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JRIレビュー Vol.4,No.107

地方単独事業の社会保障の現状と課題

2023年04月19日 西沢和彦


地方自治体の実施する事業は、国庫補助事業と地方単独事業との二つに大きく分けられる。地方単独事業は、国庫補助事業に比べ実態が見えにくく、その在り方に関する議論が十分に蓄積されているとはいえない。本稿は、地方単独事業のなかでも社会保障に焦点を当て、行政情報開示請求によって取得した総務省「社会保障施策に要する経費」を主に用いつつ、統計面からその実態へのアプローチを試みた。加えて、もともと矛盾する側面を持つ社会保障と地方分権との整合性確保に向け、今後の議論のポイントを整理した。

社会保障は総額136.4兆円(2020年度)であり、そのうち地方単独事業は7.5兆円程度とみられ、政策分野別に大きく三つのグループに分けることができる。

・一つは、「保健」であり、地方単独事業の約6割の4.5兆円と計算される。「保健」の半分弱は、地方自治体が保険者となっている社会保険すなわち国民健康保険(国保)、後期高齢者医療制度、介護保険それぞれの事業勘定への一般会計からの繰り入れである。残りは、保健所や保健センターの運営、健康診断、検診、予防接種といった予防事業、公立病院と公立診療所への繰り入れ、および、子どもや障害者の医療費の窓口の自己負担軽減の大きく三つである。これらは、窓口の自己負担軽減など一部を除き、国民健康保険法、健康増進法、予防接種法、母子保健法、公営企業法などによって、地方自治体に実施が義務付けられているものであり、「地方単独事業」が与える語感に反し、地方自治体に大きな裁量が働くものではない。

・二つ目のグループが「家族」分野である。「家族」は、その実態に即し、わが国ではしばしば「子育て関連支出」と呼び変えられる。「家族」は、同様に約3割の2.1兆円と計算される。わが国の就学前教育・保育は、公立施設が地方単独事業、私立施設が国庫補助事業の二元体制となっており、「家族」の約4分の3は、公立施設の運営費および私立施設への上乗せ助成などによって構成されている。

・三つ目のグループは、「保健」と「家族」以外の政策分野であり、目立つものとしては、「高齢」、「障害・業務災害・傷病」の二つがある。

今後の議論に向け、ポイントは五つ挙げられる。第1に、総務省「社会保障施策に要する経費」の正確性確保と開示を通じた、地方単独事業として実施される社会保障の実態把握と共有である。第2に、「社会保障」の範囲や水準に関し、コンセンサスを不断に探る作業である。第3に、これまでの改革の検証作業である。例えば、三位一体改革が国庫補助負担金削減ありきで進められたことは否定しにくく、それが保育政策をはじめ社会保障にもたらした影響は検証されなければならない。第4に、国と地方自治体それぞれの施策の整合性確保である。第5に、医療や保育など制度そのものの改革である。例えば、子どもの医療へのアクセス確保は、過剰受診を招く医療費の窓口負担の軽減ではなく、医療保険制度の見直し、具体的には医療機関への事前登録制と診療報酬の包括払い制の導入などで対応される方が好ましい。

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