コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

リサーチ・フォーカス No.2023-006

公共調達における人権デュー・ディリジェンスのあり方 ~求められる中央調達機関の設置~

2023年05月19日 森口善正


日本政府は2023 年4 月、公共調達の入札説明書や契約書等において、「入札希望者/契約者は『責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン』を踏まえて人権尊重に取り組むよう努める」旨の記載の導入を進めることを公表した。しかし、日本政府はそもそも企業に対し人権デュー・ディリジェンスの実施を義務づけておらず、公共調達の入札説明書や契約書に導入される文言も努力義務にとどまるため、その実効性には疑問が残る。

企業のグローバル・サプライチェーンにおける人権侵害に対する問題意識が高まるなか、日本においても大企業に人権デュー・ディリジェンスの実施を義務づけるとともに、公共調達のサプライチェーンにおける人権リスクにも適切に対処していく必要がある。その際の手順として、英国やノルウェーの事例が参考になる。具体的には、①公共調達のサプライヤーが遵守すべき人権デュー・ディリジェンスの範囲と深度について、規制やガイドライン、調達契約の雛形等を通じて事前に明確化しておく、そのうえで、②人権リスクの高い調達を類型化する、③一定の金額以上ないしは高リスクと評価される調達に参加するサプライヤーに対し、サプライチェーンを含めた人権デュー・ディリジェンスの実施状況を質問し、人権リスクを評価する、④契約締結後も、サプライヤーに対する定期的なモニタリングや現場監査等を実施して、その人権デュー・ディリジェンスの実効性を確保していく、等の取り組みが考えられる。

公共調達のサプライヤーに人権デュー・ディリジェンスの実施を実効性ある形で義務づける場合、実施状況の評価や契約締結後のフォローアップ等、調達機関の事務負担が大幅に増加する。この点については、政府が「中央調達機関」を設置して一般的な物品・サービスの調達を一元的に集約することが考えられる。これにより、個々の調達機関の事務負担が大幅に軽減されるとともに、中央調達機関においては、本来の趣旨である規模の経済を活かしたコスト削減、および調達担当者のスキル向上と専門人材の育成が可能になる。

政府は、公共調達のサプライチェーンにおける人権尊重責任を果たすだけでなく、持続可能な環境・社会・経済の実現に公共調達をより積極的かつ戦略的に活用していくべきである。そのためにも、幅広いステークホルダーや専門家の意見も踏まえて「政府調達中期計画」を策定し、「持続可能な公共調達」(Sustainable Public Procurement)に取り組んでいく必要がある。

(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