活動をしていますが、中小企業では取り組むことが難しいです。中小企業と比較して余裕のある大企業だからできるかもしれませんが、中小企業であれば自社のメリットにならないことはやりづらいですよね。

(土屋)
坪野社長の話は、“三方よし”に近いですね。自社のこと、お客様のこと、地域のことを考えてらっしゃると思います。一方で、具体的なアイデアを考えて実際に行うというのはそれなりのハードルはあると思いますが、何かコツはあるのでしょうか。

(坪野)
商売の中での問題点があれば、それがチャンスになると思います。食品ロス削減の取り組み(図 4)ですが、賞味期限が迫っているものやカステラの端切れなどの食品ロスになりそうなものを安く販売しています。基本的に定価の半分で売ろうということで、ハーフスイーツという名前にしています。2004年から始めた取り組みで、20年近く続けています。もともと製造過程においてロスが発生しており、従業員の方々が一部を持って帰っていましたが、ほとんどを廃棄していました。もったいないという気持ちが根底にあって、商売になればと思い、ハーフスイーツを始めました。子どものおやつくらいになるので売れるかなと思っていたのですが、周囲の人に相談したら「ブランドイメージが落ちる」という理由で反対されたんですよ。半額で売ってしまうと普通の商品が売れなくなって、ハーフスイーツばかりが売れてしまうのではないかという懸念もありました。しかし、実際に始めてみるとお客様は定価のものをギフト用として購入して、おやつにはハーフスイーツを買ってくれるというように使い分けてくれました。結果的に、食品ロスが激減して、売上だけでなく利益の向上にもつながっているので、今でも続けています。


(土屋)
坪野社長の言う商売の中での問題点が、「食べられる物なのに捨てるのはもったいない」で、その問題を解決するためにハーフスイーツの販売に至ったのですね。

(坪野)
他には、アレルギーに配慮した商品の開発・販売(図 5)に取り組んでいます。卵を食べられないという人がある程度いて、弊社の従業員にも卵アレルギーを持つ子どもがいました。卵を使っている洋菓子は多いから食べられないものが多く、その従業員が卵を使わないスポンジケーキを子供に作ったところ非常に喜んでくれたという話を聞きました。他にも同じようなお客様はいるのだろうと思って、nonというブランドを立ち上げました。とはいえ、アレルギーを持っている人は数パーセントしかいないため、リアル店舗で売ってもなかなか売上にはならない。そこで、ネットで販売して日本中のお客様の手に届くようにしました。商売と結びついて、同時にお客様が喜んでくれるのは嬉しいことですね。問題点を見つけて、お客様が喜んでくれる形でその問題を解決しようと思えば、商売の種が出てくるのではないかと思っています。


(土屋)
食品ロスの取り組みも食品アレルギーの取り組みも、問題解決と売上向上を両立しているのですね。しかし、何か問題を解決しようと思って新しい商売を始めても、それが売上に直結しないというリスクもあると思うのですがどのように対応されているのですか。

(坪野)
食品アレルギーの取り組みは、最初は注文が入ったら作るという形で始めて、お客様の反応を見てどれくらい需要がありそうか確認しました。それで需要がみえてきたため、だんだん品数を増やして、新たにホームページを作って大々的にサービス展開を始めました。まだまだ会社全体での売上に占める割合は低いですが、毎年売上は順調に伸びております。毎年2桁パーセントずつ売上が伸びています。

(土屋)
スモールスタートで、需要を見ながら事業を拡大していかれたのですね。

(坪野)
子どもにクリスマスケーキをプレゼントする取り組み(図 2)は、最初は恵まれない子どもたちにプレゼントしようということで始めました。あるお客様がボランティアで少しお金を出してくれ、足りない分は弊社が出すようにして無料でプレゼントしていました。けれども、2年目以降に同じ取り組みを続けようと思った際に、会社の持ち出しになると続けらないのですよね。どうしようかと考えた際に、一般のお客様にクリスマスケーキを買っていただく際に一口百円からの寄付を募るようにしました。その結果、会社の持ち出しはなく、お客様から集めた寄付金でクリスマスケーキを子どもたちにプレゼントできるようになりました。

(土屋)
活動を持続可能にするためにお客様から寄付を募ったのですね。SDGsに関してさまざまな取り組みをされた結果として、売上向上以外に何かメリットはありましたか。

(坪野)
今の若い世代はSDGsに関心を持っているので、採用活動にプラスに働いていると感じます。感覚的には、応募してくれる学生の8割ほどはSDGsに関心を持っている印象はあります。

