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CSRを巡る動き:人的資本可視化指針案のポイントと企業への影響

2022年10月03日 ESGリサーチセンター


 2022年6月、内閣官房が「人的資本可視化指針案」を発表しました。2022年前半を見ても、2月から内閣官房で「非財務情報可視化研究会」が定期開催され、5月には経済産業省で「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~」が取りまとめられたほか、7月には、岸田首相が大企業の非財務情報について2023年度からの可視化を義務付けると表明する等、人的資本を巡って、さまざまな動きがみられました。
 内閣官房の指針案は、既存の基準やガイドラインの活用方法を含めた開示対応の方向性についても包括的に整理した手引きとなっています。指針を作成した背景、指針の役割、人的資本の可視化の方法及び可視化により期待されること、人的資本可視化に向けたステップ、等が記載されており、実際に開示項目を検討している日本企業にとって、本指針案を活用するメリットは大きいと言えるでしょう。
 本指針案のポイントとして大きく以下の2点が挙げられます。
①単に人的資本に関する定量的・定性的な開示を求めるのではなく、自社の経営戦略と人的資本への投資や人材戦略の関係性(統合的なストーリー)を構築することを求めている点です。本指針が本質的に求めている事柄は、人的資本に関する戦略をどのようにしてサステナビリティ経営に役立てるのか、また、経営者・投資家・社員等のステークホルダーの相互理解・対話に活用できるか、となっています。逆に言えば、単に人的資本に関する情報を開示するのみに止まるなら、企業価値向上には繋がり難いと言えるでしょう。
②開示事項の類型を「独自性のある事項」と「比較可能性の観点から開示が期待される事項」の2つに分けている点です。特に、前者については、開示事項と目指すビジネスモデル・経営戦略との関連性や当該開示事項を重要だと考える理由等に基づいた開示を期待しています。この考え方は、無形資産である人的資本だからこそ、自社の強み・独自性の打ち出し方が可能になるという発想に基づいています。本質的に企業の成長性・価値向上に繋がる部分の説明ということができ、投資家や政府が重視する事項と考えられます。

 本指針案の企業への影響をみれば、従来は対応を進めてこなかった企業にとっては開示項目の選定やデータ収集等の負担が増加することになるでしょう。また、人的資本に積極的に投資する取り組みは、設備資本への投資や営業施策と異なり、短期的な企業への収益貢献が見えにくいものです。このため、取り組みへの腰が引ける経営者も少なくないと考えられます。しかし、どのような企業にとっても人材が事業継続の鍵を握る時代を迎えています。人的資本を拡充していく取り組みの状況を可視化することは、改めて自社の中長期的な戦略をどう考えるか、そのために必要な施策を講じているのかを見直す良い機会になるといえるでしょう。
 また、ここ数年、日本では、働き方改革として長時間労働の解消や柔軟な働き方の実現等が推進されてきました。ただ、長時間労働の解消や柔軟な働き方実現を目的に、しゃにむに施策に取り組むのではなく、企業が人的資本への投資拡大や対応高度化を進めた結果として、社内システムや制度、文化、従業員の考え方が変容し、個人がより活力をもって働くことができる状況となることが望ましいでしょう。人的資本の拡充にあたっての制度設計を図るにあたっては、今回の開示指針の今後の施行状況や他企業の対応を注視していくことが重要と考えられます。

参考
人的資本可視化指針案 経済産業省

本記事問い合わせ:小林 建介


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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