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データを結節点に現場と経営を繋ぐファシリテーターの役割

2023年04月11日 七澤安希子


 先日、ものづくりに携わる現場の方々に向けて、工場内の特定工程を対象にローデータを分析することで生産性向上施策を検討するワークショップを開催した。合計6時間という限られた中ではあったが、参加者から、「これまで社内で実施してきた改善検討とは異なるアプローチにより新たな気づきを得られた」「他工程にも適用させたい」という反応が得られた。参加者と比べれば、圧倒的に現場の実態に詳しくない私が、データ活用を切り口に、非効率を生じさせている原因の探索から改善策の検討までのディスカッションをファシリテートできたのか、その理由を振り返ってみたい。ポイントは三点あると考えている。

 一点目は、設備や商品仕様を含めて非効率を生じさせている原因仮説を立てたことにある。生産工程における設備や商品仕様は、改善活動において所与の前提条件になってしまうことが多い。現場の方々には「前提条件だ」という先入観があるためだろう。それらに手を付けようとすると、設備メーカーや納入先、仕入れ先といった生産現場を超えた外部との調整が必要となる。抜本的な改善に繋がる可能性が高いにも拘わらず、現場の皆さんにとっては心理的ハードルが高く思考しづらいという実態がある。そこで、私のような第三者の担うべき当然の役割として、まずはあらゆる可能性を排除せず現場の皆さんの視野拡大に繋がるように議論を促すことに注力した。最終的に、改善策の優先度は現場だけで判断せず経営層と共に検討することも強調した。

 二点目は、現場の方々が“違和感”として感じる生産性の微妙な変化をデータで可視化したことにある。具体的には、毎分単位のデータを24時間収集し、時系列やチャンピオンデータとの比較分析を通じて、時々生じるデータ波形やプロットの変化点がいつ発生しその瞬間に何が起きているのかを明らかにした。それにより、現場の方々は、感覚ではなく自信や納得感を持って原因を議論できたと考えられる。加えて、これまで、見落としていた違和感にも気づくことができた様子であった。何よりも、“違和感”をデータで可視化したことで、現場の方々から“違和感”を解決する施策アイディアが次々と生まれ思考が前に進む姿に驚かされた。

 三点目は、経営インパクトのある改善施策を導出できるように、財務・IT・生産それぞれの担当者に参加して頂くと共に、経営層に報告する場を設計したことにある。財務担当の立場から定量的なインパクト効果の有無を、IT担当の立場からデータの収集方法を、生産担当の立場から現場の状況や既存の制約条件を、というように多面的にインパクトを整理したことで、具体的な改善施策の議論を行うことに繋がった。また、その具体施策が企業価値にどう貢献するのか経営的な観点の議論も合わせて行うことで、施策を客観視し適切な優先度付けができたと考えられる。そして経営層に対し、現場の方々がデータを活用しながら自信を持って課題を特定し、経営の視点も踏まえた改善施策案を報告することで、現場の判断を超えた改善施策案を経営層から引き出すことにも成功した。このように、データによる可視化を通じてアウトプットからアウトカムに至るまでの生産工程改善を、現場サイドと経営サイドが相互に課題認識を共有しながら進めていく風土づくりのきっかけになったと考える。

 非効率が生じている原因の探索も改善施策の検討も、現場の方々や経営層の皆さんに知見があることがほとんどである。それらを引き出すために、現場の常識を取っ払い、違和感を捉えられるようにデータを活用し、現場の方々と経営層との議論が円滑に進むように示唆出しを促す場を構築することがファシリテーターの役割であることを改めて認識することができた。「カイゼンに終わりなし」とよく言われるが、そのことを実感するワークショップであった。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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