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国産SAF供給に向けて、広範なステークホルダーを巻き込んだ体制構築を

2022年12月13日 福山篤史


 航空業界において、国際的な脱炭素の機運が高まっている。直近では、国際民間航空会社の団体である国際民間航空機関(ICAO)が10月7日、国際航空分野で2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする長期目標を採択した。従来の「2020年以降、国際航空での温室効果ガス(GHG)の総量を増加させない」との目標から、ネットゼロの排出削減目標へと大きく方針を転換したことになる。今回の新たな目標達成には、革新的な航空技術の採用や、合理的な航空運営、持続可能な航空燃料(SAF)の開発・増産などの加速化が必要とされている。SAFとは、廃食油、廃棄物、バイオマスなどを原料とし、ライフサイクル全体でのCO2排出量が既存ジェット燃料よりも小さいものを指す。国内においても2021年12月、航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会では、「2030年には本邦エアラインによる燃料使用量の10%をSAFに置き換える」という目標が掲げられた。

 各国に目標達成に向けてSAF供給体制構築が進められている。同時に、国際的なSAF原料の争奪戦がすでに始まっている。SAF原料にはいくつかの種類があるが、廃食油を原料とするSAFの商用化が先行している。既に海外では廃食油をSAF原料として囲い込む動きが始まっており、日本国内の廃食油も欧州やシンガポールなどに流出し始めている。実際、廃食油の輸出量は、2017年の6万tから2021年には12万tにまで増加している。次の段階ではSAF原料として、森林残渣、農地残渣、都市ごみなどの利用が想定されるが、国内における産出量増加は見込めず、いずれ簡単に上限量に達することが予想される。

 こうした状況下でも、国内の航空業界がSAF導入目標達成への手を緩めることはできそうもない。欧州連合は2030年にSAFの5%導入を義務化する方針を掲げた。こうした動きが世界的に広がるとSAFの搭載ができない飛行場での発着を、航空事業者が避けることも予想される。日本国内でSAF導入体制が整わない場合、国内航空事業者がSAF導入義務のある国に飛べなくなるばかりか、海外航空事業者が日本への便を減らす恐れもある。新型コロナウィルス感染症の終息後に期待されるインバウンド客も受け入れられなくなる可能性まであるのだ。
 このような状況を避けようと、2022年3月に有志の民間事業者が設立した「ACT FOR SKY」は、国産SAFの安定的な供給に向けて、原料調達からSAF供給までの安定的なサプライチェーン構築に取り組む方針を掲げている。

 ただ、国内でのSAF供給体制構築に向けた課題もある。主要な課題の一つ目は製造コスト、二つ目は原料調達からSAF供給までのサプライチェーン構築だ。「持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会」では、価格目標として「2030年までに100円/L台」が目標として掲げられている。一方、足元では、石油由来航空燃料の製造コストが100~150円/L程度であるのに対して、SAFは200~1600円/Lと大きな価格差があるとの試算もある。また、SAF原料として注目される廃食油や森林・農地残渣などの供給者、SAF製造を担う石油元売り事業者、そして航空機へのSAF搭載を担う航空事業者などの多数のステークホルダーが賛同し、SAF供給のサプライチェーン構築に向けたアクションに移す機運にも、まだ不確実性が伴う。

 この状況を打破するために、SAFが有する潜在的な価値にも光を当てることが、求められるのではないだろうか。現在、脱炭素が求められる中で、国内の石油元売り事業者は岐路に立たされている。ここ数年間で、複数の石油元売り事業者が製油所の縮小や閉鎖を決断した。その結果、数百~千人もの雇用が失われるといった事態も生じており、製油所が拠点を置く自治体も地域経済低迷や人口流出を危惧している。だとすれば、従来の石油を原料とした製油プロセスから、SAF製造に設備能力シフトさせることが有効ではないか。SAFの原料費の多くを占める設備費の削減により、SAF製造コスト全体の低減も見込める。

 さらには、恩恵を受ける自治体が関与する余地もあるのではないか。自治体が橋渡し役となりカーボンクレジットを発行し、クレジットを売却して得た資金をSAF製造・搭載のサプライチェーンに関わるステークホルダーに分配することも構想できるだろう。実際に、国内において自治体がカーボンクレジットを発行する動きも複数登場している。また、SAFに関しては、シンガポール航空や投資会社テマセクが、SAF利用によるCO2排出量削減に対するSAFクレジットを2022年7月から法人顧客や貨物輸送業者(フォワーダー)に販売することを始めている。本取組では、SAFクレジットが二重計上されずに信頼性・透明性をもって取引されるよう、持続可能な認証基準で世界をリードするRoundtable on Sustainable Biomaterialsのブックアンドクレーム・システムに登録を行う。このように十分な信頼性・透明性を確保した上で、SAFのサプライチェーン構築に関わる各社が恩恵を受けるような仕組みを作ることは急務だろう。国産SAFの供給体制が早急に整えられていくような大胆な発想を是非、期待したい。

<参考文献>
・ICAO[2022]「States adopt net-zero 2050 global aspirational goal for international flight operations」
・国土交通省航空局[2021]「航空の脱炭素化推進に係る工程表(航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会)」
・全国油脂事業協同組合連合会[2017,2021]「UCオイルのリサイクルの流れ図」
・ACT FOR SKY[2022]ACT FOR SKY[2022]. 「国産 SAF(持続可能な航空燃料)の商用化および普及・拡大に取り組む有志団体 「ACT FOR SKY」を設立~SAF の認知度向上、航空セクターの脱炭素化への貢献を目指します~」
・経済産業省資源エネルギー庁[2022] 「『持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会』について」
・シンガポール航空[2022]「CAAS, Singapore Airlines And Temasek To Launch Sustainable Aviation Fuel Credits In July 2022」


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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