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リサーチ・フォーカス No.2022-065

児童手当の課題と議論のあり方

2023年03月16日 西沢和彦


2023年1月、岸田文雄首相は年頭記者会見で、児童手当を中心とした経済的支援の強化を「異次元の少子化対策」の最優先課題として掲げた。児童手当は、子どもを対象とした所得制限付きの現金給付である。本稿は、児童手当の財源と給付両面からの問題点を整理し、今後の議論のポイントを考察した。

まず、財源について、児童手当に充てられている子ども・子育て拠出金には、大きく4つの構造上の問題点を指摘出来る。第1に、水平的公平性に著しく欠ける。拠出金の課税ベースは、賃金のみであるうえ、その賃金についても、わが国の民間給与総額225兆円の約8割の183兆円を対象としているに過ぎない。第2に、正規雇用抑制的に作用し、かつ、国際競争上不利に働くなど経済にマイナスの影響をもたらす。第3に、拠出者である事業主には選挙権もなく、特別会計で経理されることから、使途に対するガバナンスが及びにくい。第4に、厚生年金保険料の滞納や未適用が高水準であることに表れているように、徴収が決して容易ではない。

次に、給付面について、第1に、貧困対策なのか、社会全体による子育てを体現化した普遍的給付が目指されているのか、目的が不明確である。第2に、所得制限の設計に3つの難点がある。1つは、共働き世帯に有利な仕組みとなっており、片働き世帯との公平性に欠ける。2つめは、所得制限の前後で可処分所得の逆転が生じ、合理性に欠ける。3つめは、パート主婦の就労調整を招くとともに、就労の意思決定を難しくしている。そのほか、国と地方自治体がバラバラに現金給付を増額あるいは新設した場合、その合計がツーマッチになりかねない懸念などもある。

今後の議論のポイントとして、第1は、目的の明確化である。少子化対策なのか、あるいは、子どもの幸福度向上なのか。これらは政策的に重なる部分があるとしても明らかに差があり、それが認識されなければならない。第2は、税制改正を伴う歳入増の議論に正々堂々と向き合うことである。税の議論を回避し、子ども・子育て拠出金にいわば逃げ込むことにより、国民の税に対する理解が一向に深まらないという負の側面が軽視されてはならない。第3は、税制および他の社会保険制度との一体的な設計である。これらが抱える課題は共通する部分が多いためである。


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