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子育て世代を地方自治体に呼び込むための全天候型遊び場施設のデザイン

2023年05月18日 本田紗愛


■はじめに
 近年全国の自治体において、わが街に子育て世代を呼び込むべく、さまざまな取り組みがなされている。そうした中、子育てしやすい環境整備はどの街にとっても重要命題であるが、その一環として全天候型遊び場施設(※1)への注目度が高まってきている。

 子どもの遊び場といえば、まず「公園」を思いつく人が多いだろう。しかし以前から、公園だけでなく、雨の日や雪の日にも遊ぶことができる場所がほしいという要望は多くの保護者から挙げられていた。それに加え、近年は夏日の増加による熱中症リスクや、さまざまな事故や犯罪に巻き込まれるリスクも顕在化しており、「いつでもだれでも安全・安心に遊ぶことができる公園」とはいいにくい状況となっている。
 こうした状況が、全天候型の遊び場ニーズが高まっている背景といえるだろう。本稿ではこれらの背景だけでなく、子どもや保護者、まちづくりの観点から全天候型遊び場施設の重要性を考察したい。

■従来の全天候型遊び場施設の問題点
 まず、子どもをもつ筆者自身の経験も踏まえ、従来の全天候型遊び場の特徴および問題点について整理する。
 従来、全国にある全天候型遊び場としては、公共の児童館や民間商業施設のキッズスペース等が挙げられるが、既製品のおもちゃや遊具を置いてあるだけの施設も少なくない。また、民間の遊び場では、併設されたゲームセンターに誘導されて思わぬ出費が増えてしまったり、ゲーム機の大音響で子どもの声が届かなかったりなど安全面が懸念されるような施設もある。
 こうした従来の遊び場は、わざわざ行って子どもに体験させたい、と保護者が思うようなデザインになっていない。これらの施設は「子どもが行きたがるから」「子どもと時間をつぶす場所がないから」など、保護者にとっては受動的・消極的な理由によって選択されるケースが少なくない。

■子ども・保護者の観点から全天候型遊び場施設に求められるデザイン要素
 では、保護者が能動的・積極的に行きたいと思う遊び場とは、具体的にどのようにデザインされた施設だろうか。求められるデザイン要素を3点ほど挙げてみたい。
 まず1点目は、「遊びのデザイン」である。
 「遊び」は子どもの創造性や自発性等を育むにあたり何よりも重要な要素であり、その重要性は多くの保護者が十分に理解しているところだろう。
 「遊び」の重要性を示す一例として、幼稚園における教育の基準を示す「幼稚園教育要領」(平成20年3月、文部科学省)の総則において、幼稚園教育の基本として「遊び」の重要性が下記のように明記されている。
 『幼児の自発的な活動としての遊びは、心身の調和のとれた発達の基礎を培う重要な学習であることを考慮して、遊びを通しての指導を中心として第2章に示すねらいが総合的に達成されるようにすること。』

 つまり子どもの遊び場は、単に楽しいだけではなく、子どもの能動的な遊びを促し、遊びを通して創造性や自発性等を育めるように考え抜かれたデザインがされているべきであり、本稿ではこれを「遊びのデザイン」と定義する。
 このような「遊びのデザイン」に関連する事例として、全国で公共施設を含む数多くの遊び場をプロデュースする株式会社ボーネルンドの取り組みが挙げられる。同社は「あそびを通して、子どもの健全な成長 寄与し、人間らしい健全な社会を創る」を企業理念としている。そして、どのような「遊び」が子どもの育ちに必要であるか、有識者や専門家と共に日々研究し、遊び場や製品のデザインに反映させている。こうした企業の理念や取り組みが、多くの保護者や自治体から高く評価されている理由といえる。
 このように、子どもの育ちにとっての「遊び」の重要性を十分に理解し、それを体現している遊び場であれば、保護者はわざわざ行きたいと思うだろう。

