水素はなぜ必要なのか。エネルギーと言えば電力が想像されがちだが、実は燃料のまま熱源や動力源として利用されるものは多く、わが国では最終エネルギー消費全体の3分の2が燃料のまま利用されている。製鉄や化学などの産業分野、自動車、飛行機などの交通分野、発電などのエネルギー転換分野では特に燃料の利用率が高い。 こうした燃料にはこれまで化石燃料が用いられてきた。一部はEV化などによる電化で脱化石燃料を実現できるが、製鉄や化学などでは代替は困難であり、燃料の脱炭素ができなければ産業の空洞化を招くことになる。つまり、電化を最大限進めるが、それでも転換できない化石燃料は水素に置き換える必要があるのだ。こうした燃料の水素化はこの1,2年程度で世界的な方針となった。国際エネルギー機関(IEA)が21年5月に発表した「Net ZERO by 2050」の中で、2050年には世界の電力需要の20%強が水素製造に利用される見通しを立てている。これは、規模にして世界の輸送需要と同程度で、世界的な水素導入の方針は既定路線となってきたと言える。 これまでも、水素は今後の化石燃料代替の燃料として期待されてはいたが、いつ本格普及が始まるかというところが焦点であった。産業界などでは燃料転換の難しさから消極的な意見が多かったが、この1年程度のあいたで、化石燃料多消費企業の将来的な競争力の懸念、投資家によるダイベストメントなどのトレンドが顕在化し、国内の足並みがそろってきたことで、水素への転換の道筋が整った、といえるだろう。