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改めて注目されるアフリカスタートアップ投資

2022年10月12日 渡辺珠子


 今年は8月27日〜28日にチュニジアで第8回アフリカ開発会議(TICAD 8)が開催されました。日本からは「アフリカにはダイナミックな経済成長のポテンシャルがある」ことに触れ、人的資本に注目し、今後3年間で官民総額300億米ドル規模の資金を投入するとの表明がありました。300億米ドルの中には、100億円超の「スタートアップ向け投資ファンド」計画が含まれています。その一翼を担うのが、経済同友会が7月28日に発表したアフリカ特化型のインパクト投資ファンド「アフリカ投資機構(仮)」です。インパクト投資とは、環境や社会の課題解決への成果・効果(=インパクト)の創出と金銭的リターン達成を同時に実現することを意図した投資です。上場企業を主な対象とするESG投資とは異なり、インパクト投資ではスタートアップを含む未上場企業が主な投資対象であることが特徴の一つです。

 アフリカはどの国も様々な環境や社会課題を抱えていますが、その課題解決に大きな貢献をしているのがスタートアップです。銀行口座を持たなくても携帯電話のショートメッセージで送金や支払いを行うことができるM-PESAは以前からよく知られている代表例と言えるでしょう。M-PESAによって出稼ぎ労働者の送金リスクやコストが減り、少額の借入も可能になったため、ケニアでは数十万人が貧困から脱出したと言われています。現在では、M-PESA以外にもデジタル技術を用いて様々な金融サービスを提供するフィンテック分野のスタートアップが活躍しています。例えばモバイル決済プラットフォームを提供するナイジェリアのOpayや、モバイルマネーでの国際送金を可能にしたガーナのChipperなどはアフリカ発ユニコーンとして有名です。

 最近では農業やヘルスケア、教育分野のスタートアップもモバイル決済などフィンテックを取り入れており、より多くの人が製品やサービスにアクセスできるようになっています。ガーナの医薬品卸売スタートアップであるmPharmaは、提携している薬局で患者が薬を購入する際に、代金の一部を支払えば、即座に薬を手に入れることができ、残りの代金は収入を得た時や金銭的に余裕が生まれた時に返金できる仕組みを提供しています。支払いに使われているのはmPharmaのモバイルマネーで、患者は薬代をきちんと支払えばモバイルマネー上で一定のキャッシュバックを受けられます。必要な薬をなかなか手に入れられなかった人々にも薬を届けられる有効な手段であり、mPharmaはこの仕組みを通じて、現在までにアフリカ6カ国、約200万人以上に薬を提供しています。ヘルスケア分野において非常に大きなインパクトを生み出していることは疑いようがありません。

 インパクト投資はこれまで環境や社会的意義はある一方で、大きな金銭的リターンが見込めないものが多いと考える投資家や金融機関は少なくありませんでした。しかし、ここで例に挙げたアフリカのスタートアップは、大きなインパクトを生み出しながら、ユニコーン企業にまで成長しています。事例に挙げたスタートアップ以外にも、環境・社会へのインパクトと金銭的リターン達成が十分可能と見込まれるアフリカ発スタートアップは多いと考えるベンチャーキャピタルや投資機関は少なくありません。最近ケニアとウガンダのアクセラレーターに話を聞いたところ、インパクト投資を理解しているスタートアップも徐々に増えてきており、自らの事業がSDGs達成にどのように貢献しているのか、どのように成果・効果をモニタリングするかなどを具体的かつ積極的に投資家にプレゼンするようになってきたとのことです。経済同友会の「アフリカ投資機構(仮)」は、2022年内を目途に運用会社を設立し、2024年には100億円~150億円規模での運用を目指すという計画になっています。どのようなスタートアップにインパクト投資が実行され、どのようなインパクトが生まれるのかに注目していきたいと思います。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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