 2点目は、「多様性のデザイン」である。
 例えば遊び方についてみても、先述した公園での外遊びは子どもにとって素晴らしい体験であることは間違いないが、子どもの遊びはそれだけではない。走ることが好きな子ども、跳ねることが好きな子ども、工作が好きな子ども、読書が好きな子どもなど、さまざまである。また、子どもの年齢や発達、障がいの有無等によっても、一人ひとりに適した遊び方や過ごし方はさまざまといえる。
 屋外や屋内で多様な過ごし方が選択できる施設ということは、すなわち子ども一人ひとりの個性や多様性を受け入れ育むことがデザインされた施設といえる。そういった施設であれば、子どもも保護者も安心して過ごすことができ、行きたいと思うだろう。

 3点目は、「保護者自身が快適なデザイン」である。
 特に子どもが小さい時期は、子どもが遊んでいる間は保護者が付き添うことが暗黙も含めたルールである。子どもが遊んでいる間、保護者だけ優雅にカフェで休憩するようなことは不可能であり、常に子どもから目を離さず、何かあれば駆け付けられる位置にいる必要がある。一方そうはいいながらも、できるだけ自身も快適に過ごしたいというのが保護者の本音だろう。こうした保護者のニーズにも配慮し、休憩スペースの配置やカフェのテイクアウトサービス等、ハード・ソフト面ともに工夫されていると、より保護者が行きたいと思う施設になるだろう。

■まちづくりの観点から注目度の高い全天候型遊び場施設事例
 以上「遊びのデザイン」「多様性のデザイン」「保護者自身が快適なデザイン」の3点のデザイン要素を満たした遊び場であれば、子どもや保護者にとって、十分に魅力的な遊び場であるといえるだろう。
 そのうえで、本稿では子どもや保護者だけでなく、まちづくりの観点から全天候型遊び場施設のあり方について提案したい。
 先述した通り、全国の自治体が子育て世代を呼び込もうとしのぎを削っている中で、地域の魅力化・ブランド力向上等まちづくりの観点からも、全天候型遊び場施設は重要なコンテンツといえる。ここでは、まちづくりの観点から参考になる全天候型遊び場施設の事例を挙げてみたい。これらの事例は、上記デザイン要素に加えて、地域特性を生かしたオリジナリティの高い空間デザインが取り入れられており、後述するように、まさにこの点が重要といえるのである。

 まず、公共の全天候型遊び場施設の事例として、山形市がPFI手法で整備した「シェルターインクルーシブプレイス コパル」がある。
 当該事業の要求水準書では、遊びを通して子どもの健やかな成長を促すことが理念に示されており、「遊びのデザイン」要素を満たした施設といえる。
 また、施設内にテイクアウトができるカフェや、遊び場内にベンチも設置されているなど、「保護者自身が快適なデザイン」にも配慮されている。
 さらにこの施設は、新進気鋭の若手建築家である大西麻貴・百田有希が設計を担うとともに、地元の障害児福祉施設企業が運営を担っており、施設名の通り「インクルーシブ」をコンセプトとした設計・運営が民間事業者によって提案され、実現している。つまりこの施設は、「多様性のデザイン」について特に優れた施設であるといえる。そして、優れた空間デザインが評価され2023年日本建築学会賞を受賞するなど、全国から注目度の高い施設となっており、地域ブランディングに寄与している。

 次に、まだ事業化検討段階であるものの、公共の全天候型遊び場施設の事例をもう一つ挙げたい。当社が令和4・5年度に富山県から民間活力導入可能性調査および事業者選定アドバイザリー業務を受託し、整備運営に係る検討を行っている「新川こども施設(仮称)」である。この施設は、基本計画において『遊びを通して、非認知能力・運動能力・創造性を育む施設』『独自性や先進性に優れたインクルーシブな施設』(※2)等が整備方針に掲げられており、先に述べた「遊びのデザイン」「多様性のデザイン」が重視されている。また導入可能性調査報告書によれば、利用者の利便性向上に向けたカフェ等の収益施設の導入も検討されており、「保護者自身が快適なデザイン」にも着目している。(※3)
 さらにこの施設は、基本計画に『子どもも保護者も住んでみたい・住み続けたい、魅力的な地域づくりに貢献する施設として、新川こども施設を整備していきます。』(※2)と記載されているほか、所管が地方創生局であることからも伺える通り、当該施設を地域活性化策および定住促進策の一環として位置付けている点が特徴といえる。合わせて、基本計画における展示コンセプトには『新川地域ならではの特徴(高低差のある地形、豊かな自然、文化・伝統など)を展示に反映します。』(※2)と記載されており、地域特性を活かした展示デザインとすることが明記されている点も特徴である。