(土屋)
8割は多いですね。中小企業の中には採用活動に苦労している所が多いと聞きます。そんなメリットがありながら、SDGsに取り組んでいない中小企業は80%以上というデータ(※1)もあります。このような中小企業がSDGsに取り組むために大事な要素は何だと考えますか。

(坪野)
社会の役に立たない企業はそもそも存在意義が成り立たず、多くの企業は社会の役に立っているのだと思います。そうすると、自社の仕事の中をよく探してみれば、SDGsの17つあるゴールのうちいずれかの項目に当てはまる取り組みが絶対にあると思います。

(土屋)
先ほどおっしゃっていましたが、SDGsへの取り組みを商売につなげるという示唆は大事だと思いました。企業の経営者の中には、SDGsへの取り組みがボランティア活動のようなものだと感じている人は少なからずいらっしゃると思います。

(坪野)
そうですね。SDGsの各ゴールを眺めていたら、何か商売のタネが思い浮かぶかもしれませんね。

(土屋)
貴社の場合はSDGsが出る前からこのような活動に取り組まれていたということですが、SDGsが出てきたことで何か変化がありましたか。

(坪野)
例えば、食品アレルギーの取り組みについて、SDGsの3番目のゴールで「すべての人に健康と福祉を」という目標があったので、自社の方向性は間違っていないのだと自信を持てるようになりました。国連が目標として定めているため、弊社も目標達成に向けて頑張っていこうという気持ちになりました。

(土屋)
SDGsが背中を押してくれたことで、取り組みが加速したのですね。実際にSDGsに関する取り組みは、どこの部署がやられているのですか。

(坪野)
基本的には、私が旗振り役を務めており、具体的なビジネスを主導することもあります。一方で、従業員発で新たな取り組みを始めることもあります。

(土屋)
従業員に対しては何か働きかけはされていますか。

(坪野)
新入社員研修や集会などで、弊社はお客様に喜んでもらうのが仕事なのだと従業員に話をするようにしています。従業員は、会社に誇りを持ってくれているのではないかと思っています。対外的にSDGsに取り組んでいることをアピールしていることもあり、家族や友人にあさひ製菓はこんなことをやっていてすごいよねと言われると嬉しいみたいですね。

(土屋)
従業員に心構えをしっかり伝えているのですね。一方で消費者に対しては、食品ロス削減など自社が取り組む社会課題の解決に寄与してもらえるように、行動変容を促すような工夫はされていますか。

(坪野)
食品ロスを減らしたいので協力してほしいと言ってもお客様にはあまり響かないと思います。そうではなく、お客様のメリットになるように、とにかく安く買えますということを訴えるようにしています。賞味期限が短い、形が悪い、不揃いであるといったデメリットはあるけれども、安いですよということをお客様に伝えて買ってもらっています。その結果、お客様の知らないところで食品ロスが削減されているのですよね。あとでお客様は食品ロス削減に貢献できたのだと気づくのかもしれないですが、その意識があろうがなかろうが結果として食品ロスの削減につながれば良いと思います。そのため、お客様が買ってくれるようなPRの仕方をすれば良いと思います。

(土屋)
あえて食品ロスという堅苦しい言葉を使わずに、お客様に価値を感じてもらえるようにPRして、結果として社会を良くしていくということなのですね。ちなみに、SDGsに取り組むにあたって課題は何かありましたか。

(坪野)
何かしら新しいことを取り組もうとすると、多少なりとも初期投資が必要なんですよね。例えば、①の地下水を提供する取り組みに関しては蛇口の設置費用がかかりました。ただし、将来の売上につなげるために必要な投資であると考えています。

(土屋)
最後になりますが、SDGsに取り組むにあたって最も大事な要素は何だと考えておりますか。

(坪野)
繰り返しにはなるのですが、SDGsに取り組むことで、会社の利益が向上して、しかも世の中の人も従業員も喜んでくれて、みんなハッピーになることだと思います。会社や世の中のためになっているけど、従業員が恩恵を受けずに苦しんでいるという状態ではおかしいので、会社の持ち出しではなく利益につなげて従業員の給料を増やすことが大事であると考えています。

(土屋)
今回はあさひ製菓株式会社の代表取締役社長の坪野さんに、中小企業がSDGsに取り組む意義やポイントについて伺いました。内容を要約すると以下になります。



 SDGsへの取り組みに関心を持っている中小企業の方々に対して、取り組みのヒントをいただきました。坪野さん、どうもありがとうございました。

※図1~5については、あさひ製菓株式会社の許可のもと、同社ウェブページをもとに作成しております。

(※1)独立行政法人 中小企業基盤整備機構「中小企業のSDGs推進に関する実態調査」(2022年3月)
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