 また民間企業においても、全天候型遊び場施設を整備する事例が見られるようになってきた。
 その一つが、著名な建築家坂茂が設計を手掛けた「キッズドームソライ」(山形県鶴岡市内)であるが、この施設の事業主は、地域課題解決に取り組む民間のまちづくり会社「ヤマガタデザイン株式会社」だ。この施設は、「これからの時代に生きる子どもたちに必要なチカラを「遊び」を通じて育んでいくこと」(※4)を目的に整備されている。また、アスレチックやライブラリー、アトリエ等さまざまな機能により多様な遊び方ができる施設となっている。つまり「遊びのデザイン」「多様性のデザイン」が特に優れている施設といえる。
 また、遊び場全体がよく見える位置にベンチスペースがあるなど、「保護者自身が快適なデザイン」にも配慮されている。何よりこの施設の特徴は、同社・同建築家により手掛けられたリゾートホテル「スイデンテラス」に併設されている点である。つまり、大人をメインターゲットとしたリゾート施設において、さらなる集客やブランディング、地域貢献のために全天候型遊び場施設が整備されているのだ。

■まちづくりの観点から全天候型遊び場施設に求められるデザイン要素
 上記で挙げた事例の施設はいずれも、先に述べた3点のデザイン要素「遊びのデザイン」「多様性のデザイン」「保護者自身が快適なデザイン」に加えて、地域特性を踏まえたオリジナリティの高い空間デザインが取り入れられていることで、まちづくりに寄与していると筆者は考える。本稿ではこれを、「サイトスペシフィックな空間デザイン」(※5)と定義する。
 上記で事例に挙げた「シェルターインクルーシブプレイス コパル」は背後の蔵王連峰の山並みに呼応した外観デザインとなっており、「キッズドームソライ」は県産木材を使ったドーム状大屋根が特徴のデザインとなっている。いずれの施設も、その土地固有の自然環境や資源等を生かしたオリジナリティの高い空間デザイン、つまり「サイトスペシフィックな空間デザイン」であるといえるだろう。
 「サイトスペシフィックな空間デザイン」は、その空間を利用する子どもたちの郷土愛を育むだけでなく、その街の魅力化やブランディング、広域集客を担う施設として重要な要素になると期待される。
 美術館や水族館・動物園を参考に考えると、これら施設の第一義は教育施設でありながら、広域集客施設としての側面も一般的に認められるところだろう。こうした側面から、美術館や水族館・動物園では、建築や展示にサイトスペシフィックなデザインが積極的に取り入れられているといえる。
 まちづくりの観点から全天候型遊び場施設を捉えた時、美術館や水族館・動物園と同じように、今後はより一層「サイトスペシフィックな空間デザイン」が求められるようになるだろう。

■むすび
 以上、子どもや保護者、そしてまちづくりの観点から、今後求められる全天候型遊び場施設のデザイン要素として、「遊びのデザイン」「多様性のデザイン」「保護者自身が快適なデザイン」、そして「サイトスペシフィックな空間デザイン」の4点について考察を行った。
 筆者の実感として、上記要素をすべて満たす全天候型遊び場施設は現状として非常に少ない。今後、子育て世代を呼び込むまちづくりにおける重要コンテンツとして、自治体や民間企業には、上記デザイン要素を踏まえた上質な全天候型遊び場施設づくりに積極的に取り組んでもらいたい。

(※1) 本稿でいう全天候型遊び場施設とは、屋内遊び場だけでなく、公園等の屋外遊び場と屋内遊び場の複合型施設のことをいう。
(※2) 出所:「新川こども施設基本計画書」(令和4年2月、富山県)
(※3) 参照:「新川こども施設の整備に係る民間活力導入可能性調査業務報告書」(令和5年2月、富山県)
(※4) 出所:キッズドームソライ公式ウェブサイト(https://www.sorai.yamagata-design.com/asobiba、令和5年3月8日参照)
(※5) サイトスペシフィックとは、特定の場所において、その特性を活かして制作された作品やプロジェクトを表す用語。芸術分野で用いられることが多い。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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